お節介
5分もしないうちに立ち上がったツバサはハウンド達から見つからないようにする魔法と『観察眼』を自分自身にかけてから音を立てずに走った。
その場所はハウンド達の体液によって赤く染められていた。それを食べに来ている蛭、それが潰されて出る白い体液。死臭となにかが混ざった悪臭がハウンド達の住処に充満していた。
「くさっ…………」
ツバサは口をふさいでなるべく呼吸を止めて息を吸うのを最小限に抑えようとする。
探索魔法と道具《世界的に有名な先生の七つ道具》を使いハウンド達に何が起こったのか調べ始めた。まず探索魔法でハウンド達がこの洞窟に何体いるか調べる。それから一番変化の大きいハウンドと一番変化の小さいハウンドの違いを知るために《世界的に有名な先生の七つ道具》から聴診器と眼鏡を使う。眼鏡で息絶えたと捉えられるバウンティハウンドを見る。
(この距離だと見にくい、です……)
きらりと光る部分を見つけた。それは内臓と胃のあたりにある。眼鏡の縁を触って見る位置を変える。ハウンドの五臓六腑は人間のそれと酷似しているため医学書を読んだ程度のツバサでも処置ができそうだ。
ツバサはシグマから借りた《魔法のマント》を羽織った。このマントは着たものの姿を消すという魔法のマントだ。ただ、レア度が非常に高く入手困難だ。
(……行こう)
静かに決意するとハウンドたちの真ん中へ向かう。途中、暴れるハウンドたちによりマントが落ちそうになった。
「ココだよ」
「臭いから顔出さない、ですよ」
末っ子がポケットの中から顔だけ出して指したのはナショナルハウンドのメスがいる場所だった。
「ジメンからイヤなカンジする。トクにココ」
ハウンドたちの住処の丁度中心のところだ。
「じゃあ、そこを調べよう、です」
ツバサは穴を掘るための道具がないか探したがアイテムボックスの中にも持参してきたものの中にも入っていなかった。すると一体のバウンティハウンドがナショナルハウンドをどけてそこを叩き始めた。叩く、といってもそれは犬の穴掘りのようだった。
(このバウンティ、理性を保っている。)
ツバサはマントを脱ぐと穴掘りの続きをした。末っ子にはツバサがマスクを付けて穴掘りを手伝った。
掘り始めて5分もしないうちにツバサは違和感を覚えた。
「末っ子、隠れる、です」
このまま掘っていたら死ぬという直感みたいなものがツバサを次の行動に移した。ツバサは理性のあるバウンティの動きも止めてシムに協力を求めた。シムは人脈があるためツバサの要望に応えられることができた。ただ、用意するのに時間があると。
「できるだけ早く! 命がかかってる、です!」
『無茶言わないでほしいんだけどな……』
「無茶言ってることは分かってる。けど……」
ドゴッとバウンティのコブシがツバサの真横数ミリを通り過ぎた。ツバサはひゅっと息を呑んだ。
(これが当たってたら死んでた、です)
『ちょっ、大丈夫か!?』
「心配してくれるなら急ぐ、です」
ブチっと乱暴に切れたPhoneはリアルと似すぎだとどこかで感じた。
◆◇◆
「どこにいったんだろう」
イチはツバサを追って妖精の村にいた。妖精の村は小さいが複雑な造りをしている。ツバサを見失ったのは宿屋の前だ。
FriendlListからツバサの現在地を知ることにした。ストーカー地味ていて気が引けるが警護対象として信頼できるプレイヤーとして近くにいたい。その気持ちがイチの中で大きかった。FieldListを見るとツバサは妖精の村からさほど離れていない山岳地帯にいることが分かった。でもそこに生息しているモンスターはイチが倒せるほどのモンスターではなかった。
イチはツバサよりプレイ出来る時間が少なく、その為ツバサより15ほどレベルが低い。それにイチは主に戦闘訓練地域でレベル上げを行っていた為にバトルの実践経験はない。
「イチちゃん?」
イチが後悔で落ち込んでいると荷車を押している数十人のうちの一人が声を掛けてきた。イチが顔を上げると見知った人が軽く手を振っていた。
「シムさん! どうしたんですか、こんなところに」
「ツバサから頼み事されてね。用意するものも用意できたから、これからツバサのところに行こうと思っていたところだよ。イチちゃんは?」
「私はツバサくんを追いかけて……ここで見失ったんです」
「そっか。なら一緒に行こうか。 一緒に来てくれると心強いしね」
シムはそう言うとイチの手を引いて歩き始めた。
「ちょっ、シムさん……!」
「ツバサの所に行くんやろ? なら」
イチは何言っても聞かなそうなシムに呆れつつも逃げ出すことをせずについて行った。




