菫のお茶会
今日は朝から忙しい。
しつらえもさることながら、やっぱり身なりも整えなくちゃいけない。
まずはテーブルセッティング、昨日大慌てで作ってもらったクロスを敷き、
水揚げが悪くすぐにしおれてしまうので根ごとプレートに置きまわりを苔とグリーンで覆った菫のアレンジメントを飾る。
茶器は控えめに春の花達が描かれたもの。
お菓子はスポンジ生地に菫のリキュールで香り付けしたクリームをサンドし、上からもたっぷりとクリームをかけ、菫の砂糖付けをちりばめたケーキが主役。
お土産に菫の砂糖付けをまぜ混んで焼いたクッキーが用意された。
他にも甘いのと塩味のパイにサンドイッチやフルーツのコンポート等々盛り沢山。
私の今日のスタイリングは
ご令嬢のお二方とテーブルセッティングを花として、
私は葉っぱや枝になろう。
うん、いいね!
ドリーの技術を駆使してもらい髪をライムグリーンのリボンとともに編み込んでもらい、頭に巻き付けるようにして結い上げる。
茶のモスリンでふんだんにプリーツをとって仕立ててあるアフタヌーンドレスにリボンと同じライムグリーンのサッシュベルトを締める。
艶消しのゴールドの台座にペリドットを埋め込んだイヤリングをつけて完成。
ドリーはこの編み込みはできるものがそういないからと控えめなドレスのチョイスにも不満を漏らさず、ご満悦だ。
そうこうするうちに、
ヴァレリーとモニックがつぎつぎに到着した。
二人とも、私を見るなり、
「一昨日はひどいわ、カイル様を一人占めして見せつけたかと思うと、いきなりいなくなって、おまけに気がついたら帰ってしまうんだもの」
と愛らしくも思慮深さを湛えたグレーの瞳でストロベリーブロンドの巻き毛を揺らしながら、ヴァレリーが言えば、
「あなたの素晴らしい姿に会場中が注目していたわ、私も久しぶりにおしゃべりできると思って早く帰りたいのを我慢して、待っていたのにとっとと帰ってるとは思わなかったわ」
とこっちが注目してしまう
アイスブルーの瞳にほとんど白に近いプラチナブロンドを優雅に結い上げ一房垂らしたカールを指で弄びながらモニックが言う。
「はは、ごめんなさい。ちょっとというか、かなり事情が」
「きっとそうだと思っていたわ」
ヴァレリーが花開くような笑顔を見せれば、
「理由がなきゃ許されないわよ」
とモニックが艶然と微笑む。
「さ、まずは召し上がれ。二人の為だけのテーブルよ」
ヴァレリーは
ローズピンクのシルクにグレーのシフォンを重ねた生地で仕立てたドレスで、
スカート部分は何段ものフリルが施され、さらにそれぞれのフリルの下から繊細なレースがのぞく。首もとは同じく贅沢なレースが立ち上がり、花珠と思われるてりの好いパールのネックレスをつけ、耳には首より大粒のパールが添えられている。
うーん、愛らしさ120%のヴァレリーにぴったり。
モニックは深いブルーのドレスで、袖だけがふくらみあとはすっきりとしたデザインで、首もとはちょうどハイネックか、カラーのように、プラチナ台のサファイアのチョーカーを巻き、耳にはサファイアの一粒石のイヤリング。いやぁ圧巻ですな、クールビューティーのモニックだからこそのスタイリングですな。
し、しかし二人ともすんごく、お金のかかったコーディネート、
世の令嬢はなんて華やかかと感心しちゃってるとヴァレリーが
「いやーんなんてステキなセッティングなの!ありがとうリア」
と言ってふるふると頭を揺らせば、
「私が、王妃だったらあなたの才能にダイヤ一山だって差し出すわ。いつもいつも驚かせてくれるのね」
なんだかドキッとするワードを使いつつ、モニックが、またまた艶然と微笑む。
「二人が喜んでくれて嬉しい、今日もステキだけど、一昨日はどんなドレスだったのか見たかったな」
