2.赤面の名人?!
デート。…と言っても、
私たちは何をするでもなく、街中をぶらぶらと歩くだけ。
私が書く小説はもっといろんなイベントに行ったり、
コンサートや、映画に行ったりと、ドキドキ感満載なんだけど。
…ただぶらぶらするデートも、
ありなのかもしれないと思う自分がいた。
だって、こうやって繋がれた手が温かくて、
その手を見ただけでドキドキして、
いつもの街が、なんだか違って見えるから。
「さっきから、何一人で百面相してんの?」
「?!え?!」
突然声をかけられ、あからさまに驚き、
目を見開いた。
そんな私の顔を見て、可笑しそうに笑う玲。
「わ、笑わないでよ!」
私は玲から目を逸らし、熱くなった頬を押さえた。
・・・ふと、
そんなドギマギしていた私の目は、
一軒の店にくぎ付けになる。
『クレープ屋』
私はチョコと生クリームがタップリ入ったクレープが大好き。
…だからと言って、玲と、この店に入る勇気はない。
「どうかした?」
私の顔を覗きこむ玲。
「何でもない、行こう」
私は何事もなかったように歩き出そうとした。
・・・が。
「ちょっと、玲?!」
私とは全く違う方向に歩き出した玲は、
何の躊躇いもなく…クレープ屋に直行した。
私は口では一言も言っていないのに、
玲は、チョコと生クリームの入ったクレープを、
店員に頼む。
何も言えないまま、玲は会計を済ませると、
私にクレープを押し付け、店を出た。
「・・・何で、これ」
オロオロしながら、尋ねると、
玲はニコッと笑い、
「目がそれ食いて~!って言ってた」
と言った。
…恐るべし、玲の観察力。
「・・・ありがと」
私は一口、それを口にした。
ん~~!美味しい。
思わず、満面の笑みがこぼれる。
それを見た玲は、クスクスと笑う。
「幸せそうだな」
「・・・///」
何も言えない。
…いや、言わなくちゃ。
「玲も、食べたら?」
「オレ、甘いものは・・・」
「・・・そうなの?」
それ以上会話が続かなくなって、
いたたまれなくて、私はまたクレープを口に入れ・・・?!!
…ガブッ。
私はクレープにかぶりついたまま固まる。
・・・だって、ほんの数ミリ先に、
玲のキレイな顔が、反対側のクレープにかぶりついていたから。
「…甘っ」
「・・・///」
玲は相変わらず、クスクスと笑いながら、
私の空いてる手を握って、歩き出した。
恥ずかしすぎる私は、
無言のまま、ひたすらクレープを食べていた。
…間もなくして食べ終わってしまった私は、
どうしていいかわからず、辺りをキョロキョロ。
すると、
「あの本屋寄っていい?」
突然玲が言った。
私は黙ったまま首だけを頷かせた。
・・・ッ!!
「クリームついてた」
口の端についてたクリームをとってくれた玲は、
その指を舐めた。
…玲は、
私を赤面させる名人だ。
ドキドキしっぱなしだった私だったけど、
本屋では、楽しい会話が弾んだ。
好きな本の事で・・・
何でもないデートが、
こんなに楽しいんだ。
そう思わずにはいられない。
あっという間に時間だけが過ぎて行った。
暗くなり、玲は、私を家まで送ってくれた。
…まだ一緒にいたいな・・・なんて。
「そんな寂しそうな顔するなよ」
そう言って笑う玲。
「し、してないし!」
気持ちとは真逆な言葉を発する。
「今度は、もっといいとこ行こうな」
「…もう、行かないよ」
「うそつき。本当は行きたいくせに」
玲の言葉に反論しようとしたけど、出来なくなった。
「・・・れ、い」
玲は、私を思いっきり、抱きしめていた。
なによ、これ。
「約束の抱擁」
「?!・・・ばか!」
真っ赤な顔でそう言って、叩こうとしたけど、
素早くかわされ、玲は帰って行ってしまった。
・・・この日を境に、
私の中で、何かが変わった。
『夢物語なsioriさんの話しも好きだけど、
こんなリアルな話も凄く好きです』
『sioriさんの作品がもっと好きになりました』
私の作風が変わって、
こんな声が、ファンから来るようになった。
ファンの数も、飛躍的に増えてきた。
…恋ってすごい。
…恋?
私、恋、してんの?