表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛していると言わない  作者: あしなが犬
第一部 現在と過去
46/113

閑話 声を大にして言いたい(オーギュスト編)

―――あらあらあら…あたしったら、育て方を間違ったかしら?


 本当は色々と声を大にして言いたいことはあるけれど、それをしちゃうと彼が臍を曲げてしまって、状況がややこしくなる様な気がして、あたしはとりあえず口を噤んだ…心の中で細く笑みつつ。



▼▼▼▼▼



 とりあえず、先に自己紹介しちゃうわね。

 あたしの名前はオーギュスト・ロダン。こんなしゃべり方だけど、れっきとした成人男性。

 男らしいしゃべり方ができない訳じゃないけど、人生の大半をこんな感じで過ごしてきちゃったもんだから、こういうあたしが一番自然体なのよ。

 あ、だけど、恋愛対象は可愛らしい女子限定だから、そこの所は変な勘違いはよしてね。


 さてさて、そんなあたしがずっと日となり影となり共にあるのが、思わず『育て方間違っちゃったかしら?』発言の元であるフィリー。こんな言い方したもんなら、


「お前に育てられた覚えはない。」


 と可愛くないお言葉を貰うにきまっているけれど、実際、彼の家族よりあたしの方が余程長い時間を過ごしているのは間違いない。

 そもそも、フィリーとの出会いは、あたしの父親が前世界王ケルヴィン様の従者だった縁が大きく関わっているわ。

 ケルヴィン様命な父親は、当然のように亡命にも付いていき、まだ乳飲み子だったあたしと母親を連れて、一緒にオルロック・ファシズに渡った訳。

 それでフィリーが生まれた暁には、あたしの意思なんて無視で気が付いたらフィリーの従僕にさせられていたのよねぇ。

 幼い頃のフィリーは目に入れても痛くないくらい可愛かったらいいけど、憎たらしく成長しちゃった今となっては、従僕なんて本当に面倒くさい立ち位置でしかないわ。

 まあ、フィリーがあたしを本当の意味で従僕扱いしたことはないし、至って対等な仲間として扱ってくれているから、あんまり気にしたことはないけど。


 と、まああたしの話はこれくらいにして、ここからが本題よ。どうして、あたしが思わず育て方を間違ったと思った理由といえば、ケルヴィン様と話が終わって部屋から出てきたフィリーの話を聞いたから。ちなみに第一声は、


「オルロック・ファシズの女性を王妃に迎える。準備をしといてくれ。」


 言われた言葉も衝撃だった(レグナは大口開けて固まっている)けど、理由もなくそう言われても『はいそうですか』と言える訳がない。


「いきなりそれだけ言われて、従えるわけないでしょ!理由を言いなさい!!」


 自分でも低い声を無理やり高くしてヒステリックに叫ぶのはしんどいけれど、これくらい言わないと、この子は説明するのを面倒くさがるの。

 まったく、昔から言葉足らずな所があるけれど、大人になるにつれてそれに拍車がかかったような気がするのは、あたしの気のせいかしら?


 かくして、あたしたちが退出した後、妃候補として現れたアイルフィーダ嬢との会話と、それを聞いてフィリーがどうするつもりかという話を聞いて、冒頭のあたしの心の嘆きと相成った訳。


(この子って案外、自分の感情には鈍感だったのねぇ)


 まるで件の女性アイルフィーダの事を利用する気満々の様子を見せているけど(まあ、利用する部分もあるんだろうけど)、彼女が嫁いできてくれるという事をとても重要視している事にフィリーは自分で気が付いていない。

 そもそも、女性が誰であるか匂わせた途端に、話を聞く気になったフィリーを可笑しいとは思ったのよね。


「アイルフィーダ相手ならアイツより詳しい話が聞けると思ったからな」


 なんて理屈っぽく言って見せたけど、それは別に相手がアイルフィーダ嬢じゃなくたって同じことじゃない?

