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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第二部 現と虚ろ
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第十三章 現 13-1

 後宮に賊が入ったとして、狙われるべきは王妃わたしだ。なのに―――


「ファイリーンが攫われて、巫女が倒れた?何それ?」



▼▼▼▼▼



 オルロック・ファシズとの通信を終えて聞かされた、後宮への侵入者の一報。

 急いで後宮に戻ろうとしたら、エドの妨害&レグナの人海戦術(たくさんの兵に囲まれた)で半ば拘束されるように、私は世界塔の一室に軟禁と相成った。

 人目がありすぎて力づくで兵たちを振り切ることもできず、かといって、守られているのも性に合わない。

 なので、大人しく部屋にいる代わりに正確な情報を要求すれば、エドにすげなく断られる。だから、まずは一押し。


「なら、全力出して、ここから脱出するけど?」


 その言葉の意味するところを、オズ魔導研究所時代の私を知るものなら語らずとも察する。

 まあ、エドが知るのは私の本当の実力ではなくて、尾ひれがついた噂だろうけど、その方が誇張されていて、この場合都合がいい。

 しかし、彼の顔がヒクリとひきつるのは確認できたが、ぐっと踏みとどまって、再び私にNoを突き付ける―――致し方ない。もう一押しじゃ。


「あ、それとも、フィリーにあの写真の事――――」

「わかった。すぐ、後宮で情報を集める。それ以上、何も言うな」


 言葉と共に、手のひらを目の前にかざされて、最後まで言わせてもらえず遮られる。

 なんて言うか……フィリーがすごすぎる?いや、フィリーに対するエドの思いがすごいのか?いや、そこまで思わせるフィリーがやっぱりすごいのか?

 そんな堂々巡りで、場違いな感想を抱く私に見送られて、くれぐれも大人しくしていろと言い残して、後宮に情報収集に向かったエド。

 かくして、さすがフィリーお抱えの隠密(?)のエドは、私がそろそろ部屋を出てしまおうかなんてことを考え出した頃、知りたい情報を仕入れてきてくれた。

 そこを踏まえての冒頭の私の呟きになるわけである。



▼▼▼▼▼



「結論から言えば、そういうことらしい」

「いやいやいや。どうして、ファイリーンが攫われて?それに、どうして、リリナカナイが後宮に?私がいた時はいなかったわよ?」


 混乱が先だって、矢継ぎ早になる私にエドが落ち着けと言いながら、淡々と疑問に答えてくれる。


「王妃が出て行ってから、巫女が陛下を探して後宮にたどり着いたらしい。戻ってくるだろうと、そのまま後宮で陛下を待っていた所に賊が侵入したらしい」

「賊に襲われて怪我を?」

「賊に何かをされた様子はないという話だがな。外傷もない。だけど、意識が戻らないらしい。魔導か呪いの可能性もあるから、筆頭魔導士が呼ばれて、今、巫女を診ている最中だ」

「他に怪我人は?」

「侍女は無傷。衛兵も無傷か軽症。そもそも賊が後宮内にいたのは、ほんの数分の間らしい。後はファイリーンを誘拐して、ドロンだ」


 思わず額に手を当てて、天井を仰ぎ見た。

 先日の<神を天に戴く者>の後宮侵入のカラクリが判明したため(番外編『ルッティと秘密の小部屋』参照)、それに対する対策を行ったというのに、再び賊の侵入を許した。

 それもいきなり現れて、いきなり消えた…世界塔でないにしろ後宮も魔導壁が張られているし、衛兵の数も少なくはない…にも関わらずのこの暴挙。

 この手のことはイタチごっこなのが常ではあるけど、何度もこう簡単に侵入を許していては、私も枕を高くして眠ることができない。


「賊の目的はファイリーンの誘拐だったの?」

「それについては情報が錯綜中だ。目撃者は多いから、事情聴取を待って、情報が整理されるのを待ったほうがいいだろう。その辺りはレグナが采配を振るってるから、また話が聞けると思う。ただ―――」


 不意にエドが言葉を切った。不思議に思って彼を見れば、神妙な面持ちで彼は私を見ていた。


「アルマ博士は攫われたわけじゃないのかもしれない」

「?」

「どうも賊と顔見知りだったようで、賊はアルマ博士の名を呼び、博士は賊を『カイン』と呼んでいたらしい」


―――『カイン・アベルという名に覚えはありませんか?』

―――『<第三の箱庭>の十将の名を知らないわけじゃないだろう』


 別れる前のファイリーンの言葉と、イクシズとの会話がフラッシュバックした。


「彼女は元々マリア・アルスデンとの共謀の可能性もあっただろう?もしかしたら、誘拐ではなく姉同様、仲間が助けに来たのではという可能性もあるだろうと教会側は考えて―――どうかしたか?」


 絶句する私の様子に、怪訝そうに眉をひそめるエド。そんな彼に何でもないと首を振って先を促す。

 何でもない訳がない。

 だけど、これは先程のイクシズとの会話でも過った推測だ。だけど、その推測はこの事態でさらに面倒さに拍車をかけた。

 フル回転する理性に、感情が追い付いてこない。

 『そんな』『まさか』『でも』『どうして』、そんな言葉が頭の中を駆け巡り、だけど、私の中で事実が見えてきても、やっぱり最後に『どうして』という言葉が残って、何一つ核心にたどり着けない。


 恐らく今回侵入したカインは、私が知っている人物だ。

 ファイリーンから名を聞いたときは知らなかったけど、それは私が知る彼の三つ目の名前だったとイクシズから知らされた。


 カイン・アベル―――彼は『偽王』、<第三の箱庭>の王だ。


 それが先日のマリア・アルスデンの誘拐にも関わっている。それはすなわち<神を天に戴く者>に通じる可能性が高いということ。

 安直な考えだけど、それはすなわち<第三の箱庭>がレディール・ファシズに何らかの敵対行動を仕掛けようとしていると考えることはできないだろうか?

 更にはイクシズの話から、オルロック・ファシズともきな臭い状況であるというのに。


―――<第三の箱庭>で一体、何が起きているのだろう?


 何かが起こっているのは間違いない。だけど、その『何か』の手がかりが何もない。


―――これはオルロック・ファシズの諜報活動を待っている時間はないかもしれない


 イクシズから聞いた話よりも緊急性を要する可能性が高くなって、私は瞬時に決断をして、エドの話を止める。


「エド。私は今日中に後宮に戻れるの?」

「は?おい、話はまだ途中―――」

「話はあとでゆっくり聞く、先に質問に答えて」

「……多分。無理だろう。何せ賊の侵入が二回目だ。今日はこのまま、この世界塔の客室を使うことになるだろうな」

「じゃあ、荷物を一つ取ってきてほしいの」

「おい、だから、俺の話を―――」


 かくして、エドは私の言う通り荷物を持ってきてくれた。押し問答の末、先ほどと同じ会話を繰り返して。(荷物を持ってきてもらってから、ちゃんと話は聞かせていただきました)

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