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いばら姫館

「おはようございます。ファビアン様、リアお嬢様。すがすがしい夜明けですなぁ」


ディミトリがファビアン王子にウインクしながら馬車から出てきた。


「リアお嬢様、一旦こちらでお髪を整えさせていただきます。」


ドリーがきっちり身支度を終えた姿で、馬車の側に立っている。下ろし髪が乱れているのとコルセットを外しているのを急に思い出し、そそくさと馬車に戻る。


「ドリー、起きてたの?一緒にお茶飲めばいいのに」


「お嬢様、昨夜のような食事は例外でございます。こんな野宿ですからね。基本は主と同席などありえませんよ。ま、今朝はファビアン様お一人で見張りをしていただいたのでご褒美がわりのお二人時間でございます。」


なんだ、皆様とっくに目が覚めてらしたのね。

お湯で顔を拭き、髪を緩く結ってもらい、黒のギンガムチェックの綿で仕立てられたさっぱりしたドレスに着替える。


「これはお部屋着ですが、緊急事態ですので動きやすいお召し物で失礼いたします。コルセットも外したままでいいでしょう。元々お嬢様はコルセット要らずですけどね。」


うーんありがたい。むしろずっとこれでいいわ。これなら走れる。いやご令嬢は走ること無いですね。


外に出てお茶とクッキーの簡単な朝食を済ませ、元の馬車に乗り込むとファビアン王子が眠っている。

緑のマッシュルームカットがお顔を隠していて形の整った口元と綺麗な顎のライン、そこにそえられた長い指だけが見える。


「私のストールでも掛けて差し上げて」


ドリーが無言で頷き、水色の絹地でレースの縁取りのストールを掛ける。女の子みたい!!

うーん、このヒト下手な令嬢よりもよっぽど

レースがお似合いだわ。

頭の中でプラチナブロンドに編集すると

バッチリだ。


ドリーと並んで座ると馬車は静かにスタートした。

綺麗な寝顔を見ているうちに私も眠ってしまった

らしい。


「リア、起きれる?眠ってるとお人形さんみたいだよ?睫毛ふさふさ~」


はしゃぐ声が煩い…


「睫毛ふさふさお人形仕様はファビアンです…」


言った自分の声で目が覚めた。


「あ、失礼しました。先ほどファビアン様が眠ってらした時それこそお美しくてらっしゃいましたし、掛けたストールのレースがあんまりにもお似合いでしたので…つい」


「もしかして、男認定してもらうところからはじめなくちゃいけない…のか俺?」


天を仰ぎ髪をかきむしるファビアン王子。

あの、頭、緑のモップみたいになってますよ…。


「お嬢様、こちらの宿でお湯だけつかってまた先を急ぎますのでどうぞ」


ドリーに促され入った宿屋は五階建ての大きな建物でエントランスが広く、凝った彫刻が施された手摺が続く階段が大きな螺旋を描いている。ファビアン王子とカイルお兄様達は二階に案内されていった。

私とドリーは三階の一番奥の部屋へ案内された。

窓には黒いレースと真紅のベルベットのカーテンがかけられ、同じ真紅のベルベットの布張りのソファーに獣を模した足のテーブルが置かれている。天井からは豪華なシャンデリアが下がる。マントルピースにもテーブルの上にも真紅の薔薇が飾られている。続きの部屋には天蓋付きの大きなベッドがあり、さらにその奥に浴室がある。大きなバスタブにはもうお湯が張られていた。


「この部屋ゴージャスだけどなんか違和感ない?」


「あまり長居するところではございませんのですぐにお使いくださいませ」


「わかったわ」


浴室へ行こうとすると、ノックがあり返事を待たずしてドアが開けられ令嬢風の女性が入ってきた。

部屋のしつらいに合わせたかのような真紅の胸元が広く空いたドレスを着て艶やかな黒髪を高く結い上げてたくさんのカールを垂らしている。ぬけるように白い肌に小さく真っ赤な唇、大きくて黒い濡れたような瞳を持っている。

二十代半ばくらいだろうか?

顔をあげたその女性と思わず見つめあう形になった


「まぁ、あなた新入りかしら?お付きのメイドまで持っているの?残念だけど部屋を間違っているわ。この館で一番の黒薔薇の部屋は暗黙の了解でほぼ私専用のはずだけどご存知ないの?私はこの館のナンバーワンのアレグラよ」


「館の主人には話を通してございます。ただいまからお湯をお使いになられますのでお引き取りくださいませ」


ドリーが丁寧だがきっぱりと言うと


「私を見て、この部屋と私はコーディネートされてるわ。あなたは二階の銀の間にでもいったらいかが?ドレスの色気と胸の育ちが足りないみたいだけど二番目に贅沢な部屋でとても上品なの。あなたのみごとな銀髪にぴったりよ。あなたまるで妖精みたいね」


