ひっそり願望について
「うん、食べてくれるほうが嬉しいよ。目の前では小鳥みたいに少ししか食べないで、夜食とお菓子を後で沢山食べてるご令嬢を何人も知ってる。俺にそういう小芝居はいらないから」
なるほど、色々お見通しなんですね、ファビアン王子。なぜ何人もの令嬢のそんな姿を知ってるのかちょっとだけ引っかかる感じもしますがスルーしときます。
私が一口をゆっくり味わっているうちにファビアン王子は一人頷きながらあっという間にメインをたいらげてチーズを切り分けている。
私も慌てて残りのうずらをもぐもぐ…美味しい。しかもうずらさんには何ヵ所も切れ目が入れてありとっても食べやすくしてある。
「ゆっくり食べて。俺はこのワインをもっと楽しみたいから」
はぁ、大人ですね、女性のこともよくご存じのようですしね。
「リアはこの後ケーキのほうがいいでしょ?」
王子が私の顔を覗きこんでくると、マッシュルームの前髪が割れて目があってしまった。
そのまま深いブルーの瞳から視線を外せずにいると
目を細め口元をきれいな弓形にして言う
「俺、見つめられると約束守れないけど?」
見つめてない!王子!目が離せなくなっただけっ!
慌ててぶんぶんと首をふれば
「そこまでイヤ?」
長い指で髪の毛をかきあげつつ瞳を悲しげに細める!!
破壊力MAX!
「い、嫌とも良いとも思っておりません。」
「それ、その冷静なところ好きだけど、まだなんとも思われてないなんて普通にへこむな」
言いながら椅子を立ちすっと私のすぐ横に座り、右手を両手で包みこまれてしまう。
「少しは俺のこと考えてくれてる?」
近いっ、近すぎ!
手!手を握ってる!
さらに王子が軽く眉間にシワを寄せながらじぃーっとこちらをみつめながら顔を近づけてきてついに心臓が限界!
「ファ、ファビアン?!ファーブ!ちょっと!近すぎ恥ずかしいっ!」
思わず手を引き抜いて少し離れる。あーびっくりした。ふ
「あのですね、普通でしたら社交会にデビューして二年もたってますからもっと殿方に免疫もついてると思うんですけど、何故かお相手してくださる方は年上の方かお兄様ばかりで、その、お若い方とはあまりお話したことがないんです。それにファビアン様はあまりに美しいので…」
「ごめんリア、やっと普通に話せるから嬉しくてさ。ずっと見てるだけだったから…ね?」
そう言ってもう一度顔を覗きこんでくる。
目を合わせないように気をつけながら王子の前髪を手ですいて整える。
これで安全だ。
「私は人を一面で判断したくありません。なのでファビアン様の色々な面を知りたいですし、私のことも知っていただきたいです。その上でお互いに正しい判断ができればいいなと思っております。ただ美しく若い貴公子との免疫があまりありませんので普通にお話できるようになるまでもう少しお待ちください。」
「わかった。なれたら、『様』をとるどころかファーブって呼んでくれるんだね!!それにこの髪気に入ってくれたんだ!」
なんかちょっとこのヒト犬に見えてきた。
「色々隠せて便利だと思います。」
「リアって本当予測のつかない反応するよね。普通の令嬢はこの髪見てあんな笑わないよ、嫌がって触るのなんかもっての他だろうな。俺の中身は変わらないのにさ、リアの人を一面で判断しないのは素晴らしいし俺もそうしたい。」
「髪型は苦肉の策ですのに、失礼しました。私の免疫の無さにも役立ちます。」
「じゃあしばらくこれで行こう。さあリア、デザートは食べ放題だよ」
そう言ってワゴンの下段から一口サイズのケーキにパイ、クッキーにチョコレートの載った大きなプレートを出してくれ、熱い紅茶も入れてくれる。
そしてまたもや横に座り、チョコレートを一つつまむとお約束のように
「はい、どうぞ」
なにこの羞恥プレイは!
