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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第一部 現在と過去
39/113

6-4

(やっぱり、王妃として参加を辞退したのは正解だったな)


 ぽつりと心の中で呟いた言葉は、負け惜しみでも、強がりでもない掛け値なしに私の本音。

 ファイリーンから地獄の特訓を受けたのだから、誰かと…ううん、フィリーと踊りたいという気持ちがない訳じゃない。だけど、


「ああ、本当にお美しいわねぇ」

「まるで互いが互いのために存在しているかのように、似合いのお二人だ。」

「あれほど見栄えのする世界王と巫女も珍しい。」


 囁きあう貴族たちの言葉を聞きながら、大広間で立った二人で踊るフィリーとリリナカナイをただただ見つめているしかできないでいると、次第にそんな気持ちは萎んでいった。荒れ狂っていた感情も不思議と静まる。

 この感情の動きに何と名を付けていいのか、私にもよく分からないけれど、近い言葉は…諦め?失望?色々な感情の名前は思い浮かぶけれど、どれも今の心情の的を得た言葉ではない気がする。

 互いに白い婚礼衣装(まで豪奢とは言わないかな?)を身に纏い、広い大広間の中央で人々の祝福の眼差しに見守られながら、息の合ったダンスを優雅に舞う二人。

 それはまさに絵に描いたような、誰しもが見とれてしまう美しさ。

 シャンデリアの瞬く光に照らされ輝く純白の衣装、ふわふわと舞う金と銀の髪、絡み合う青と赤の瞳…全ての調和がとれ、何人も二人の世界を邪魔することを許されないような、絶対的な美しさと神聖な雰囲気に私は完全に飲まれていた。

 だから、この場に王妃として存在していないことを安堵してしまうんだろう。

 この光景を見てしまったら、リリナカナイと入れ替わった自分を想像したとき、あまりの場違いさに羞恥心で死ねるような気がする。


(今はそんなことで打ちひしがれている場合じゃないわ…<神を天に戴く者>がフィリーを狙うなら今が絶好の機会のはずよ)


 躍る二人に目を奪われたのは数十秒のこと、醜い感情を振り払うように首を振って気持ちを切り替えると、私は二人に見とれる貴族の人混みを縫うように歩き出した。

 踊っている間はさすがに騎士も張り付いて警護する訳にはいかず、少し離れた場所で見ているしかない。だからこそ、フィリーを狙う絶好の機会なのだ。少なくとも私ならこの時を選ぶ。


「アイルフィーダ様?!」

「ルッティ、さっき言っていたアルスデン伯爵夫人が、どの辺りにいるか分かる?」


 急に人混みを歩き出した私に慌ててルッティが付いてくる。

 そんな彼女に声はかけつつ周囲を見回すけど、溢れかえる金髪に豪華な衣装いという誰も彼もがよく似た他人みたいな集団の中で、知らない人物を探し当てるというのは難しい。


「私もこの人込みでは分からないです。先ほども気にされていましたよね?何かあるのですか?」

「あるという確信はないわ。だけど、何かがある可能性はゼロじゃない。何が起こるだろうという漠然としたものを不安に感じるより、可能性を一つ一つつぶしていた方が私は気が楽なの。」

「???」


 二人のダンスの間が絶好のチャンスであるという事実は変わりない。それについては、山ほどの騎士が警戒している現状で私ができる事は少ない。

 それと同じくらい現状で問題なのは、何が起こるか分からない疑似結婚式というイベント。

 何がどのように進んでいくか分からない上に、その思惑が見えない。アルスデン伯爵夫人とやらが信用できるかも、私には不明である中、彼女を監視しておくという事は無駄になる可能性も大きいけど、現状では必要なことに違いない。

 もっとも、そんな事はレグナだって考えてはいるだろう。

 だけど、似合いすぎる二人を見ているしかないよりは、しなくてもいい心配をしている方が、数倍気持ち的には楽なのだ。


「仰っている意味は分かりませんが、要するにアイルフィーダ様はこの現状を打破したいということですか?」

「打破?」

「でしたら、いい案がございます!!」


 問いに諾と答える前にルッティの表情が輝いて、私の両手を掴んだ。その勢いに押された私は高いヒールによろめいて、近くの貴族にぶつかってしまう。

 周囲に白い目で見られて、頭を下げながら私は自分の世界に完全に入り込んでしまったルッティを引きずって貴族の集団から抜け出す。

 今は二人が躍っているのをたくさんの貴族が囲むようにしているので、人混みさえ脱してしまえば広々とした大広間には護衛の騎士くらいしかいない。


「いきなりどう―――」

「当て馬でございます、アイルフィーダ様!」

「はあ??」


 きらきらと可愛らしい笑顔のルッティに私は盛大に顔を顰めた。


「幸いに今ここには当て馬にうってつけの殿方が、そこかしこにいらっしゃるではないですか!陛下との現状を打破するために、ここは一つ他の殿方と親しげにしている様子を見せつけて焼き餅の一つでも陛下に焼いていただくのです!!」


