美貌のフィクサー
馬車に乗り込むとファビアン王子が心配していた。
「館の主人がリアに失礼したって謝ってたけど大丈夫?」
館って言いましたね、宿とは言わないんですね。やっぱりあそこが娼館だとわかっている…要は以前に行ったことがある…ってことよね?!なんかモヤモヤしてきた…まさかファビアン王子かカイルお兄様がアレグラを呼んでいたのかしらっ?!それとも他の女性がお相手をしたのかしら?!!
「美しい女性が訪ねてらしたけど、私も一応女ですので…本来のおもてなしではなくお茶のおもてなしのみお受けしましたわ。あの館随一のアレグラ様の薔薇のジャム入りのお茶をとっても美味しくいただきましたの。」
「アレグラからお茶を淹れてもらえたの?リアすごいよ!アレグラに気に入られるなんて!」
悪びれる様子もなく感心するファビアン王子にますます苛立ちが募る!
アレグラを知ってる!
じゃ、じゃあファビアン王子はアレグラと…?!
う、あれ?すごくすごく嫌かも……イヤって言える立場か私?なんて言えばいいのかわからずファビアン王子を睨んでしまう
「あの部屋で薔薇のお茶を淹れてもらえるのはごく一握りの人間なんだよ。彼女のお眼鏡にかなった人格と美しさを兼ね備えた人物だけだ。アレグラはあるラインにおいてはフィクサーと言っても過言じゃないよ。薔薇のジャムの味はどんな?詳しく教えて。」
なんて能天気にペラペラとっ!!私の中で何かが切れる音がする…
「ファビアンの方がよっぽどよくご存知でしょう?どんな場所か知ってたら一歩だって足を踏み入れなかったわ!どうやらアレグラ様のお部屋へ案内されるのはファーブ!あなたの方だったのね!とんだ手違いだわ!これは侮辱よ!ドリー馬車を止めてもらって頂戴。私帰ります!」
私は頭に血がのぼり、走る馬車の中で勢いよく立ち上がりファビアン王子に向かって倒れこんでしまう
ファビアン王子は私をしっかり受け止めそのまま抱きしめると、一言、一言区切るようにゆっくり話はじめた。
「あの館はね、しかるべき会員3名の紹介がなければ入れなくてね。近隣諸国の高官が密かに集うクラブの役割をはたしてるんだ。娼館を隠れ蓑にしてるってわけ。もちろん情報収集や表立ってできない外交のあとそのまま女性と部屋に籠る者もいるけどね。会員が集う広間でアレグラと言葉を交わしたことはあるが、それ以上はあり得ない。もちろん他の女性とだってあり得ない。」
いつの間にか私は頭を撫でられている。ファビアン王子の肩に額をつけると初めて会ったときにも嗅いだシトラスとベチパーのような香りがする。
「すぐには信じられません…」
「ちょっと嫌な言い方になるけど、俺はやっぱり王子として国を背負っている。だから他から何かで後ろ指をさされたり、つけこまれたりする事は国の不利益に直結してしまうんだ。仕掛けられたトラップをうまく避けるのはもちろんだし、自らも下手を打つ事がないように日常の何気ない会話も気をつけているのが実情だよ」
「疲れますね…」
「カイルだって似たようなものだよ?彼ぐらい将来を嘱望されて家柄も良いと政治的に潰されるのを気をつけるばかりか、自覚の無いハニートラップもごろごろしてるからね」
なるほど…夜会でも令嬢達からそれとなく逃げてたな
「俺、リアに男認定されてて嬉しいっ。また機会があったら連れていくからアレグラに薔薇のジャム分けてもらえるように頼んでもらえない?」
さらに力を込められ嫌でもしっかりした胸板を感じてしまう。
「それはできるかわかりませんが、貴族の高官に嫌な思いをさせられるような事があったらアレグラ様の名前を出していいと言われました」
「うわ、凄い!場面によってはかなり協力な後ろ楯と情報源を得たことになるよ!もちろんそんなの使う場面に立たせるつもりないけどさ」
「はぁ…」
「納得してくれましたか?」
「さあ、さあ、もう十分でございます。ファビアン様すぐにリアお嬢様をお離しくださいませ」
ドリーがとてつもなく怒っております。