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憑かれて灰色姫  作者: 綾女
序章
7/13

05.イーアリル子爵家1(視点:ブルーノ)

説明文が長いです。

ヴァルリア国内における北方領の一つであるイーアリル領は歴史ある地で、周辺と比べても豊かだった。元々資源が豊富なこともあったが、先代領主ブルーノの偉業があったからだ。


彼は、文武共に優れその才は王都にまで届くほどであった。王の御目にも止まり”ぜひ傍で仕えてくれないか”と、遣いを何度か頂くが、彼は”恐れ多い事です”と申し出に答える事はなかった。



イーアリルの地で採取出来るのは宝石の類で、むき出しのままで見つかる場合が多い。そして、それらを掘り起こす力作業は、人間がするのではなかった。この世界にはモンスターがいて、彼らが宝石を見つけては飲み込んでいるのだから。


彼らは人間を襲うので、普通の人間からは恐れられているが、普通の人以外からは、生活する上で有難い存在だった。



魔物が宝石好きで、飲み込む性質を持つ。

要は倒せばお金が手に入るのである。



大好きな宝石が手に入ると彼らの中で知られてるのか、昔から頻繁に出没していたのだが、モンスターに対抗出来る魔術や武術を持つ人間は軍事大国といえども多くない。相手が最弱のスライムならとにかく、そこそこの魔物を倒せる人材が不足しているのはどの国でも同じだ。



折角採れる宝石でも、回収ができないのでは非効率的だ。


そこでブルーノはこの地で、教育を向上させようと考えた。



今までは他領地と同じ様に、戦いに出られるまでの人材を育成するとなると、授業料が高額で人数が限られていたが、それを領民であれば授業料が免除になるとお触れを出したのだ。そうする内に、戦に出せる人材が増加し、桁が違う位に見事に集める事が出来たのだった。領内で冒険者ギルドが許可なくモンスターを狩れない様に領地の法律を変えた事も追い風となった。狩りに出られない人たちも、帰ってきた仲間が手に入れた宝石を磨いて加工し高額な値段で売買してと、経済は上手く循環していったのだ。



イーアリルの地は田舎領地にすると珍しく、宝石を求めてやって来る商人や上客で賑わいを見せる街へと発展を遂げたのだ。かつ、有能な魔術師を多く輩出する領地でも知られるようになっていった。



・・・



彼は幼い頃から、秀才と名高く周りに期待されていた。それが年頃になって、名声が高まるにつれて他領主から「ぜひうちの娘を」と縁談を迫られるようになっていった。幸い両親自慢の後継息子であったので、そうそう許すはずがなかったが、年を増すにつれその数も増えていった。しばらくすると、同じ北方領に所属している領地の中でも別格の領主からも縁組を求められたのだ。


この話には流石のブルーノの両親も、「良い縁談じゃないか」そうブルーノに話を通してきた。



王都を中心に東西南北に分かれる領地。北は北、南は南と言った様に、地方ごとに大分され地方体制を決めている。もちろん中央からの命令は絶対だが、それ以外の細かい事は地方任せである。その体制を決めるに当たり発言権があるのは各領主なのだが、その中でも格がある。


イーアリル領は豊かであるが、家格からすると中堅。相手の家は上位に入る北方領の名門家だ。そんな先方から、こうしてブルーノを見込んで来てくれたのだと思うと、悪い気はしなかった。


見合いの段取りが凄い速さで整えられるのを見て、苦笑いをした。

(本人より周りの方が見合い相手みたいだ)


そう皮肉るほど、熱心に息子の将来を思う両親との熱差があった。



顔合わせの席にディートリヌ家当主である伯爵は始終ニコニコ顔で、人あたりの良さそうな人物だと第一印象で思えた。だが、肝心の見合い相手は仏頂顔であった。ディートリヌ家の娘のイライザだと名乗ったのも父親である。ブルーノが自分より家柄が劣ると思って侮っているのだろうか、話しかけても高慢な態度に驚かされた。確かに見張る美人なのだが、見慣れれば性格のキツさの方に気掛かる。会話をしていて相手にそう思わせる女は、ブルーノの好みからは遠く外れていた。早くも帰りたいという思いが出ていたのではないだろうか、見合いは白紙となった。



