恐怖の終
「柚原先生、寮側の森から本館側の森まで誰にも見つからずに行けますか」
「行けることには行けます。でも途中で必ず誰かに会うことになりますし、柵を越えればなんとかなると思いますけど深山くん、伊藤さんを見てればそのような事をしない子というのは十分お分かりでしょう。柵を越えない方法になりますと霧織先生の園芸の一角、薔薇園を通らないといけません」
「、、、なるほど」
霧織先生の園芸は学園の名物にもなっているが関係者以外立入禁止の立て看板が出入口及び出入り口になりそうな場所に置いてある。万が一無断で入ると霧織先生の特殊である由縁が発動し瞬時に関係者か否か判断される。ちなみに関係者というのは先生方と園芸部員だ。来賓の方々をご案内する際に園芸場を紹介するのだが、その際は前もって霧織先生が承知している。
「園芸場には誰一人来ていません。深山、伊藤、両生徒が園芸部員ではないのであれば」
「二人とも園芸部員ではないので無断侵入になります」
俺ら先生方は二人のたどった道を同じように辿ると、一つおかしいと思う点が見つかる。
「ここ、おかしくないか」
俺が気付いたのは寮から本館の森に行く入り口だ。所々空間が歪んでいる気がする。
「空貝先生、ここ見てもらってもいいですか」
「はい。、、、この森全体にかけられた魔法科学です。中にいるのは、、、3人」
深山、伊藤、夏希の3人だな。
「3人ですと!御子柴さん、あと一人は一体、、、」
「研究生として研究棟にいた女性です」
「いた?」
「三年前に亡くなってるはずだ、、、」
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走っても走っても森から出られない。夏希から逃げられない。もう、僕もチハも限界だ。息が切れ足がもつれる。
「もう、むり、、、」
ついに、出てしまった。この言葉が。チハも頑張ってくれてたのに僕のせいで夏希に追いかけられているのに、、、。
「頑張ろ、ね。逃げなきゃ、殺される」
チハは警護課所属で体力は僕よりあるけど、何時間も同じ場所を全力で走っている。休憩なんて取れない、捕まったら殺される。だから疲れていてもこれ以上走れなくても走らないと。
「ごめん。ありがと」
隣でチハも頑張っている。だから僕も頑張る。
「あれ?」
僕が急に立ち止まるものだからチハの顔が背中にぶつかる。
「ぶ、急に止まらないでよ」
「さっきから同じ場所を走っているとしたらどうする?」
「?何言ってるのよ。わたし達は同じ森の中を、、、」
僕は木の傷を見せた。それはまだ夏希に追いつかれていないときに付けた傷だ。それを見てチハは止まった。
「もし、森の中の更に限定された区間から出れなくしてたら、、、その区間から出そうになったら夏希が目の前にやってくる。そういうものだとしたら、、、」
「まさか、、、」
「仮説に過ぎない。けど、やって見る価値は、あるよね」
チハは戸惑いながらもうなづいた。
僕らはまず、今までと変わらず走って逃げて夏希が目の前に現れる所に印をつける。
それから、、、
「夏希がつぎに現れたら僕と反対方向に逃げるんだ」
なんで、と言うチハに実証実験だからと無理やり納得させた。
これ以上、チハに無理させたくない----
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私は翼くんを一人にさせたくない。でも、翼くんのあの顔を見てしまった以上、私は納得するほかない。
「いくよ、チハ」
「、、、うん」
翼くんが印をつけたところより奥へ進む。夏希が目の前に現れてにやりと笑う。そして追いかけ始める。私は左、翼くんは右に逃げる。後ろを振り向くと夏希は翼くんを追っているのが見えた。
そのまま走って走って、ついに印の向こう側に行った。その時、シュビンだかシュッパッだかそんな音がした。
「うわっ!」
「へっ?」
私は思い切り人にぶつかった。
「千春さん?」
「柚原先生!?」
「、、、良かった」
柚原先生に抱き締められた。
「柚原先生、俺の上でやめてもらえますか」
「すいません。つい、、、」
「いや、気持ちはわかるんですがね」
私は御子柴さんの上に乗っていた、、、。
「御子柴さん、すいません!いくら事故とはいえ上に乗ってしまって」
「大丈夫。それより怪我がなくて本当に良かった。深山はどうしたの?」
「、、、」
私は悲しくて黙った。
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チハは外に出れたのだろうか。きっと、出れたのだろう。夏希の反応がとても分かり易い。チハと別れてからしばらく僕のことを追っていたけど、一瞬夏希が立ち止まる。夏希はその時チハの目の前に現れようとしていたのだろう。しかし、それをしなかった。僕が夏希を見ていたから。もし、見ていなかったらチハの前へ行っていた。
夏希がどのような方法で突然目の前に現れるなのかわからないけど、夏希はそれを見られたくないのだ。
だから、チハを夏希は追っていなくてチハは無事に森の外に出られる。
「逃がしちゃった」
「これで、関係ないチハを助けられた」
「へえ。あの女、チハっていうんだ。アンタの幼馴染み?」
「そう、です。言いました、か?」
「そうだね、昔聞いたよ」
夏希は懐かしそうに言った。表情は分からない。
「夏希は変わった、です」
「変わった?あははははは!それはあんたもだ」
「変わらないやつなんていないの」
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夏希は既に死んでいる。と言った時の伊藤さんの反応、それは先程まで生きている人間そのものだったときの反応だ。
「空間のゆがみ、森にある別空間、死人が肉体を持っている」
キーワードを呟きながら考えていた。
「魔法科学を使えば死人が肉体を持つことができます」
「本当ですか?空貝先生」
「はい。とはいえ、限られた空間だけですが。でもその死人は魔法科学を使えないんです」
「肉体を持った死人は主にどんな時だされますか?」
「肉親の最後の言葉を聞きたいときや、死灰術で使われます」
死灰術、、、死人を使い戦うことができる術。死人を生き返らすことは絶対にできない世の中でそれに近いことをやる。蠱毒や呪詛に応用されることがある。
「死灰術は誰にでも使えるわけではありません」
「空貝先生、死灰術は魔法科学の発見前からあります。それに今回のことは死灰術とは関係ありません」
「番凩先生は詳しいんだな」
「御子柴さん、知ってて言ってません?」
ため息混じりに番凩は言った。
番凩播雀。死灰術を使う一族の次男。
「そんなことはないぞ、雀」
「そのあだ名やめてもらえません?雀って可愛いじゃないですか」
「大丈夫だ。お前にも可愛いところあるぞ」
「はあ。それより、まだ深山が残ってるのでしょう。助けないと」
「それなんだが、この空間を壊せば」
俺は歪んでいる部分を指して言う。
「御子柴さん、それ壊せないやつです」
「どうしてですか」
「空間を壊すと中の空気が一気に破裂するんですよ。だから、、、」
言いたいことがわかった。空貝先生も生徒を助けたい気持ちがあることを承知している。しかし、空気が破裂すると結界外にいる我々の命を脅かすことになることも知っている。
空気は時に凶器になる---。
2人とも森から出れて良かった




