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ひとまずは緩やかな人質

大きめの船だ。

少なくともリュカの船の倍はありそう。

そういえば申し訳程度の荷物が入ったトランクをファビエンヌがずっと握りしめていたのを男の子がさりげなく持ってくれる。

男の子の先導で立派なマストが何本も立つ広い甲板を横切り船の下部へと続く階段を降り奥まったところにある一室に案内された。

途中人払いがされているのか誰にも会わなかった。

振り返ると先ほどの従者が二人共に距離をとってついてきている。


「こちらのお部屋の左右に続き部屋が二つございます。そちらが寝室で仕切りの奥にバスタブがございます。あちらの奥は侍女殿のお部屋です。すぐにお茶とお食事をお持ちいたしますのでどうぞおくつろぎくださいませ」


男の子は綺麗に一礼すると出ていった。


案内された部屋は一見すると無地に見えるユリの地模様が織り込まれたベージュの壁紙に、深いモスグリーンのビロード張りのソファーセットが置かれ、チェストやテーブルは黒い艶やかな塗料で塗られた家具で統一されている。

とても小さいが窓があり、すっかり日がおちたユレヒト港がのぞく。


ファビエンヌを見ると目線で扉を示す。

やっぱりさっきの従者がそのまま見張りについているのだろう。


「お嬢様、先ずはお掛けくださいませ。」


ファビエンヌに促されソファーに腰を下ろしてみる。


「いったいこの先はどうなってしまうのかわかりませんが、私はお嬢様にどこまでもついてまいります」


声音は真面目だが目は部屋のあちこちを確認し、胸元に手を入れて何かをさがしている。あきらかに扉の外の見張り役の従者に聞かせる為なのが丸わかりだ。

探し当てた何かをスカートのポケットに入れると

両手を胸の前で組みさらにいいつのる


「お嬢様、あまりの恐怖にお声もだせないのですね?お疲れでしょうから今日は早めにおやすみになるとよろしゅうございます」


ファビエンヌの悲痛な嘆きの最中にノックがあり男の子がトレーを捧げ持つようにして入ってくる。


「本日はもう遅いですから簡単なもののご用意ですがお好みがございましたら何なりとお申し付けくださいませ。もちろん毒などございませんのでご安心を。わが主は明日リーズ公爵令嬢様にお目にかかる予定でございます。」


事務的に告げながらてきぱきと給仕をしていく動きには無駄がない。


「承知いたしました。ところでアレグラ様はどうされてますでしょうか?」


どうやら紳士的な対応をする方針のようなので、

一番知りたかったことを先ず聞いてみる。


「はい、アレグラ様には別のお部屋で同じようにお過ごしいただいております。私が申し上げられるのはこれだけでございます」


さっきは可愛いかったのに面白くないわね。


「貴方、お名前を伺っても?このようにお世話になってお名前すらわからないなんて……心細い私にせめてお名乗りいただけないかしら?」


さっきと同じように小首をかしげ問うてみると


「わ、私の名前など……。

み、ミゲルです」


耳が真っ赤だわ。もう一押しかしら?


「ミゲル、アレグラ様は私のお話し相手として連れてこられてしまったのではないですか?巻き込んでしまったようで私心配なのですわ。お部屋はお近くかしら?」


まばたきしながらミゲルの顔をのぞきこんでみる。


「は、反対側…いえ私の申し上げられることはございません」


まぁやっぱり可愛い。

あら、ファビエンヌが恐ろしく無表情になってるわね。


「あとは失礼ながら侍女殿にお任せいたします。お二人でお召し上がりくださいませ」


顔を赤らめたままミゲルと名乗った男の子はまたも綺麗な礼をして出ていこうとしたところファビエンヌが近づき声をかける


「恐れ入ります、食後の後片付けなどはどのように?のちほどお嬢様のためにお湯はいただけますでしょうか?」


ミゲルははっとした様子で


「失礼いたしました。いずれも扉の外へ一声かけていただければお片付けもお湯の用意もすぐにいたします」


そして今度こそ一礼して出ていった。

ファビエンヌはテーブルの上をいちべつしポットから紅茶をそそぎ、一口飲んだ後で私に手渡してくれる。

サンドイッチに野菜のスープに梨のコンポートが並んでいた。

それぞれ一口ずつ食べてから目で食べるよう促される。

毒味かな?ありがとね。

サンドイッチをなんとか咀嚼しているとファビエンヌが耳許でささやく


「リア、俺は今日の夜の内にアレグラ嬢の部屋の特定とこの船全体の把握をすませるよ。リアはお湯を使ったらすぐに眠るといいよ。」


いや、ち、近いよ。

びっくりする間もなくファビエンヌは声を張り上げ気味に


「お嬢様はやはりフレッシュなフルーツじゃないとお口に合わないでしょうか」


「え、そんなことないわ」


私、そんなわがまま設定いらないわよ!


「本日は仕方がないですわね。さぁお湯をお願いしますのでもう少しお待ちくださいませ」


ファビエンヌは扉を軽く叩き


「恐れ入ります、食器を下げていただいて、お湯をいただけますでしょうか?」


細く扉が開きファビエンヌがトレーを渡すと見張りの片方が受けとる。

ほどなくして扉がノックとともに開きあの従者の一人が大きなたらいになみなみとお湯を入れ運んできた。

ファビエンヌがすかさず

従者に向かって


「さすが殿方はたくましいのですねあちらに置いていただけますかしら?」


従者は可憐に両手を組みしなを作るファビエンヌにまたやられている。

よくやるわよねぇ。

冷めた視線を送ってしまってたらしく扉が閉まったとたんにまたしても耳許で


「リアだってミゲルに同じことしてたよ。もう禁止だからね。ほら早くお風呂入って、俺はこっちで見張りを見張ってるから。それともお手伝いが必要ですか?」


なんですかそれ……


「わかったわ」


とりあえず私にできることはなさそうなのでおとなしく奥の部屋へ行く。

さっぱりした後、なんだかんだでトランクに入ってた夜着を自分でだして羽織る。

いまのところ怖いこともなくまるで普通のお泊まりみたいに過ごしてる。

これからどうなっちゃうんだろ。

私、ちゃんと役に立てるのかな……

夜着で居室の方へ戻ると、あれ?ファビエンヌは?

慌ててもう一つの部屋を確認するけど誰もいない。

見張りがいるだろう扉の外は相変わらず静かだ。

急に背筋が冷えるまさかファビエンヌに何かあったの?!













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