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Parent or al  作者: 有馬千
10/10

and after...

 サーカスで働く男の子。金色の瞳をしている以外は、どこにでもいる男の子。

 男の子には両親がいなかった。

 気がついたらサーカスで働いていて、団長は男の子を捨て子と呼んでいて。

 男の子は両親の顔さえも知らなかった。

 だからサーカスにくる子供達が、両親に甘える姿を、いつもうらやましそうに眺めていた。

 男の子の仕事は、年老いた虎のお世話。

 けれど、仕事としてではなく――何年も、何年も。

 男の子は丹念に虎の世話をした。友人に語りかけるように、言葉をかけながら。

 男の子はまだ小さすぎて、他にできることが少ししかなく。

 団員からは、"ただ飯喰らい"と厳しい視線にさらされていた。

 老いた虎は既に寿命が間近と言われていたから、余計に。

 男の子はサーカスの団員として、才能に乏しかったから――余計に。

 男の子の味方は、年老いた虎一匹だけだった。

 彼が謂れの無い責められ方をしたときに、その老いた虎がいると喉を震わせて唸り声を上げ、男の子を庇ってくれた。

 それでも彼も飼われる身であり――普段は檻に閉じ込められている。

 今日も男の子は芸の練習中に失敗し、団長に怒鳴られ、殴られ、次に失敗すれば教会に捨てるぞ!!と威されて、とぼとぼと虎の世話へと向かった。

 辺りは夜闇に包まれていて。

 世話が遅くなったことを、男の子は虎に詫びてから、檻の中の掃除や水の入れ替えを行った。

 寒い冬。

 吐き出す息が白く濁り、水に触れた手が痛かった。

「もしも――」

 と。

 小さく掠れた、空気を振るわせる声がした。

 周囲を見回すが誰もいない。

 周囲には夜闇が立ちこめて、サーカスの団員達は夢の中。

「もしも、両親に会えるなら、お前は嘘をつかず、誠実な人であるという約束を守れるか?」

 老いた虎だった。

 勿論いままで喋ったことなど一度もない。ただの年老いた虎であるはずだった。

 男の子はびっくりして、困惑して。

 それでも、こくりと頷いた。

「嘘をついたら、一つつく毎に虎になるだろう。それでもか」

 男の子は怯えて。

 それでも、ゆっくりひとつ頷いた。

 老いた虎は、そんな男の子を優しい瞳で見つめて。

 悲しい瞳で見つめながら。

「人を信じろ。嘘をつかない、誠実な人であれ。そうすれば、お前がやむを得ずついた嘘も許されるだろう」

 そうしたら――嘘を許されれば、許された分だけ人に戻れるだろう、と。

 そうすれば、お前の両親に会えると約束しよう、と。

 虎は言った。

 たった一人の友達の言葉。

 だから、そんな突拍子の無い言葉でも――男の子は信じた。

「旅に出て、様々な人に出会いなさい。お前にはまだ名がないな――ならばそう、お前がよければ…私の名前なんかでよければ、お前にやろう」

 タイガ。

 それが、老いた虎の名前。

 虎だから、というあまりにも簡潔な理由でつけられた、異国の言葉が彼の名前。

 それでも。

 男の子にとって、唯一の友達の名前。

 だから、男の子は頷いて。

「僕、戻ってくる。タイガに会いに、戻ってくるから」

 友達とそんな、約束をした。

 そうしたら、虎は悲しい顔をして。

 口を開こうとして――言葉を発する、それさえもできずに。

 瞼を閉じて、眠りについた。

 二度と冷めない、永久の眠りに。

 それが少年にも分かって――男の子の瞳からぽろぽろ、ぽろぽろ涙がこぼれて。

 突然、男の子のお尻から尻尾が生えた。

 男の子の片目が虎の目になった。

 生涯許されることのない――優しい嘘が、形となった。

 男の子はそうして、朝まで虎の側にいて。

 そうしてその日。

 男の子の旅が始まった。


 街中を駆けて、いろいろな人と出会いながら。

 走って、歩いて、船に乗り込んで。


 そうして、やがて少年は。


 青い空の。

 青い海の。

 白い町並みの。

 白い雲の浮かぶ港町で――









               ―― ただいま ――








挿絵(By みてみん)

  Thank you for reading.


 いかがでしたでしょうか、Parent or al.

 Parentとは"親"Parentにalをつけると"親になる"という意味だそうです。


 この物語は、Twitterで繋がりのある人がシャーペンで絵を描いてくれまして、その絵を色塗りして、物語化したものになります。

 精一杯愛を込めて作ったつもりです。


 この物語を読んで、少しでも楽しんでいただければ、少しでも幸せな心地になっていただければ。

 そして出来るなら、あなたの心の片隅に、この物語のキャラクターが"生きて"くれたなら。

 至上の喜びです。


 それではどうか、またの機会に。

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