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強引な「我が主」

「と、とりあえず離れて」


「あ、ごめんね?ちょっと苦しかった?さ、お嬢様、朝のお支度いたしましょうか」


ファビアン王子はファビエンヌにさらっと切り替えて言いながらベッドからおり、コルセットを手にとると


「まぁお嬢様紐を解いてしまわれたのですねぇ。一人で着られるようにこちらに小さなボタンがあるのですよ?」


あ、そういえばドリーに説明されたような気がする。

便利だね、すごくよかった。

ファビエンヌとコルセット締め合うなんて最悪だもの。


「もちろんお望みでしたらいつでもお手伝いしたいのですが、この件に関してはドリーに釘をさされてまして……」


「もちろん一人で大丈夫よ。ファビエンヌもお着替えしたら?」


ファビエンヌをぐいぐいと追い出してから着替えを済ませる。

支度をすませ窓からユレヒト港をながめていると

控えめにノックがある。


「おはようございます。朝食をお持ちいたしました」


ミゲルの声だ。


「お嬢様はすでにお支度お済みでございます」


ファビエンヌが答える。

従者により扉があき昨日と同じようにトレーを捧げもつミゲルが入ってくる。

さらにもう一人の従者もおずおずとトレーを持って続く。

ミゲルのトレーにはグリーンサラダにスクランブルエッグにソーセージに柔らかそうなパン、そして香り高い紅茶。

従者のトレーにオレンジに林檎。そしてカッティングが見事なクリスタルのボウルに様々なベリーかこんもりと盛られている。


「昨日はお嬢様のお好みも伺わず失礼いたしました。朝食もまだお好みは伺えておりませんが、せめてフルーツはご用意いたしました」


ミゲルが綺麗な一礼のあと気遣わしげに告げる。

これって昨日ファビエンヌが聞こえよがしにいった嫌味が早速反映されちゃってるの?

人質相手にこの応対ってなぜかしら……


「朝食を召し上がりましたら、我が主のもとへご案内致しますのでそのおつもりで」


何かたずねる間もなくミゲルは出ていってしまった。

いったい「我が主」ってどんな人なんだろう。



「お嬢様、食欲があまりないのはわかりますができるだけお召し上がりくださいませ。お身体にさわるといけません。え?はぁ……お屋敷のお茶ででたようなスミレの花の砂糖漬けがアクセントに飾られたチーズケーキが召し上がりたい?まぁ無理ですわ。」


ちょっとちょっと!それ昨日もやってくれちゃったわよね!


「……ファビエンヌ、あなたの好みを私の我儘のように高らかに叫ぶのはやめていただけるかしら」


小さく言って思わず軽く睨むとまたまた耳許に顔をよせてきて


「船から出なきゃ調達できない材料のメニューをわざとリクエストしてるんだよ。本当に通るとは思わなかったけどさ。多分今朝早くに誰かがフルーツを買いにいったはずだよ。。カイル達は絶対尾行して何らかの情報を得てると思う。」


なるほど、大いに意味があったのね。失礼したわ。

ですが耳許攻撃はなるべくソフトにお願いします。

私達は「我が主」との対面に備えて朝食をしっかりいただいた。


「お嬢様、もう少しお髪を整えますね」


「え?ファビエンヌそこまで見苦しくはないと思うけど」


「はい、もちろんでございます。ただこちらに編み込みを入れたほうが良いと今思いつきましたので。コテを温める火もないですからお髪をいつものように巻けませんもの」


今度は熱源を要求?

いつもお考えあってのことでしょうから何も申し上げませんが、編み込みが上手な王子ってどうなんでしょう?

私が自分で緩く一つに纏めていたものをファビエンヌがほどき、

前髪から耳上までヘアバンドのように編み込んでくれて後ろの髪を大きく緩い三つ編みにしてアレンジしてくれた。

ありがとうファビエンヌ、私より女子力高いのね。


ファビエンヌがリボンを結べば完璧なのにとぶつぶつつぶやいている最中にノックと共にミゲルの呼び掛けがある。


「ご準備よろしいでしょうか?ご案内いたします」

私は手を握りしめ立ち上がる。

ファビエンヌが私ににっこりと微笑みながら頷く。


「さあこちらでございます」


ミゲルが来た時と同じ階段を上がって行く。

また甲板にでた。

今日は晴れて風が気持ちいい。

甲板には昨日とはうってかわって従者達と同じように日に焼けた屈強そうな男達がいて畳まれた帆の点検や甲板の掃除をしている。

私達が甲板にでると一斉にこちらを見るがミゲルが手を一振りするとまたそれぞれの作業に戻る。

甲板を横切って船の手摺と船室の間を船尾に向かって進む。

船尾にある船室の扉を開け少し進むと地下に続く階段を下りると一つだけ扉がある。


「お連れいたしました」


ミゲルが短く声をかけると扉が開いた。

中はかなり広く窓も大きくとられている。

異国の織物だろうか?

