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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第一部 現在と過去
41/113

6-6

拙いですが戦闘描写有です。苦手な方は避けてください。

 避けても避けても降り注ぐ鉄格子。

 天井から落ちるそれは大広間の磨き抜かれた床を容赦なく貫き、穴をあける。その威力にあれが人間に当たれば、タダでは済まないだろうことが容易に想像できた。

 ランスロットに抱えられているからこそ、それを観察することができている私だけど、大多数の貴族を閉じ込めた檻から運よく逃れられた後、それを避けるために悲鳴を上げて逃げ惑う人々にそんな余裕は皆無だ。

 騎士たちも貴族たちを守ろうとしているが、襲いくる鉄格子に遮られる。

 檻に閉じ込められた人々、鉄格子の雨から逃げ惑う人々、止まぬ怒号と悲鳴……先ほどまでの幸せで満ち足りた空気の名残も存在しない惨状に私も混乱するしかない。


(フィリーやリリナカナイは大丈夫なの!?)


 多くの貴族と騎士が閉じ込められた檻の奥にある玉座の様子が、こちらからでは全く分からない。玉座にもこうして鉄格子が降り注ぎ彼らは閉じ込められているのか、はたまた逃げられたのか。


「とりあえず、このまま安全な場所に移動します!」

「え、ええ。」


 私が承諾すると同時にランスロットは、鉄格子に気を配りつつも一気に扉が開け放たれている出入り口へと駆け出す。その速さは私という荷物を抱えていることを感じさせない。

 そのまま大広間を出ようとした瞬間だ。ランスロットが出入り口の直前で急に止まり、私は抱えられつつも態勢を崩す。

 思わず前のめりなった私のすぐ目の前に、何かがものすごいスピードで落ちてくる。

 空気をきる鋭い音とと共に、ハラリ―――色を変えた髪が落ちてきた何かに切り裂かれて落ちる。

 まさに紙一重!鉄格子がランスロットが使おうとしていた出入り口を塞いだのだ。


「っち。出入り口を全部塞がれたみたいだ。こうなったら、力づくでぶち破るしかないな。王妃、少しだけ揺れますよ。」


 両腕から片方の腕一本で私を肩に担ぐと、腰の剣を抜き、ランスロットはそれに魔導を込める。銀に輝く剣がぼんやりと青白く光ったのがその証拠だ。

 彼は出入り口を塞ぐ鉄格子を破るためにその剣で切りつける…が、刃は呆気なく弾き返された。


「なっ!?」


 それに驚愕の声を上げるランスロットの気持ちも分からないでもないけれど、内心で私は『やっぱりなぁ』と呟いた。

 ただの剣で鉄格子を切ることができなくて当然だろうけれど、魔導を込めた剣ともなれば、その程度の大小はあれど鉄格子を切り捨てることなんて造作もないはずだ。

 それができないということは……必然的にランスロットの実力も何となく察しが付くというもので、


(あんまり強い騎士って訳じゃあないのね。何というか期待を裏切らないわ)


 自信満々に鉄格子を切り捨てるつもりが、呆気なく弾き返されて愕然とするランスロットに場違いな感想を抱く私だったけど、次の瞬間、ぞわりと背筋を悪寒が走った。


「その鉄格子は魔導を受け付けない術がかけられている。その程度の魔導では絶対に破れない。」


 背後から突如として聞こえてくる、周囲の喧騒に紛れそうなほどに静かな声なのにとても響く声。

 それが聞こえたと思った途端に、それまでランスロットに抱えられていた体が投げ出されて床に叩きつけられる。

 そして、床に叩きつけられた衝撃をやり過ごす間もなく、上から容赦なく降り注ぐ鉄格子にはっとして、私は床を転がってそれを避け、その勢いを利用して立ち上がりながら壁に張り付く。

 その拍子にドレスに付いていたフリルやレースが破れ、上品に纏められた髪も無残に崩れて顔にかかった。


「うわ!!」


 だけど、それを気にする間もなく私の目の前には、こちらに向かって迫る刃!!

 壁際にいるので後ろに避けることはできず、思いっきり左に横っ飛びする。


―――グワシャ!!


 私という標的に避けられて刃は壁に突き刺さる…いや、突き刺さるなんて生易しいものじゃない。刃は壁ごと抉り崩した。

 その威力に刃をふるう人物の力以上に、それに込められた魔導の力の強さが伺えて、私はごくりと唾を飲み込んだ。


「今のを避けるとは、中々やるじゃないか。」

「……」

「髪の色を変えたくらいで、標的が分からないはずがないだろう。オルロック・ファシズの王妃よ。」


 そうして、やっと対峙した相手は間違いなく先日、私を襲った侵入者。辺りを見回せば、彼だけでなく数十人の侵入者が大広間の中に突如として現れ、騎士たちと交戦を始めていた。

 恐らくさっき私が床にたたきつけられたのは、ランスロットがこの侵入者に攻撃を受けたからだろう。そのランスロットは―――


「この間は邪魔が入ったが、今日こそは心置きなく貴様を殺させてもら―――」


―――ガン!!