くだんの見合いの席での話を友人にしてみた所、見合いする前には聞けなかった情報が聞けた。ディートリヌの娘は家庭教師も匙を投げる程の馬鹿だったらしい。近くの有力領地なので付き合いがあるのだそうだが、問題はその性格がキツくプライドが高い事。彼は苦手な相手だと話した。「なら見合いの前に言ってくれれば言いのに」と恨みがましく相手を見ると「まあ、あのキツい性格を妥協すれば悪い相手じゃないと思ったからさ。身分も高いし、財力もある。それと顔も良いし。一度会ってみて、気に入れば良いと思ったんだけど失敗だったのは残念だったね」と、これも一つの経験さと彼は無邪気に笑った。





それから何度か季節が変わり、いい加減決まった相手がいない自分に、両親も焦りを感じてるようだ。見合い相手の写真をドサドサと部屋に置いていく。今日も大量に来てるなあと、横目で束を見てため息を吐き人ごとの様に思っていた。




そんなある日、友人の生誕パーティに参加するため、彼の家へとやって来ていた。(大きな邸宅と言うより小さな城だよなあ)そう思えるほどの豪邸だ。



「よお、来たかブルーノ」


目の前に爽やかに近づく蒼髪の青年、友人のハロルドだ。幼友達なので気心が知れる間柄で、以前ブルーノが見合いをした後、話をしていた彼だった。そして北方領地の中でも代表家の後継息子である。


「やあ、招待を有難う。誕生日おめでとうハロルド」


「嬉しいけど、嬉しくないのだこれが」


「次期頭領だからね、しょうがないさ。運命だと思うしかないね」


「身も蓋もないじゃないか……同じ運命と言うのなら、もう少しロマンスを感じさせてくれないのだろうか?」


彼はロマンチストな所がある。本人は「気のおける相手を探しているのだ」と言うが、権力とは人の視界を曇らせる。昔から彼の顔が権力を手に入れる道具か何かだと勘違いをしている欲の塊共が後を絶たない。それ故、彼にとって癒しになる伴侶を手に入れたいと願う気持ちも分からないわけじゃないが、それがどれだけ難しいか彼も知っている。




「はああ……生まれる所間違えたよなあ。普通の領主になって自由に遊びたいよー」


「まあ、色々大変なんだろうな」


「そう、それなんだが――」とどうやら彼の中でスイッチが入ってしまったらしい、日頃の鬱憤が相当溜まっていたようで、彼の独断トークはしばらく続いた。





本日の主役はハロルドだ。招いた賓客と次々に挨拶を交わしている。彼も自分ももう大人になったのだ。何時までも自由だった子供ではない。彼はこの北方領の長として、自分もまた彼を助ける領主として、ロマンスなど微塵もない相手と結婚させられるのだ。貴族に自由な恋愛は難しく、どこかを割り切らなければならない。”妥協する事が大人になることだ”と自分に対して言い聞かせた。



会場は立食形式りっしょくけいしきになっているので、皿に少量づつ盛り壁寄りに考え事をしていた自分だが、一応は有名人の部類らしく、参加者に声をかけられるとにこやかに挨拶を交わし他愛のない話をしていたが、ここで出てくるのも言いたい事は「結婚してるの?」と言う事。


(この狸どもっ!人の事だろう、ほっとけよ。暇人め!)


などとは、思ってても顔には一切顔に出さず笑ってごまかすくらいの処世術は上手になった。今は嫌な相手達でも今後の事に関わってくるだろうから丁寧な物言いになる。大人な対応である。


狸達としばらく話した後、休憩がしたくて会場を抜け出した。流石に有力者の多い中、ずっと気を張り巡らすには骨が折れる。


この邸にはもう一人の幼馴染が居た。ハロルドの妹のディアナだ。ハロルドの家に遊びに来ると必ずやって来る彼女は、ブルーノにとって可愛い妹の様なお姫様だった。彼女は部屋に居るか分からなかったが、部屋の前に居た侍女によると友人と部屋で遊んでいるらしい。それなら邪魔になってはいけないと、引き返そうとしたが慌てて「ディアナ様にお伝えしますのでお待ちください」と引き止められた。


許可が取れたと急いで戻って来た侍女から聞いて部屋に入れば、見知ったディアナと彼女の友人らしい可愛らしい少女がこちらを見ていた。――彼女との出会いはこんな感じで始まった。


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