03.彼女の悲しみ2(視点:七海+エレーゼ)
アルベルトの年齢など加執しました。
継子いじめなシーン
義理の母と義理の姉の性格はそっくりで悪いのです
決して長い時間ではなかったが、バルバラとアルベルトは互いを睨み合っていた。
その時2人だけでなく、エレーゼもカツカツと廊下から響く音がこちらに向かって来るのを聞き、バルバラの気色は綻び、アルベルトは舌打ちしてエレーゼの傍により、怖がる姉に大丈夫と囁いた。
程なくして部屋に入ってきた女。バルバラと同じく孔雀の様に豪奢なドレスに身を包み、宝石をこれでもかと散りばめ纏っている。その服装を見れば”私が女君主だ”とひと目で分かる。後妻のイライザだった。
赤の波打つ髪と良いそっくりな母娘だ。一瞬嫌そうな顔をしたアルベルトだったが、直ぐに何でもなかった顔をする。
「あら――騒がしいと思ったけれど」
「お、お母様~っ」
バルバラは母に甘えながらエレーゼを悪く言い、アルベルトが自分に対して酷い事をするの、と涙ながらに話した。自分の娘にイライザは甘く、優しく頭を撫でて可愛がる。
「可哀想に、私の優しい娘をこんなに泣かせて」
そう言うと、ギロッとエレーゼをキツく睨みつけた。猛獣に睨まれた小動物の様にビクッっと彼女は怯えてただ小さく「ごめんなさい…」と謝った。勝ち誇った義姉は「ほらごらんなさい」と大喜びで通り様、エレーゼの肩にわざと当たり、ふふんと笑って彼女の部屋から高級そうな物を物色していく。
それを忌ま忌ましそうに見ていたが、視界を外しアルベルトは母に問うた。
「して母上、こんな所まで来られるとは珍しいですね。何か要件があったのでは?」
アルベルトの心からすると「用があんならとっととやって早よ帰れ」だったのだろう。顔は笑って言ってるが目が笑っていなかった。
「おお、そうじゃった」
先ほどとは違った機嫌の良さそうな顔をしてエレーゼに向けて告げた。
「おめでとう、エレーゼ。貴女の結婚が決まったわ。」
「………え」
「お待ちください、母上!……どういう事でしょう?その様な話、私は聞いておりませんが。」
「さもあろう、言ってなかったからの」
「……私はこの家の当主ですが」
「そのとおりじゃ、そなたはこの家の当主じゃ。」
「でしたらっ――!」
「じゃが、後見無しでは何も出来ない子供じゃ、のう?」
「……っ」
ギリッ、イライザに侮辱された彼は歯を食い縛って続けた。
「……お相手は誰です?エレーゼ姉様はこの近辺からも婚約をと望む声が多いのです。家柄・財力共に問題の無い者でなければ……」
ほほほほっ、笑うイライザ。
「当たり前じゃ、我が家の娘をつまらぬ者に渡す訳がなかろう?……昨日この屋敷に来てくださったお方じゃ。」
「昨日……ま、さかあの方ですか?私に内緒にして進めていたのもそういう――」
言うだけ言えばイライザはバルバラを連れ去っていった。2人が居なくなってからなおも苦渋の表情を受けるアルベルトに、エレーゼは申し訳ないと思った。父が死んでからは継母と義姉に酷く当たられるようになって、虐められる度に守ってくれたのは心優しい弟だけだった。だから思っていたのだ。自分は今では、その優しい弟の足かせになってるのだと。義母や義姉が嫌いなのは自分だけなのだから…自分さえ居なければこの子は家でうまくやっていけるのだ。寂しい事実だとエレーゼは思う。告げられた時には覚悟はもう出来ていた。
「アルベルト……有難う、いつも私を助けてくれて…だから私結婚しようと思う。」
「……姉様…僕はっ…」
僕に力があれば…後見人が不要な年であればこんな……と項垂れた。
この国では貴族家の当主となるには基本、男児で成人でなければならない。やむ得ず満15才未満であるなら後見人が付き、当主として立場は認められているが実質の政務は後見人が全て行うのだ。アルベルトは現在12歳。後3年は、後見人が必要なのだ。
アルベルトの様子からも、相手が余程酷い人なのだろう。元々イライザが良い縁談を持ってくる訳はないのだ、しょうがない。それでもこの家の中、こうやって虐められるよりは幸せかもしれない。
「酷い人なのかもしれないけれど……でも貴族の家に生まれれば自由な恋愛は難しいし、家の為と言えばしょうがないわ」
「姉様…」
アルベルトはエレーゼに抱きつき、自分の事の様に悔しそうに泣いてくれた。それがエレーゼにはとても嬉しかった。
その日の夜、エレーゼは夢を見た。翼のある人が空を飛んでいる。信仰深かった彼女はその人を天使だと思った、いつかの宗教画に描かれているような姿だったから。しばらく綺麗と見ていたが、向こうがこちらに気がついた。大きな白き翼を羽ばたかせ、近づいてくるではないか。
「こんにちわ、お嬢さん」
天使はここに迷い込んでくるのは悩みがあり、心が死にかけている状態なのだと話す。
「ここへ来た魂は助けてあげたいから叶えられる願いなら聞いてあげるよ」と言うのだ。
エレーゼは夢の中で正直に気持ちを言った。
ただ、儚くなりたいのだと――