「やぁだ、リアの妖精を見ちゃったら私のコーディネートなんて見る必要なかったわよ。モニックはピンクの総レースのタイトなマーメイドラインのドレスで、おっきなダイヤつけてたのっ、誰でも着こなせるドレスじゃなくて物凄くステキなんだけど、殿方が気後れしてたわねっ」
はは、だろうね
「いいの、いいの、それくらいの壁は突破してくれる人じゃなきゃね?ヴァレリーなんてベビーピンクのシフォンのドレスでまるで砂糖菓子みたいだったけど、ネックレスが、ハートシェイプのピンクダイヤだよ!?はっきりいってあの大きさのピンクダイヤなんて滅多にでないわね。
殿方は単に可愛いって騙されるけど、どれだけの値打ちがあるかわかったらあんな風にでれっとなんかしてられないわ」
モニックは一口ずつ小さくカットしてケーキを食べてゆく、
「あら、つけてるジュエリーの価値がわかっちゃう夫なんていらないからいいの、デザインはほんとに可愛いいんだからぁ」
出ました、腹黒天使。
ヴァレリーは、おしゃべりしながらもハイペースで
ケーキを口の中に入れていく、
「リア、一昨日の薔薇はどうやってつけてたのぉ?」
「私もどうやってるのか不思議だった」
「ああ、あれね、お花が萎れないよう水を含ませた綿で切り口を上手く保護してるだけ」
さらに詳しく説明しながら
私もケーキを頬張る。
「今度、これぞと思う殿方のお母様に気に入られたい時にやってみるわ」
とヴァレリー
「私はみごとな薔薇が手に入った時にやってみるわ」
とモニック。
二人ともある意味突き抜けていて楽しい。
「ところで、早く帰った理由は?」
ヴァレリーは聞きたくて堪らない様子だ。
モニックは黙って私を見る。
「あのね、今はまだきちんと全部は話せないの。とにかく、ある人と会ったの、それと明後日からブルーテ王国へこのシーズン中は留学することになったの、ほんとに急なんだけど…」
これしか言えないっ
自然と声は震え、手を握りしめ、なんとなく涙目の私を見た二人は何かを察っしてくれたのか
「んー全然わかんないけど、話せないほどの事がおきたんだね?リアがいないシーズンなんてつまらないけど、モニックと待ってるわ」
とにっこりしてくれるヴァレリー
「私も同じ。なんの説明にもなってないし、さびしいけどほんの数ヶ月よね?突然で驚くけど、ヴァレリーと待ってるわ」
しっかりと頷いてくれながらモニックも言う。
わーん、二人とも物凄くありがたい!
待っていてね?
今は話せないのを許してね。すっきりして、今度はパイに手を伸ばしながら、ついでのように
「カイルお兄様も行くから一人じゃないんだ」
「えっ?カイル様も?!」
モニックが目を見開く。
あれ?モニックって殿方には興味無いんじゃなかったの??
「リア、カイル様も呼んでくださらない?」
ヴァレリーが私に目配せしてくる。
何?モニックって、お兄様のこと??
また驚いちゃったぁと思いつつ、ドリーにお兄様にお茶会に同席してくださるよう伝言してもらう
ほどなくしてドリーが戻ってきて
「リアお嬢様、カイル様は残務整理の為、王宮へお出かけになられているとのことです」
あきらかに落胆したモニックだったが、
「隠しようがなくなったから言うわ。お二人の想像通りよ、お慕いするだけでなく、尊敬もしてるの」
珍しく頬を染めながら、でもきっぱりと告白する。
「いいなぁ、思い人がいて」
ヴァレリーはほんとの天使の顔でうっとり。
私はモニックの堂々と告白する強さにちょっと感動。
政略結婚があたりまえの私達、ただ恋心が友達にわかってしまったのではなく、相手の妹の前で露呈したのだ。場合によっては私達の友情にも微妙な影を落としかねないし、思いを妨害されてしまうかもしれないのに、自分の思いを隠さないなんて清いなぁ
私もそんな風に誰かを思うようになるのかな?
「ねえ、その編み込みどうやってできるの?」
ヴァレリーがちょっと強引に軌道修正してくれて、私達は楽しい午後を過ごした。