(……はじまっちゃった)


 先日の一件からどうやら箍が完全に外れてしまったルッティは、基本的に侍女としての仕事を完璧にこなしてくれるが、こうして妄想スイッチが入ってしまうと状況も他人の言うこともまるで関係なくなって、自分の世界に入り込んでしまう。

 基本的に害はなく、見当はずれな事ばかりいう彼女の言動が面白くていつもは聞いてあげているのだけど(聞いているだけで実践したことはない)、今はその時間はない。


「はいはい。その話は後でね。それより貴方もアルスデン伯爵夫人を探し―――」

「ご気分でもすぐれませんか?」


 ルッティを軽くあしらって伯爵夫人を探しに行こうとすると、貴族の人混みから抜け出した私を心配してくれた誰かに背後から声をかけられる。


「あ、いいえ。大丈夫で…す?」


 その声に振り返りながら私の声が、思わず最後に上ずって疑問形のようになってしまう。何故なら声をかけた人物が見知った人物であったため驚いたのだ。

 だけど、それは相手も同じだったらしい。


「王妃…?」


 相手も疑問形なのは、私が金髪で先日会った時とはまるで印象が違うからだろう。だけど、顔は基本的に同じなので、相手にはすぐに私だと分かったらしい。

 別にそれを隠す相手ではなかったので、問われて一つ頷く。それを見て先日見た時も派手だと感じたけど、今日が舞踏会だからか、より一層華やかさに磨きがかかった相手が酷く大げさに目を見開いた。


「どうして、ここにいるんですか?」


 その言葉の咎めるような言い方に、私は相手に先日感じた凶悪な感情を思い出す。

 途端に自然と顔に笑みが作られるのを感じて、私って変なところで強いなぁと他人事のように感心する。


「私がここにいるのはレグナ近衛騎士団長の采配です。疑われるなら確認して頂いても構いませんよ?ランスロット様。」


 その笑顔と笑っていない声音に先日の一件を思い出したらしく、彼、ランスロットは華やかすぎる顔を引くつかせる。


「そ、そうですか。……それはそれは災難でしたね。」


 それから何とか崩れた顔を整えて、見るからに好青年の皮を被り直したランスロットと対しながら、私は今更遅いのにと心の中で忍び笑う。

 だが、どうやらランスロットとしては先日の雪辱を晴らしたいらしい。


「貴方という人がありながら、陛下も罪な方だ。そう思いませんか?」


 どう聞いても嫌味にしか聞こえない言葉を吐いて、ちらりと貴族の人だかりに視線を送る。それに釣られて視線を送ると、ちょうど二人のダンスが終わったらしく、楽団の演奏が終わり、大きな拍手が割れんばかりに響いた。


「貴方もこの状況は想像できたでしょうに、わざわざお二人の仲睦まじい様子を見に来るとは…逞しいと申しますか。図太いと申しますか。」

「あ、アイルフィーダ様」


 畳みかけるように言葉をつづけるランスロットはお伽噺の王子のように優しげで優雅だ。だけど、その言葉は先日会った時と同じように、丁寧に話しているはずなのに全く敬意の感じられない、むしろ私を傷つけたくて仕方がないという意識が強く感じられる。

 堪らずルッティが声を上げるので、安心させるために振り返ると、想像とは違って酷く楽しそうな顔をしている彼女がいた。


「ちょうどいい当て馬ですよ!」


 しかも、弾んだその声(小声だけど)に思わず脱力。まだ、妄想スイッチは入りっぱなしだったようだ。

 まだ、ごちゃごちゃと妄想を続けようとするルッティはこの際、無視しておくに限る。(無視しておいても、勝手に一人で盛り上がっていてくれるし)

 私はダンスが終わり、鳴り止まない拍手を受けながら広間から玉座のある壇上に上がる二人に目を向ける。


(結局、何もなかったわね。これから…?それとも、また別の機会を狙っているの?)