「自分でいただけます。」
「この前は食べてくれたのに?」
「この前はなんだか断れなかったんですっ!頭の悪いカップルみたいじゃないですかっ」
あ、つい本音がでてしまいました。
「…なるほど…いやそれは失礼した、俺の中の食べてもらいたい気持ちが溢れただけなんだよね。俺だって本当はリアに免疫ないし…」
みるみる顔が赤くなる王子。私に免疫?なんですかそれ?
「もういいよ。この前は暗かったからよかったんだ。このチョコレートは新作でリアに一番に…」
なんだかファビアン王子がうなだれてかわいそうなので王子の手からチョコレートをつまんでぱくん。
かじるとクリーミーな中に
サクサクするものがあって新食感!
「ん!このサクサクはなんでしょう?ナッツや何かのゴツゴツしたものとは違うしとっても上品。初めてですこんな食感。美味しい」
「クリーミーさを邪魔しないサクサクが食べやすいんだ」
自分でもつまんで食べながら
「このバランスで決まりかな…」
なんてつぶやいている。
「ファビアンがリクエストして作ってもらったの?甘い物が好きなの?」
「ひとかけらの砂糖でも、甘い物ってすごく人を幸せにしてくれるだろ?もの凄い力だと思うんだ。いきなりメルヘンな痛い男だと思われると困るんだけど、甘い物を一緒に食べてれば争いも起こらないって考えてるんだよ」
ファビアン王子のまわりになんとなくキラキラしたオーラが見える気がする。
「そこまで甘くないのが現実ですが、王や王子つまり国を統べる方が本気でそのように考えれば実現しない話ではないように思われます。少なくとも前回のフルーツケーキも今のこのチョコレートも一口いただくだけで甘い魅惑の世界へ連れて行かれますわ」
「ありがとうリア、実現できるよう頑張るよ」
「ええぜひ政策面に生かせるようお心を砕いてくださいませ。お菓子を作るのは料理人達ですけど」
「その、作ってるの俺だけど、イヤ?」
甘いのは顔だけにしとけ~って?!
なになにこのヒト予想外の技術もってるよ!
「す、凄い、お菓子職人で食べていけますよ!本当に本当にファビアンが作ったの?」
「まぁね、王子としてはむしろ隠すべき趣味だからカイルも知らない」
「もったいない、国の名産になるようなお菓子作りも夢じゃないかも。これは事業にすべきですわ」
「近い将来一緒に事業化を考えてくれたり、リアのセンスでパッケージなんかをデザインしてくれたら嬉しいな」
気がつくとまた手を握られている。
「国の為になることで、私が役立つことがあればもちろん協力はいたします。」
「嬉しいよ!これで事業のアイデアは一つできた。あともう二つか三つ事業化できるようなアイデアのヒントをブルーテで見つけてほしいんだ」
私の手をいっそう強く握りながら
「そして事業が一つでも成功したならすぐにでも『ひっそり』できるよ。公務はポイントだけにしてリアと可愛い子供の為にお菓子を作るよ」
あーあの勝手に結婚OKのお話になっちゃってますけど、もうお子も生まれてますね、思わずやや冷たい視線を送ってしまう。
「あ、わかってるよ結婚はまだわからないって釘を刺しておきたいんでしょ?俺必ずリアにイエスって言わせるから!それに『ひっそり』は俺の夢でもあるんだ」
そう言って私を見つめる目はあまりにも真剣で目をそらすことができずに見つめ合う形になってしまう
さすがに耐えきれずに目を伏せるとそっと抱き寄せられてしまった。
「俺、初めはリアの中身を好きになったんだ、外側がどうあれ愛する自信もあるんだけど、でも実際に見てるとあんまりにも君が美しいから心臓が限界。それなのに触れたくてたまらないんだ」
ファビアン王子の長い指が私の髪をすく。
抱きしめる腕に力を込めると
「あとでワゴン下げさせるから食べられるだけ食べてゆっくり休んで。おやすみ」
そう言って固まった私を残して出ていってしまった王子。美しくて心臓限界はこちらです。
呼吸困難もよく起きちゃいますから!
ぼうぜんとしているところにドリーが入ってきて
紅茶をいれなおし、お菓子のプレートだけを残して出ていった。
もう一つチョコレートをつまみ、お茶を飲んでベッドに入ったけどすぐには眠れなかった。