悪夢か、否か
しばらくS.Eの上空を飛んでいるとN.Eに近いS.Eの村にキャラバンの影を見つけた。サラマンダーから降りて近付くと探していた『Indra』のキャラバンだと分かった。
「いらっしゃい」
『knot』と比べて覇気がない。
「配線テープない、です?」
「……ねーよ」
頭を掻きながら接客するのはシグマだ。目の下にクマをつくっている。
「材料が足らないとか?」
「いや、そうじゃない。売り切れたんだ。材料にしてもしばらくいにしえの龍の尾が取れないんだ。配線テープは貴重品になってるからな。どうしても売り切れちまう。それに噂だと古の島もW.Eの山脈も他のところの修理やなんやかんやで配線テープが足りない。アンタはどこを修理してえんだ?」
「古の島、です。配線以外の修理はおわった、ですが……」
「古の島だったら少し前に来たアンタぐらいの奴が配線テープ持ってたぞ。双子か?」
「いえ……。 ありがとうございます」
ここでも、だ。ツバサとそっくりな人がツバサの行動の先を呼んでそこにいる。サラマンダーに乗り古の島に急ぐ。
「……一足、遅かったです、か」
ツバサは目の前に無造作に置かれた配線テープを見て呟いた。
そいつは本当につい先ほどまでここにいたのだ。テープを切る直前にツバサに気付き居なくなった。ツバサによく似た人。しかし、少し違っていた。シグマはそいつの一人称が「オレ」だったこと、左利きだったこと。今回のツバサのような話を前にも聞いたことを教えてくれた。
シグマに連絡を取ることにした。シグマはNPCだが、自我がある。このゲームの通信手段はメニュー画面から通信をタッチする昔ながらのやり方とVRに慣れたプレイヤーなら頭の横をタッチすると通信へ移動する。第1ルームに固定電話とPCが設置されている(VRの通信に固定されている)。
「……シグマです、か?」
挨拶もそこそこにシグマであるか確認する。
『その話し方、ツバサだな。何か用か』
「僕に似たそいつの情報は何か掴んでる、です?」
『いや、まだだ。こっちでも気になる話がないか探りを入れてる途中だ。オヤジ達がうるせえが連絡網使ってなんとかしてみる』
「頼りにしてる、です」
『悪いな。シムのとこより気性荒いからマトモなものは入ってこない気がするが』
「シグマとシムは仲悪いんじゃない、です?」
『シムが言ったのか? ……仲悪ぃのオヤジ達なんだ。そのせいでシムとろくに話せてねえがな。 ……もういいか?これから狩りなんだ』
「ありがとう、です。狩り頑張るです、よ」
通信を切るとサラマンダー(母)が15階まで上がってきた。飛ぶのはまだ翼が痛むから出来ないとのことだ。
ツバサとそっくりな人を見たかと聞くと----。
----見たよ、と。
「物音がしたと思ったら何処からともなく現れて、ここに来てなにか呟いた後、上に行ったよ。もういないみたいだけどね」
サラマンダー(母)は古の島に入った人の気配が分かるとのこと。何階にいるかはわかるが人数の詳しい情報は分からない。それが古の島のボスの特徴だ。
各フロアボス(古の島、W.Eの山脈など)にはバトル以外の能力がある。サラマンダー(母)のように……。
その日、翼は自分のゲーム----グランデオンライン----が誰かに奪われる夢をみた。知らぬまにこのオンラインゲームが改ざんされている夢。それを誰も気付かずに名前以外の全てが変わっている夢をみた。




