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第二話「到達」

〓 ローカル線 車内 〓


古い二両編成の車両。

車窓にのどかな田園風景が続く。


座席腰かけて車窓風景を眺めている直樹。

電車は終点の飯坂温泉駅に到着する.


車内アナウンス

「飯坂温泉、飯坂温泉、終点です」


〓 飯坂温泉 〓


電車を降り、駅の改札を抜ける雄治。

しばらく思案した後、駅前の温泉の旅館案内所に向かう。


案内員「いらしゃいませ」

雄治「どうも…」

案内員「お宿をお探しですか?」

雄治「はい…」

案内員「何名さまでしょう?」

雄治「一人…なんですが…」

案内員「お一人ですか…ご予算はおいくら位ですか?」

雄治「ああ…いくら位なのかな…」

案内員「そうですね、ちょっといいところだと二万円位ですね。お一人様だと割高になるもんですから」

雄治「…それ位でお願いします」

案内員「それでは、飯坂温泉ホテルはいかがですか。ここなんですが、料理も美味しいしお風呂も大きくてりっぱですよ」


案内員に見せられたパンフレットには大型のデラックスなホテル風の旅館が刷り込まれている。


雄治「もっと、質素でひなびた感じの旅館がいいんですが…」

案内員「そうですか…それじゃここなんかいかがですか」


みせられたパンフレットは和風のこぎれいな小規模旅館である。


雄治「ああ、いいですね」

案内員「そうですか、それでは連絡をとってみますのでしばらくお待ち下さい」


電話で問い合わせをする案内員。


案内員「大丈夫です。いま、お迎えの車が参りますので、おかけになってお待ち下さい」

雄治「どうもありがとう」


程なく旅館の送迎車がくる。


旅館番頭「お客様、どうもお待たせ致しました」

雄治「お世話になります…」

旅館番頭「お荷物をお預かりしましょう」

雄治「あっ、荷物はないんです…思いつきで出てきたものですから…」

旅館番頭「(若干怪訝そうに)…そうですか…それではどうぞ車の方に」

雄治「有難う」


車に乗り込み、旅館へ向かう。

典型的な旅館街を車は進む。

やがて目的の旅館に到着する。


〓 旅館 〓


旅館番頭「どうもお疲れ様でした。どうぞ中へお入りください」

旅館女将「いらしゃいませ。お待ち申しておりました」

旅館従業員「いらしゃいませ」

雄治「お世話になります」

旅館女将「お疲れになりましたでしょう。どうぞ、こちらにおかけになって下さい」


フロントの前のソファーに腰をおろす。


旅館女将「それでは、こちらにご記名お願い致します」


手渡された宿帳を簡単に記入し、女将に返す。


旅館女将「それでは、係りのものがお部屋にご案内させて頂きます」

雄治「有難う」

旅館従業員「どうぞこちらへ」

旅館女将「どうぞ、ごゆっくり」


従業員に案内されて部屋に通される。

渓流沿いの小奇麗で落着いた部屋。


仲居「どうぞ、こちらになります」

雄治「こりゃ…いい部屋だね」

仲居「有難うございます。今、お茶をいれますので(お茶の準備をしようとする)」

雄治「あっ、いいです、自分でできますから」

仲居「そうですか、それではよろしくお願いします」

雄治「ありがとう」

仲居「どうぞ、ごゆっくり。それでは失礼致します」


襖を閉め、仲居が出て行く。

雄治、窓辺に歩みより、窓を大きく開ける。

いきなり、蝉の鳴き声と渓流のせせらぎの音が大きく飛び込んでくる。