 侵入者どころか、騎士が動く気配もなかった。何もないに越したことはないけれど、あまりの静けさに不気味な印象すら受ける。

 だけど、まだ疑似結婚式とやらがあるはずだし、こんな所で足止めにあっている場合でもないから、さっさとアルスデン伯爵夫人を探しに行かなくてはと思っていると、黙った私に何を勘違いしたかランスロットはなおも言葉を続けてくる。

 いい加減、私にかまっている暇があったら警護の任に戻れと言いたくなった。


「まあ、貴方も陛下のためだとレグナ団長殿に言われては従うしかありませよね。考えてみれば貴方もお可哀想な身の上だ。たった一人、孤立無援の状況で頼りたいはずの夫には既に大切な人がいる。」


 今まで面と向かって言われたことも無い、容赦のない事実。自分では何度も考えたことだけれど、他人に言われるとまた違った印象を受けるものだ。


―――ペキリ


 握りしめ続けていた扇から、何かが折れた音がした。


「だけど、貴方は世界王妃。世界王のためだけに存在しなければいけない存在。ああ、その心をお慰めできればいいのですが!!」


 最後は自分の言葉に酔ったのか、悶えるように身体を捻るランスロットにルッティからぽつりと『ナルシストの上にうざいキャラですね』と、冷静かつ正確なツッコミが漏れる。

 それにほんの少し笑いを誘われながら、それよりも私の中でどうしても我慢ならない言葉に心が先日以上に苛ついているのを感じた。


(あーあ、私をまた怒らせたね……さて、どうやって仕返ししてあげようかしら?やられたものは三倍返しが鉄則よね?)


 なんて、あっけらかんと考えている視界の端に、ダンスが終わったために散り散りになっていく貴族たちが私たちの傍にもやってくるのが見えた。

 彼らが私たちの声を聴く事ができる距離に来たのを確認して、私は唐突に顔を手で押さえるとわあっと、下品でない程度に泣き出した。……ちなみに涙は出ていない。


「酷い!ランスロット様、そのお言葉はあんまりです!!」


 さして大きな声ではないが、どうみても尋常ではない私の様子にぎょっとしたのは対しているランスロットだけではない。

 周りの噂好きの貴族たちが一斉に私たちの方に注目するのを感じた。


「な!?え???」


 動揺して騒ぐ私を宥めようとするランスロットを交わし、控えていたルッティに抱きつく。

 果たして妄想大好きルッティが、この面白い状況に乗らないはずもなく…


「ああ、お可哀想なお嬢様!!女性に対するこのお言葉、騎士として、いいえ!人間として何と下劣な態度でしょう!!」

「な、何を言う!!」


 いささか大げさな言葉のような気もするけど、概ね私のやりたいことを理解しているらしいルッティの非難に、顔色を変えるランスロット。

 しかし、現状はあまりに彼にとって不利だ。

 遠巻きに、だけど、確実にこちらを窺うたくさんの視線。囁かれる言葉。


「あれは巫女付のランスロットか?こんな所で女と会っているとは、それでも騎士か?」

「あの色男め、こんなところまで痴話喧嘩か?」

「誰なのかしら、あちらの令嬢は見覚えがないわね?」


 ここにいる貴族が私を王妃だと思うものは誰もいまい。騒がれ、噂されて困るのはランスロットだけだ。

 いい気味だと思いつつ、ふと生ぬるい貴族の視線ではなくて、強い何かを感じて私は伏せた顔を少しだけ上げる。


(……フィリー?)


 その視線の先にかなり離れた距離にもかかわらず、フィリーがいることに心臓が大きく高鳴る。

 まさか自分に気が付いている訳がないとは思いつつ、こちらにしっかり視線を合わせられているような気がして、私はルッティから離れて彼の方へ一歩踏み出そうとして、後方へ引っ張られる。


「こっちへ来い!」


 居たたまれなくなったランスロットが場所を移すために、私の腕をとって歩き出す。


「離し―――」


 フィリーの方へ意識を持って行かれていたため驚き対応が遅れるが、その手を振り払ってもう一度フィリーの視線を確かめようとした瞬間に、突然ファンファーレが鳴り響く。


『!?』


 突然のことに周囲の貴族たちも私達から意識がそれて、何が起こったのかと辺りを見回す。


「お騒がせして申し訳ない!これより世界王陛下と巫女様に対して、我々から細やかなサプライズをお送りしたいと思うが皆様如何かな?」


 張り上げられた男の声に広間の貴族たちから歓声が上がり、一斉に壇上に人々が群がりだす。それに伴って、私とフィリーの間の視界は貴族たちによって遮られてしまった。

拙い物語を読んで頂いてありがとうございます!


いつも後書きと活動報告をまめに書いたりしていますが、内容が重複することも多いので、今後は活動報告に後書きや今後の予定などをお知らせしたいと思います。興味がありましたら、そちらもよろしくお願いします。

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