 侵入者の言葉の途中で背後から攻撃を仕掛けた。

 だけど、侵入者は自身より大きい剣を重さを感じさせない速さで扱うと、ランスロットの一撃を受け止める。

 体はこちらに向けたまま、首だけランスロットの方に向ける侵入者の視線は感情をうつさない静けさを湛え、先日、私を襲った時のような狂気も見当たらない。

 だけど、私はその冷たさに、侵入者の強さのほどを推察する。


(多分、ランスロットでは歯が立たない)


 私のその直観は悲しいことに当たっていたらしく、続けざまに繰り出されたランスロットの勢いある攻撃の全ては侵入者によって悉く退けられ、逆に侵入者が攻撃に転じた一撃で彼はいとも簡単に床に沈んだ。

 かかった時間は数十秒…あまりの呆気なさに口元が引きつった。

 幸いに受けたのは打ち身だけらしく、苦しみうめく声とともに床でのたうち回るランスロット。動けないようだけれど生きているので一安心…だけど、せめて私が逃げるか対策を考えるくらいの時間稼ぎはしてほしかった。

 ほかの騎士たちも現れた侵入者の対応で、私を助ける余裕があるようには見えない。


「さあ、今度こそ」

「何で私なの?」


 どうにも私を殺すということに執着を見せている侵入者が分からなくて眉を顰める。

 この場にはフィリーもいるのだ。それを言って、フィリーを襲いにでもいかれたら困るので言わないけれど、<神を天に戴く者>の目的を考えれば、私を殺すよりも世界王であるフィリーを狙うのが本願であろう。

 だから、そう問うた。すると、侵入者はこちらを心底不思議そうに見返してくる。


「そんなの当たり前だろう?俺は一番強い奴と殺し合いがしたいんだ。<神を天に戴く者>にいるのも、強い奴に会うためだからな。この城の中じゃあ、貴様が一番強いってアイツが言っていたから。だから、貴様を殺したい。それだけだ。」


 言っていることは物騒すぎることこの上ないけれど、その声色は楽しげだ。

 どこか狂っているとしか言えない侵入者の発言。だけど、それ以上に男が『私が強い』と思っている事実に驚く。


「アイツって誰?その人のいう事は信用できるの?私のどこが強く見えて?」

「アイツのことは貴様には関係ない。強いかどうかは、今から確かめるさ。」


 すっと音もなく剣が私に突き付けられる。磨かれ、シャンデリアの光に反射して輝く剣は、その大きさゆえに二人の間にある距離を一気に埋めてしまう。

 どうやら本気の本気で私と【殺し合い】とやらをしたいらしい侵入者に、私もそうそう簡単に殺されてやる訳にもいかない。

 だけど、戦う武器もなく、足元も覚束ない高いヒールの私は絶対的に不利というしかなく。更に現状では援護も救助も望めない。

 ちらりと近くの鉄格子で塞がれた出入り口に目を向けると、すぐそこに多くの騎士や魔導師がいるが、鉄格子を破るすべがないらしく立ち往生しているだけだ。


(仕方がない)


 私は腕を後ろに回して、左手で右手の親指に嵌めた指輪を手袋の上から触れた。幼い頃から私の指にずっと嵌っている指輪。

 王妃として相応しいものではないだろうけど、大抵は手袋をして公に出ているので咎められたことはない。

 私はじりじりと後退しながら右手の手袋を外し、指輪を外そうと指をかけた。


「アイルフィーダ!!」


 名を呼ばれ、はっとした瞬間には私と侵入者の間に誰か―――いや、私がよく見知った背中が立ちはだかる。


「フィリー!」


 私は悲鳴のようにその名を呼ぶ。


「大丈夫か?」


 背を向けたまま聞かれて、私は半狂乱になった。


「大丈夫じゃないわ!どうして!?早く逃げて!!」


 その背に掴みかかり、私は彼の前に一歩出ようとするが遮られる。


(信じられない!この状況で世界王が一人だなんて!!!)


 助けに来てくれた喜びより、自ら危険に飛び込んできたフィリーの無謀さに怒りを感じた。


「君は俺が守る。」


 そんな甘い言葉にも今は何も感じない。感じる余裕がない。


「何を言っているの!?他にも侵入者はいるのよ?私に構わずはや―――」

「心配するな。ほかの侵入者は、巫女と騎士が引きつけている。唯一残っているのは、君を狙っているこの侵入者だけだ。」


 言われて広間の中心に少しだけ視線を向けると、それまでバラバラに戦っていたはずの騎士らが一丸となり、侵入者たちと戦っている。その中心にいるのは剣を持ったリリナカナイだ。


「巫女は戦乙女としての側面を持つ。リリナに任せておけば、侵入者の鎮圧は時間の問題だ。俺だってそれなりに強い。」


 確かにどうやら戦況はリリナカナイを中心とした騎士たちの方が有利のように見えた。驚くことに、白いドレスに身を包んだまま、まるで舞でも踊るようにリリナカナイは軽やかに、だけど、確実に侵入者たちを攻めたてている。

 その強さは騎士たちよりも遥かに早く、力強いように見えた。

 しかし、その攻撃の合間に彼女がこちらを気にするように視線を向けてくるのが分かった。彼女もフィリーが侵入者と対峙していることを心配しているのだ。


「それとこれは話が別よ!私も自分の身は自分で守るから!!コイツは私を狙っているの!私のせいで貴方に何かあったら!!!」


 あまりの余裕の無さに話し方が敬語をすっ飛ばして、昔のようになってしまう。

 フィリーの強さがどれくらいかなど私は知らない。だけど、例え強くても彼に危険を冒してほしくはないのだ。


「ふーん。あんたが世界王か。あんたと殺し合いするのも楽しそうだね……いいよ、邪魔するなら相手をしてやるよぉおおお!!」


 この前と同じだ。いよいよ、本気モードにになった侵入者は物静かな雰囲気を一転させて、テンションを急上昇させて叫びながら、真っ赤に光る剣を振り上げた。剣から生まれた炎が、私たちに向かって生き物のごとく襲いかかる。

 逃げなくてはとフィリーの腕をとろうとしたけれど、その前に彼は腕を前に出し何か小さく言葉を発する。すると、炎が全て一瞬にして消え去った。

後書きは活動報告にあります。

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