雄治「(大きく背伸びをして、とびっきりの笑顔で)いいなあー!」


そのまま頭の後ろに腕を回して畳の上に仰向けになり、目をつぶり、自然の音を楽しんでいる。そして何時しか寝入ってしまう。


穏やかな雄治の寝顔。


《少しの間》


静かなひぐらしの鳴き声に目覚める。

すでに夕暮れである。

窓の外の渓谷が夕焼けに映えて美しい。

静かに起き上がり、思いっきり背伸びをしながら窓辺に近寄る雄治。


雄治「(窓辺に身を乗り出しながら)いやーっ、よっく眠たなあー(更に大きく伸びをする)」


川辺に目をやると、旅館の露天風呂が見える。


雄治「(感激しながら)露天風呂かあー」


急いで浴衣に着替える。


雄治「(鼻歌なんか歌いなが)露天、露天てか」


タオルを持って、浮かれた感じで露天風呂へと向かう雄治。

脱衣所で浴衣を脱ぎ、洗い場で簡単に体を洗い、露天風呂へ出てみる。

広々とした渓流沿いの露天風呂。

勢い良く飛び込む。


雄治「ふうーっ、気持いい!」


湯に身を浸したまま、天を仰いでいる。

っとその時、岩陰から老人の声。


老人「(岩陰から顔を覗かせながら)はっ、はっ、はっ、元気がよろしいですな」

雄治「(突然姿を現わした老人に驚き恐縮して)あれっ、失礼しました…誰も入ってらっしゃらないと思ったもので…」

老人「いえいえ、いいんですよ、好きなようにくつろぐのが」

雄治「どうも…(ばつが悪そうに)」

老人「お一人かな」

雄治「はい、思いつきで、気のみ気のままに…」

老人「いいですな、私も若い頃そんな旅がしてみたかった。がっ、なかなか難しかった」

雄治「どちらからですか」

老人「東京からです。夫婦で東北回りです。定年を迎えましてな…自分へのご褒美と妻への罪滅ぼしですわ」

雄治「それは、よろしいですね。奥様もお喜びでしょう」

老人「本当にいいもんですな…自分と向合う時間がもてて…色々考えさせられますわ」

直樹「そうですか(深くうなずく)」


《少しの間》


豪華な夕飯を部屋食で食べている雄治。


《少しの間》


蒲団の中で目を閉じる雄治。


《少しの間》


翌朝の風景。


旅館の車で飯坂温泉駅へ向かう。

駅で電車に乗り市内へ戻る。


のんびりとした田園風景と美しい山々。


〓 福島駅 〓


福島駅に到着する飯坂線。

電車を降りて改札口へ向かう。

飯坂線の福島駅から出て、駅前の繁華街へ向かう雄治。


直美「松本さん!」


背後から急に呼び止められ、はっと振り返る雄治。

直美の存在に驚く。


雄治「林さん…」

直美「林さんじゃないわよ、どうしたの、急にいなくなって。宿のおじさんも心配して大変だったんだから」

雄治「…いっけない、全然考えてなかった…ごめんなさい…」

直美「... 」

雄治「... 」

直美「… まあ、無事でよかったからいいけど(にこっとホッとした感じ)」

雄治「本当に申し訳ない(神妙に謝る)」

直美「もう、いいわ。っで?どこに行ってたんですか?」

雄治「温泉、飯坂温泉へ」

直美「温泉!?(苦笑して)、あっきれた、もうびっくりさせないでよ」


場面が、信夫屋の雄治の部屋に突然転換。


〓 信夫屋客室 〓


夕食の後、雄治と、直美、それに宿の主人で酒が入り盛り上がっている。


直美「だから、急に居なくなって、自殺でもしに行ったんじゃないかって、おじさんが心配して、もう大変だったんだから。(爆笑して)それが、駅で見つけたら、温泉行ってきましただって!」