 ケルヴィン様が女性と二人っきりで話す場を設けた時点で、それが理由ならあの場で退出しようとする必要はなかった。要するに女性から話を聞くよりも、フィリーはケルヴィン様の言う通りにするのが嫌だった。

 なのに、その相手がアイルフィーダ嬢だと分かった途端に態度を改めた。それすなわち、ケルヴィン様のいう事を聞くという屈辱より、彼女と会いたかったってこと。

 だけど、その辺り根本的なことをフィリーは分かっていない。


「わざわざオルロック・ファシズの女を王妃にしなくてもいいんじゃないか?」

「彼女以外を妃に迎える予定は俺の中にない。ならば彼女を王妃にするしかないだろう。」

「はあ?」


 淡々と告げられる言葉に二の句を告げられないレグナ。


「教会や貴族から妃を貰えば、後でいらぬ口出しをしてくるのが目に見えているからな。教会や貴族相手に口出しされれば面倒な駆け引きが必要だが、アイルフィーダの場合はそれがオルロック・ファシズ相手になる。ある意味、完全拒否を貫ける相手というのはそれはそれで楽だろう。」

「…はあ」


 理路整然と言っているように見せかけているけど、あたしにはそれがアイルフィーダ嬢を妃にしたいゆえの後付けの理由に聞こえてならないのよね。だって、口出ししてくるのがオルロック・ファシズ相手の方があたしには余程面倒だと思うわよ。

 レグナもとりあえず頷きつつも釈然としないらしく、返事に覇気がない。

 そう、鈍そうな親父レグナでさえ、フィリーの様子がおかしいことに気が付いているのに、どうして本人がそれに気が付かないのかしら?


(ここはずばりあたしが気が付かせてやろうじゃない!)


「フィリー、あんた、アイルちゃんのことが好きなのね?」


 そう言えば女性の扱いについてはマナーから実践まで、あたしが色々教えてあげたこともあるし、適当に隠れて遊んでいる様子だったけど、実際の恋愛についてはフィリーの生い立ちや人生を考えれば、そんな余裕はなかったとしか言いようがない。

 アイルフィーダという女性が、どういう人物でフィリーとどう関わり、今後どうなっていくかは定かじゃないけど、兄同然のあたしとしてはこれはいっちょ応援してあげなくてはという気に俄然なる。


「何を馬鹿なことを言っているんだ。後、彼女の事を勝手に愛称で呼ぶな。」


 だけど、返ってきたのは顔色一つ変えない反応と、それでいて独占欲丸出しの言葉。

 せめて、動揺の一つでもしてくれればツッコミ所があるけれど、取りつく島もない様子に、これ以上、この事に関して話題を掘り下げられる気がしない。

 そもそもの大前提として、この子ったら、本気の本気で自分の感情に気が付いていない。

 冷静沈着、状況判断も的確だし、他人の感情の機敏にも敏いフィリーが、まさかのまさか自分の色恋に関してだけは、もんのすごい鈍感だったとは……そういう経験もさせておけばよかったかしら?

 そうは思いつつも、全ては後の祭り。


(これはアイルちゃんにも苦労かけるわねぇ。申し訳ないわぁ)


 なんて、こっそりまだ見ぬフィリーのお嫁さんに心の中だけで頭を下げる。

 だけど、同時にそれが酷く楽しみだったりもする。

 まさか、フィリーが無意識下でぞっこんの女性を妃にするなんて、これって一生からかって楽しめるネタに違いない。


(うふふ。しばらく退屈せずに済みそーね)


 そんな風に気楽に考えられるのが、僅かな時間だという事をこの時のあたしは気が付いていなかったのよね。

 この先の事をもし知っていたら、彼女の輿入れを何が何でも止めていたわ。

 何しろこの先、自分の感情を自覚したフィリーに散々こき使われ、色々な本性を露わにしたアイルフィーダ嬢に散々振り回されることになるなんて、この時のあたしに想像できるはずがなかったんだから…はあああ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