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憑かれて灰色姫  作者: 綾女
序章
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06.イーアリル子爵家2(視点:ブルーノ)

「ブルーノお兄様、ご機嫌よう」



蒼の縦巻き髪の少女は優雅に手にしたティーカップを置いて、自分に向き合い席へと誘った。ハロルドの妹にして、この部屋の主ディアナだ。病弱なこともあり、邸から出ることが少なく、そのせいで兄ハロルドとこちらで遊ぶ際には彼女も共にしていた。「久しぶりだね」、と気軽な挨拶を交わす。その時ディアナに並んで座っている、彼女の友人をちらりと見た。


長い艶のある銀糸に人形の様な綺麗な少女が、柔らかな表情で自分達のやり取りを眺めている。


「でも良かったのかい?折角お友達と遊んでいたのに。」


「ええ。ブルーノ兄様が来てくれて嬉しいし、私の親友も紹介したいしね。お兄様は初めてよね?この子はフローラ。伯爵令嬢で、見ての通りとっても大人しい子よ。」


…それは第一印象に思った。紹介中にフローラ嬢と目が合うと微笑まれ、どきりとした。


「あの、初めまして。私はフローラと申します。宜しくお願いします。」


「あ、ああ。」


はっ、として自分は名乗っていないのを思いだし言葉を続けた。


「ディアナ嬢から聞いてるかもしれないが、私はイーアリル家のブルーノと申します。こちらこそ、これからもよろしくフローラ嬢。」


それから3人で些細な話題で話を咲かせた。「私の家の庭が枯れた原因はね」「家に新しい妹が増えて」「この間友人と喧嘩したけれど」日常のどこにでもある話だったが、それが狸達と気をすり減らして来た自分には気安く接せた。


お茶菓子や香りの良い紅茶も美味しいが、こうやって砕けた態度で女性と話すのは久しぶりだと、年寄りのような錯覚を覚え逆に新鮮さを感じた。



見合いに来る女性は、どの女性も魅力はあった。だが、自分は女性の好みが難しいらしい。気配りの出来る女性なら賢いイメージがあるが、打ち解けるのに難しそうだし。他にも社交好きなら、夫に有益だろうと思うが、世慣れてる女性も好みでない。どちらかと言えば、純粋で性格は内向的で、美人より可愛い人がいい――目にディアナと楽しげに話している彼女が入る。


「でね、私言ってやったの。ちょっと病弱だからって、大人しくしていろだなんてあんまりだって。」


「お兄様はディアナちゃんの事が可愛いから、周りの人から守ってくれてるのよ。」


「それは私も分かってるわ。でもね、何が嫌だったかって…私だってこの家の娘だわ。家の為になりたい。それなのにっ、お兄様は何時も余計なことしなくていいからって。役たたずみたいで、ほんと自己嫌悪してしまいそうで嫌だったわ。」


ずずっ、と気持ちよく紅茶を飲み干した。一息付いたらしいディアナだったが、彼女の兄の友人としては心境が複雑だった。(後で気にしてた事、伝えてやった方がいいかな)


それにしても…ディアナは随分フローラと仲が良いんだなと思う。悩みを打ち明けられる友人が出来るのはいい事だ。


「なあに?ブルーノお兄様。はっ…まさか私、口の周りに何かついてっ」


慌てて口を拭う姿に笑った。


「いや、違うよ。随分仲が良いんだなあと思ってたからだよ。」


「あら、そうでしょう?」


「差し障りないんだったら、仲良くなったきっかけは何だったんだい?」


「ふふ、きっかけは簡単だったわ。ね?」


「うん、初めはディアナちゃんの病気治癒のスタッフとして来たのがきっかけだったの。」


「そうそう、何時もは堅苦しいスタッフの中に、こんな可愛い子が混じってるんだもの。驚いたわよー。それからね、話し合ってる内に仲良くなった訳なのよ。」



「そうだったのか、その若さで病気治癒のスタッフとして来るなんて随分優秀な子なんだな。」


フローラは「そんなことないです」と謙遜しているが、実際治療のプロともなると相当の能力が求められる。見た目は愛らしい少女にその様な力を宿してるとは全く気づけなかった。魔力は鍛錬なしでは常に垂れ流し状態だが、修行次第で完全にコントロールが出来る。難しい顔をしていたらしくディアナから叱咤の声がかかった。


「あのね、お兄様?言う言葉はそうじゃないでしょう?」


「え?」


「お兄様っ!」


どうやら、自分は何かディアナを怒らせてしまっているようだ。原因が分からない。


「お兄様は女性の好みは変わってるって聞いてましたが、フローラの事はどう見えますの?」


「ディ、ディアナちゃんっ!?」


どう見えますか、と言われても――


「可愛らしいと思うが」


「…っ」


驚いたらしく口元に手をやる彼女。あまり免疫が無いのが意外だった。彼女ほどの容姿ならこういった事は言われ慣れてると思うのだが。


「そうよ、お兄様の好みだと思いますの。違います?」


「――そうだとしてどうだと」

分からない。今日のディアナは何時もと様子が違う。


「フローラ、私はここまでよ。後は貴女の言葉で言いなさいな。」


にっ、と彼女に向ける。


「…すみません。私が今日、ディアナちゃんのお兄様のパーティに貴女が出席すると聞いて一目会えないかと頼んだのです。ずっと貴方に憧れていました。」


この展開は何だろう。


先程までディアナを挟んでいたとは言え、打ち解けていた少女から告げられた言葉に慌てた。熱を感じるのがわかる。意識しだすと、目の前の彼女から目が離せなかった。


「そ、そう、なのか」


何とか口から出た言葉、吃るくらいに動揺していたとは……自分の事を思っていると分かるとこれだけ焦る様な、青い気持ちがまだ自分の中にあった事に驚いた。


「これまでお見合いを申しこんだのですが、お返事が何時も頂けなくて。どうやら貴方を望んでる他家の妨害にあう様で。直接会ってお話がしたかったんです。」



寝耳に水の言葉に衝撃を受け、頭がクラクラしてきた。嘘だろう、そんなもの水面下で行われていたのか。


(……あ、んの、狸共ーーーっ!!)



視界の中に入る彼女、その美しい容姿は誰しも街角で振り返るだろう。お淑やかな性格だし、その上優秀で。はっきりいって自分の好みだった。


「貴方の事をお慕いしています、ブルーノ様…」


「有難う――だが何だか面白くないな。普通は逆だろう?」


「え……」


「フローラ嬢、私とお付き合いしてくれませんか?」


・・・


余談だが、ディアナは自分が会いに来るのが分かっていたから、パーティ会場に行かなかったのだと言う。狸の妨害に会いたくなかったと。計画に参加してたメンバーには、ハロルドもいたのには驚いた。このお嬢様は、大した策士だとブルーノはそう思った。


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