旅館主人「もう、心配で、心配で、一時は警察に捜索願を出そうかとも考えてたんだから」

雄治「(苦笑して)自殺?わたしが?そんなに死にたそうな顔…してました?(少しおどけて)」

直美「してた、してた!(さらに爆笑)」

旅館主人「なんか、訳あり気で思いつめてた感じだったからね(笑いながら)」

雄治「自殺?訳あり気?本当にそう見えてたんですか?」

直美、旅館主人「見えた、見えた(同時に)」

直美「一体何があったの?」

雄治「…」

旅館主人「…」

直美「…あっ、いやだ。言ってみただけよ。答えなくて構わないわ」

雄治「いやっ…何もないんです」

直美「…」

旅館主人「…」

雄治「何もなくて…なんか…疲れちまって…」

直美「…」

旅館主人「…」

雄治「それで、会社での徹夜明け、なんとなく列車に乗って…気がついたら…ここまで来てたって言うか…」


直美と旅館主人は顔を見合わせる。


直美「成る程!それじゃ癒しの旅ってことね。その割には熱出して倒れてしまったけどね。でも、温泉にも行ったし、いい気分転換になったんじゃない?」

雄治「本当にこんなに良くしてもらって、何て言っていいか…本当に有難うございました」

直美「何いってんの、行きがかり上のことよ」

旅館主人「そうそう、気にすることなんかないよ」

直美「さて、そろそろお開きにしましょうか。明日は何時に発つの?」

雄治「明日?発つ?」

直美「もう、帰るんじゃないの?会社もあるでしょう?」

雄治「もう少しここに居たいんだ…」

直美「…大丈夫なの?」

雄治「いい休暇の機会です」

直美「それなら、ゆっくりして行くといいわ。ねっ、おじさん」

旅館主人「もう、何日でもいたらええって」

雄治「有難うございます」

直美「それじゃ、おやすみなさい」

旅館主人「おやすみ」

雄治「本当にどうもありがとう」


直美を見送りに旅館の入り口まで一緒に歩いて行く三人。


直美「じゃっ、おやすみなさい」

旅館主人「おやすみ。気をつけてお帰り」

雄治「…駅まで…送らせて下さい」

直美「大丈夫、大丈夫、すぐそこだもん」

雄治「いやっ、散歩がてらちょっと送らせて下さい」

直美「…」


〓 駅までの道 〓


駅までの道のりを歩いている雄治と直美。


雄治「看護師さんの仕事はきついんじゃないですか」

直美「夜勤とか多いし大変だけど、やりがいは大きいし自分にはとっても向いてると思ってるわ」

雄治「直美さんは優しいし、患者さんは幸せだな」

直美「フフフ、患者さんからは怖い看護婦として恐れられてるかも(かなり、おどけた感じで)」

雄治「実はそうだったか(直美に合わせておどけた感じで爆笑しながら)」

直美「フフフ」

雄治「フフフ」

雄治「(改まった感じで)…今回は本当にお世話になってしまって…有難うございました(頭を下げながら)」

直美「何言ってるんですか。大したことしてないですよ」

雄治「よくわからないんだけど…何か今…とっても穏やかな気分で」

直美「…」

雄治「こんなリラックスした気持…もう何年も経験してないような気がして…」

直美「本当にお仕事大変なのね。こんな形だけど、ちょっとした田舎旅行で救われたっていう感じね…温泉にも行ったみたいだし!」

雄治「(苦笑して)全くだ!」

直美「あっ、電車来る!(急に駆け出しながら)それじゃっ、おやすみなさい!」

雄治「おやすみ…」


直美の後姿をいつまでも見送る雄治。

やがて駅の構内へと消えて行く直美の後姿。


爽やかなため息をつきながら夜空を見上げる雄治。


満天の星空。


〓 商店街 〓


旅館へ帰る途中で駅前の商店街を歩いて行く。

ジーンズショップの前を通り過ぎる。


ふと立ち止まり通り過ぎたジーンズショップを振り返る。

少し考えてお店へ入る。


〓 ジーンズショップ店内 〓


店員「いらっしゃいませ」

雄治「こんばんは」


勝手に店内を見て回る。

ジーンズを探す。

ストレート等の定番をいくつか手に取る。

少し考えてそれらを元の棚に戻す。

スリム系のジーンズを手にしてみる。

自分の足に合わせてみる。


店員がやってくる(若くて可愛らしい女性)。


店員「若々しく見えてなかなかいいですよ」

雄治「そうかな?」

店員「御試着なさっては如何ですか?」

雄治「…」

店員「(ニッコリ)」

雄治「うん、じゃ試着させ貰おうかな」

店員「どうぞこちらです」

雄治「ありがとう」


試着室に入る。


《少しの間》


着換えて出てくる。


雄治「どうかな?」

店員「よくお似合いです」

雄治「じゃ、裾上げ御願い」

店員「承知しました」


裾上げをしてピンでとめる。


店員「すぐ出来ますよ」

雄治「それじゃ、御願します。待ってる間に上も見せてもらおうかな?」

店員「承知しました」


店員と一緒にシャツ売り場に移動する。


店員「どんな感じが御好きですか?」

雄治「そうだな…シンプルなの、白いTシャツあるかな」

店員「でしたらこれ如何ですか?」


白い無地のTシャツが渡される。

雄治は身体にあててみる。


雄治「うん、いいな。サイズはМで」

店員「はい、これМですよ」

雄治「有り難う」

店員「ジーンズの裾上げも出来てると思うので一緒に御精算御願します」

雄治「そしたら…今、上下とも着換えて帰ってもいいかな」

店員「承知しました」


それではこちらへどうぞ。

試着室へ案内される。

別の店員が裾上げしたジーンズを持ってくる。


店員「それでは着替え終わられましたら御知らせ下さい」

雄治「有り難う」


試着室の中で着替える。


《少しの間》


試着室から出てくる。

上下着替えてとてもカジュアルな感じ。

手には着替え前の背広のズボンとワイシャツを抱えている。


店員「御疲れ様でした」

雄治「有り難う、どう?」

店員「とってもいい感じですよ(ニッコリ)」

雄治「よかった(ニッコリ)」


会計を済ませて、もらったペーパーバッグに着替え前のズボンとシャツを無造作に押し込んで出てくる。

リラックスした装いで清々しい表情。

ちょっと鼻歌なんか歌いながら歩き始める。

ふと足元を見る。


革靴がアップ。


とっさに靴屋を探す。

角に靴屋発見。

そそくさと店へ進み店内へ入る。


《暫らくの間》


スニ―カ―に履き替えて出てくる。

ペーパーバッグには更に無造作に押し込まれた革靴が見える。


<<つづく>>


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