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憑かれて灰色姫  作者: 綾女
序章
6/13

04.灰色姫、家出をする(視点:七海)

やっと明るい展開になりそうです。

1章では、王都での生活編になります。

随分と長い間夢を見ていた気がする。エレーゼの記憶が私の中に流れてきたのだ。彼女の随分昔の思い出もあって、随分と笑う子だった。


あの後、私は気を失って床に倒れていた。ぼやける頭に活を入れる。……どれくらい時間が経ったのか。夜半だった空が今では明るくなっているのを見て、これは早く用意しないといけないと思った。


『良かった…気が付かれて。あれからしばらくしても目を覚まさないので心配しました……その……ごめんなさい…』



「えっと…全然気にしないでいいよ。大丈夫だから。それにこっちの世界の情報が入ってきて助かったって思ってるし。」と笑って言った。



それは本当。



彼女の過去の記憶の中にこの世界の一般常識、魔術の使い方など、私としたら非常にありがたい知識が直接頭に流れ込んできたのだ。正直、自分で覚えようと思っても無理だと思う。それだけエレーゼは頭が良い、将来は学者でも通ると思った。


それでも彼女は気にしている様子だが、気をつかってくれたのかと思ったのかそれ以上は言わなかった。本当のこと言っただけなのに。



部屋を見渡してみると、夢の中で見た部屋と比べて見てすぐ分かる。広いこの部屋にポツポツと置かれる家具が痛々しく彼女に同情した。



私は部屋のある場所まで移動すると、先ほど使い方を覚えた力ある言葉を唱えた。


解除(リリース)……!』

一瞬の閃光。


すると光と共に現れたのは大きめの革袋だった。私は、”魔術で隠されていた物”を手に収めた。ずっしりと重みがある。この中身が何なのかは知っている。純度の高い宝石だ。小さくても何年か暮らしていけるだけの価値はあるのだ。これだけあると、贅沢さえしなければ一生暮らしていけるだろう。



私の突然の行動にエレーゼは慌てた。


『あのっ、その……その宝石は私がお嫁に行くときに持っていくようお父様に頂いたものなのです。』



彼女の父は、娘が不遇な扱いを受けるかもしれぬと心配していたから死ぬ前に”これ”を渡したのだ。”これ”は正真正銘彼女の為の財産だった。恐らく、義姉が欲しかったのはこういった父親からの遺産だったのだろう。だから金目の物を次々と奪っていったのだ。


私は、彼女にとって選択枝に入らなかった言葉を口にする。


「この家から出よう、エレーゼ」

つまりは家出である。


『……え、え……ええええっ!』


このままでは、いびり倒され悪夫と結婚させられ身動きが取れない。おまけに結婚するのは体はエレーゼだが、中身は私なのだ。無関係とは言わせない。それから少し時間はかかったけど、了承も取れた。



普通の状態だったら辛い現実を受け止めようとしていた彼女。環境の変化についていけないのはお互い様だと思う。彼女もまさか魂だけの存在になる何て夢にも思わなかっただろうし……だから私達には考える時間と場所が必要だ。この悪環境は毒にしかならない。




そんな時だ。廊下から音が聞こえてきた。カッカッとかすかな音から徐々に確かな音になっていく。ここに近付く者でヒール靴を履いてやって来るのはイライザを除けば一人。何時も部屋を物色しにやって来る俗物だ。ほどなく――想像した通り、バルバラが部屋へと入って来た。



目の前に映る義姉は、夢で見た時よりも派手で香水の香りがキツい。元の世界では滅多に遭遇しないであろう肉感美人である。だが、性質の悪さは分かっているので嫌悪感が湧き上がっていく。これは貴族ではなく場末のお水女じゃないか、と七海は思った。


「おはようございます、何か用ですか?」


「あら、ここに私の気に入った物が無いかと思って。貴女にはもう不要のようですしね?この家での私の立場は貴女よりも上なのですし別に――」


続きを言いかけたバルバラは次の言葉を発する事が出来なかった。途切れる呼吸、息がまともに出来ないだろう。魔力をこの部屋一体に溢れさせたのだ。魔力の濃度が濃い中に魔力量の少ない人間を居続けさせれば下手をすれば大事になる。バルバラはこちらを”信じられない”といった目で見ていた。


「……ふざけんなっ、この馬鹿女!お前が今まで父親から出来の悪い娘と疎まれてただろうがっ。能力の高かった私や義弟を何時も邪魔そうにしてたくせに。父親が死んでから途端、偉そうにえばりちらして……この金に目のない俗物がっ!」


バルバラは呼吸が出来ないのか、必死に口をぱくぱくとさせている。まるで金魚のようだ。息が絶え絶えになり目に涙を貯めて鼻を出し、体をねじらせる様はこちらの話を聞いてるのか分からなかった。その内に意識が途切れたらしく、ばたりと転倒した。魔力の放出を止めた私は、エレーゼが泣いているのに気づいた。


「その……後のこと考えなかった、エレーゼの立場もあるのに……。でも、”これ”の言い草につい」


つい、手が出てしまったのだ。


悪意は大いにあったが、倒れてる”これ”が後になって何をするのか考えてなかった。まず継母に告げ口するのだろうな。テレビで「衝動的にやっちまったんでさあ」と刑事ドラマのセリフが横切る。。


『……ぷっ。あはははっ』



こちらの世界に来て初めて聞いたであろう彼女の声に、ぽかんとする。

怒ってはない様子だ。


『義弟と…アルベルトと同じ事言ってくれたの。私、今まで守ってくれる人があの子しかいなかった。そんな私は、アルのお荷物になってて、それが何より嫌だったの。だからここから消えて開放してあげようと思ってた。でもそれは、魂が消えてしまうなり、死ぬなり、そして家出するなり、です。』



『結婚は―――あの人達大っ嫌い、だから言いなりになるのは…もう止めました』と宣言した。


最初は、大人びた感じをしていたエレーゼ。気のせいか口調が年相応の幼さを出しているように思えた。ぽかんとしていた私だったが、すぐそれは喜ばしい事だと気づいた。


屋敷を逃げ出した私達は、国の中枢である王都へ行くことにした。人口が多くて隠れるには丁度良く、地方の圧力がかからない場所だからだ。幸いにして、私達が用心していた追っ手がかかることもなく、街道を行く馬車で何回か乗り降りを繰り返し幾日後、私たちは目的の都市を目の前にしたのだった。


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