「なるほど、ここは美しい女性を呼んでもらうこともできるのね。あなたはほんとに真紅の薔薇のようですもの。申し訳ないけどお湯が冷めちゃうからちょっと使わせてくれないでしょうか?」


「あら、褒めてくれてありがと。だけどどうしても他の部屋を使って頂戴。私はお客様がくるから急いで降りるよう言われてきたのよ?専属だから上に住み込みなの。なんでもすごく高位の貴族が突然来たらしいわ。あなたも呼ばれたの?」


ドンドンと慌てたようなノックがありまたしても返事を待たずしてドアが開いた。


「アレグラちゃんっ!アレグラやっ!ああごめん、ごめんよぉ!私の早合点でただの旅の休憩のご一行だったんだよ」


宿屋の主人らしい男がほぼ駆け込んできた。見つめあっているリア達を目の前にしきりに頭をかいている。


「やぁだ失礼しちゃう!まだまだ眠ってる時間なのに10分で降りて来いなんて慌てたわよっ」


アレグラは腕を組み顎を上げる。


「おっお嬢様、申し訳ございませんです。ご不快な思いをさせてしまいましたっ!」


宿の主人はこちらに平謝りに謝り続ける。


「使わせていただいてもよろしいですか?」


アレグラに向かって聞いてみると


「いいところのお嬢様だったのねぇ。おかしいと思ったわ。あなたお高くとまってなくて気持ちの良い方ね。この通り次々と人が入ってきて危ないわ。

何かのご縁よ、私が見張っててあげる。ごゆっくりどうぞ」


アレグラは優雅にソファーに身を沈め、宿の主人に出ていくよう言った。


「ありがとうございます。では遠慮なく。ドリーお願い」


「は、はいお嬢様」


大きなバスタブで髪までしっかり洗いさっぱりしたところでアレグラから声がかかる。


「髪が乾くまでこちらでお茶をいかが?バスローブででてきて大丈夫よ」


「ありがとうございます。お言葉に甘えます。ドリー替えのお湯がたっぷりあるわ、あなたも入って、時間短縮になるし」


「私は使用人の部屋へ行きます。」


「本当にいいわよ。私お茶をいただくからその間に入っちゃって」


しぶしぶ頷いたドリーを置いてアレグラのところへ行くと、テーブルにサンドイッチにアップルパイにお茶が用意されていた。


「ここって料理人もいるけどメインの営業が夜だからまだ寝てるの。これくらいしか用意できなくてごめんなさいね。材料は一流だから味は保証するから」


「とんでもないです。いただきます。」


今は食べられる時に遠慮なく食べていかないとね。


「このお茶はこの部屋だけのおもてなしで薔薇のジャムを入れてるの」


アレグラは私のカップにひとすくい薔薇のジャムを入れてくれる。どうにも胸元が迫るようで目のやり場に困る。


「どこから来たかもどこへ行くかも聞かないけど、この国はどこも治安が悪いわ。そのへんの宿屋はまったく信用ならないし、高級なホテルもないし、穴場かもね?宿代高いけど。また通ることがあったら寄って頂戴。私美しいものは男女問わず好きよ」


「ありがとうございます。私の名前は…」


「ダメよ迂闊にフルネームを名乗っちゃ。悪い人間に利用されるわよ」


「…っ、ありがとうございます。リアと申します。」


「うん覚えとく。私達は私達なりのプロ意識があってお客をもてなしてる。でも大抵の人間は私達を

見下してる。あなたのように偏見を微塵も感じない人はめったにいないわ。いばら姫館のアレグラと言えばこの筋では名が知れてるの。近隣諸国の大貴族様もお忍びでいらしてるから私を知ってると言えば閨の醜聞をばらされたくなくて黙る輩も大勢いるはずよ。覚えておいて損はないわ」


「まぁ…」


「話さなくてもいいことよね。でももしかしたら役立つこともあったりして。あら、メイドさんのお支度は済んだみたいよ」


「あの、サンドイッチの残りを持っていってもいいでしょうか?」


「ふふ、ますます気に入ったわ。そちらのメイドさんの分よね?もちろんいいわよ」


着替えてまだ湿り気味の髪はカチューシャでごまかしておく。


「美人のアレグラさんにおもてなししていただいてドキドキしちゃいました。ありがとうございました」


「気をつけてね。私達はお部屋でお見送りのきまりなの。下までいけないからここで」


「はい、では失礼いたします」


エントランスには主人が揉み手で待っており


「先ほどは大変失礼いたしました。お連れ様達はもう馬車にお乗りでございます。ありがとうございました。」


世の殿方の秘密を垣間見ちゃったわん。

んん?あれ?ファビアン王子はどうしてここをご存知なのかしら??











































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