豪奢な蔦模様の絨毯が敷かれ、家具は私達にあてられた部屋と同じ黒い塗料で塗られたもので統一されている。

部屋の奥に立派な執務机がありそこには燃えるような赤髪に琥珀色の瞳をもち、この船の屈強な男達よりもさらに逞しい大きな男が組んだ足を机に投げ出しゆったりと座っていた。

その男はその琥珀色の瞳でじっとこちらを見つめてくる。

ミゲルが執務机の手前の応接セットのソファーにかけるよう促すので淑女の礼をとってから座る。

ファビエンヌは私のすぐ後ろに控えている。


「よくこられたリア嬢よ。私は海の向こうマシリト国の王シド。わが国ではくだらん敬称はつけぬ。無駄に長い名前など無用。シドと呼べ。ミゲルは我が弟だ」


いいながらもなおもじっとこちらを見つめてくる様子はまるで虎のようだ。

あ、ミゲルは弟なのっ?ふーむ、そんなに高位の人にお世話されちゃってたのね。

とんでもない目力に圧倒されながらも


「お初にお目にかかります。キプロス王国ギーズ公爵家が長女、リア・アルベルティーヌ・ギーズにございます」


よけいなことは言わずに最低限の挨拶だけにとどめる。


「単刀直入に言おう。我が国はいまめざましい発展をとげている。高い技術を持つからな。ところが我がマシリト国はせまいのだ。暮らし向きは悪くないがもっと広い国土や産業の材料が必要なのだ。キプロス王国は広い国土をもて余しておろう?ブルーテ王国も様々な原料は豊かだが産業の発展にはまだまだ伸びしろがあるはずだ。我が国の技術力の高さをもってすれば様々な発展が可能だ。

まぁ早い話がキプロス王国からは土地をブルーテ王国からは原料をいただきたい。神に選ばれし我が国の支配を受けた方が国の民も結果としては幸せだろう」


満足そうに一人で頷きながらおっしゃいますけどずいぶんと自分勝手な論理だわ。

かなり不快ね。


「お言葉ではございますが、力で突然他国の支配を受けても民は幸せになれるとは思えませんが」


「我が国の技術の高さを見ればそのようなこと言えなくなるさ。キプロス王国のファビアン王子の実態は菓子ばかり作っている無能者だ。ブルーテ王国のもの達はこちらの力を見ただけですぐに条件を飲む腑抜け揃いだ。キプロス王国を調べる内に筆頭公爵家であるリアよおまえの家の領地その他諸々の経営がずば抜けてよいことがわかった。その原因はリア、おまえの頭脳だな?」


さらに圧をかけて私を見つめるシドに向かって言う


「何をおっしゃられているのかわかりませんわ。私はただの娘にすぎません。頭の中は夜会で着るドレスや甘いお菓子のことでいっぱいでございます。それにファビアン王子は大変な賢者でいらっしゃいますし」


「ふん、とりあえずの模範解答などいらん。調べはついているのだ。私は共に政務を執り行える賢い妃をさがしている。だからおまえが欲しい。今この場で震えもせず私から目をそらさずに受け答えするだけでも十分。それこそ頭の中は甘い菓子で一杯のふわふわな王子などやめて私と共に大国を築くほうがよっぽど面白いぞ」


間違ったぁ!

令嬢なら震えて俯くくらいがちょうどよかった!

それにしてもいきなり妃にこいなんて強引さもここまでくるとあっぱれだわ。

あーもーめちゃくちゃムカムカするわ!


「畏れながら再度申し上げます。ファビアン王子は大変な賢者でいらっしゃいます。また人格者でもあられ私は尊敬し、お慕い申し上げております。またキプロス王国は乗っ取られるような簡単な国ではございません。何より自身の思い込みだけで強引に事を推し進めるような筋肉質な方法をとられるような殿方は視界に入れるにも値しないと考えます」


乾いた笑い声が響く。


「面白いぞ。ひねりのきいた嫌みが小気味良いな。気の強さも申し分無いな。ますます気に入った。それにそのありあまる才を霞ませるほどおまえは美しい。その美だけでも傾国の価値がある。結論から言うのが私の悪い癖だがおまえに我が国に妃として来てほしいのだ。婚姻はおまえが私を欲するまで待つ。だかこのままおまえを連れて行く。出航は明日だ。国に着いたらもう少し自由をやるし、アレグラとやらとも会わせてやろう」


「そもそもの目的はなんなのでしょう?アレグラ様はご無事なのですか?アレグラ様は何故連れて行くのです?」


「くどいな。おまえを手に入れるのとキプロス王国とブルーテ王国の侵略すべてが目的だ。アレグラを何故狙ったか?アレグラは実際は一国の妃にも値するが表向きは娼館の娼婦だ。警備も突破しやすいからな。城にいる王族をダイレクトに狙うより容易い。おまけに機密情報の宝庫だ。アレグラを奪い書状にあのように書けば、ファビアン王子かおまえあるいはカイルがくるだろう?一番はおまえが来てくれることだが他の二人がきたならおまえと交換するまでさ。どう転んでもいいように策を練るのが好きでな、初めにファビアン王子の極秘留学を知った時に平行してアレグラ略奪も進めていたのさ」


ううっ単なる脳筋野郎じゃないのねぇぇっ?!

どうしよう?


「この船なら10日ほどでマシリトに着く。緑豊かなところだ楽しみにするとよい。欲しいものがあればミゲルに言っておけ。明日の出航までには手に入れておこう。そう睨まずとも決定事項だ。恨むなら弱腰のファビアン王子を恨め」


何ですって!!

あ、あら?後ろからブリザードが吹き荒れてるのは気のせいかしら?

ファビエンヌここは絶対抑えてね?!













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