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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第一部 現在と過去
24/113

4-2

『………』


 にやつきながら顎の髭を触るレグナ、茫然自失で貴公子の仮面が完全に剥がれたランスロット、私の突然の暴挙に無表情のルッティ、そして、どんな顔をしたらいいか分からない『やっちっまった』私。

 四者四様にさまざまな感情のまま、誰も声を発することなく沈黙すること数十秒。

 とりあえず、私はこの場から去ろうと思い立つ。

 このままここで揉めて、後からフィリーたちと鉢合わせでもしたら目も当てられない。


「ともかく!早く後宮に帰りましょう。」


 何がどう『ともかく』なのかは、言っている私も分からない。

 だけど、この状況では私から動かない事には、誰も動いてくれそうになかった。


「はいっ!ランスロット様も今日はもうお疲れのようですし、早く帰ってお休みください。」

「あんたが再起不能にしたんだろうが」


 私がニコリと笑っただけで肩を震わせたランスロットと、背後でぼそりとそんな事を呟くレグナ。

 だけど、私には王妃に怯える半泣きの騎士も、それを楽しそうに見物しているだらしのない騎士も見えないし、何も聞こえない。


「さあさあ、帰りますよ。」


 キレてみたはいいけど、その後のことを何も考えていなかった私は、ここを離れたい一念で一同を先導するように早足で歩きだす。

 すると、それまでただ気味の悪い笑いを浮かべているだけだったレグナが急に焦って、私の前にその図体からは考えられない速さで立ちはだかる。


「待て!分かった。後宮にあんたが帰ってくることには、何の意義もないから。ともかく、俺の傍を離れるな。」

「はあ。分かりました。」


 そんな彼に私はそんな風に気の抜けたような返事をしつつ、首を横に傾けた。

 かくして、時間にしては数十分の滞在だったけど、その何倍も長い時間いたような気がする巫女の離宮を離れる。

 そして、当たり前だけどランスロットの気配は私たちを追ってこない。


(また、私のストレス解消に付き合ってくれたりすると嬉しいけど)


 半泣きにした男相手にそんなことまで考えてしまう私は、まだまだストレスの全てが解消されたわけではないらしい。



▼▼▼▼▼



 後宮は私にとって居心地が悪い場所だと常々思ってきたけれど、帰ってきて思わずほっと息を吐いたことに気が付いて、自分がこの場所に慣れ始めていることを知った。

 数カ月のほとんどをこの場所で過ごした証拠だ。

 だけど、それだけずっと閉鎖された空間にいたということ。

 それを今までは疑問には感じてはいたが、フィリーやルッティを困らせたくなくて、深く考えたことも、それを追求したこともなかった。

 しかし、今回、リリナカナイというきっかけがあったとはいえ、あまりに呆気なく後宮から出れたことで、その事を、そして自分の存在意義について強い違和感を感じた。


(いくら私がオルロック・ファシズの王妃で、警備の面で難しいっていっても、後宮に軟禁状態にされる意味が分からない。)


 今までの私であれば、それを自分の中で悶々と悩んで終わるしかないのだろうけど、今回は運良くそれに答えをくれそうな人物が目の前にいる。

 私は自室のテラスで向かいに座る男に視線を向ける。

 大きな体を彼には小さいだろう椅子におさめたレグナ。正式にはレグナ・オレ近衛騎士団長。

 後宮に戻ってきたというのに、当たり前のように私とお茶を共にしているこの男は、基本的にフィリー以外の男を認めない後宮の中で異質だった。

 ちなみに私が彼をお茶に誘った訳じゃない。

 後宮に付いた途端、


『え?お礼にお茶をご馳走してくれるのか?さっすが、王妃さんは心が広いねぇ!』


 と、何も言っていないのに勝手に話を進め、抵抗を見せたルッティを強引に丸め込みんだ。

 そして、私の後ろで彼を睨みつけるルッティと、数人の好奇に満ちた侍女たちに気が付かないふりをして、現在彼は音を立ててお茶を啜っている。

 繊細な白磁のティーカップは、レグナの手の中ではまるで子供のままごとの道具のように小さく見える。


 そんな風に彼を観察しつつ私もお茶を飲みながら、はてさてどうやって話を切り出すべきかと模索する。

 何しろランスロットに対するキレっぷりを見られているため、微妙に私の方からは言葉をかけにくいのだ。

 更にルッティも表情や声が固いことが気になる。

 彼女は私付きの侍女の中で、私がオルロック・ファシズの王妃でも良く仕えてくれる唯一の侍女だ。

 ルッティに警戒されたりすることは、何が何でも避けたい。

 だけど、見られたものを無かったことにはできないし、かといって『私実はキレると怖いんです』なんて自分から言うもの馬鹿馬鹿しい。


(大体、私だって人間なんだから、ストレスだって溜まるし、怒ったりして何が悪いっていうのよ?)


 と段々と思考が脱線しつつ、心の中だけで開き直っていると、私より先にレグナが口を開いた。


「ごちそうさん。さすが後宮だなぁ、いい葉を使ってる。」


 あんたに茶の良し悪しが分かるんかい…と突っ込みつつ、とりあえず笑みを返す。

 ちなみに私はここで出されるお茶が美味しいとはあまり思えなかったりする。

 数か月前までは安くて薄いコーヒーばかりを職場で飲んでいたため、高級すぎるお茶に慣れないのだ。


「それにしても、あんたも今回は災難だったなぁ。」


 きた…と表情は変えずに気を引き締める。

 理由もなしにレグナが後宮でお茶を飲みたがる訳もないだろうと思っていたため驚きはしない。

 ただ、ランスロットのように簡単にやり込める相手とは、先ほどのやりとりから考えられないから、私も笑顔のまま臨戦態勢に入る。


「何のことですか?」

「巫女の嬢ちゃんに強引に後宮から連れ出されてみれば、フィリーにさっさと帰れって言われちゃあ…あんたも立つ瀬がないだろう?」

「いいえ。お二人もお忙しい様子ですし、仕方ありませんわ。」


 そんな事、微塵も思っていない。

 だけど、このレグナにはランスロット相手のように強気に出ると、痛い目を見るのは自分であると予想が付く。

 とりえず、様子見のために当たり障りのない事を聞きながら、彼の思惑を探る。


「それより、レグナ様とは初めてお会いしますが、陛下や巫女様とも大変お親しい様子で驚きました。近衛騎士団長とはいえ、主従関係なのに…こういっては何ですが……」

「口が悪くて、申し訳ないねぇ。」


 がははと大口を開けて一人で笑うレグナ。

 地位や階級を重んじるはずのレディール・ファシズの中で、世界王や巫女相手にあんな口を叩けば普通は首がないはずだ。


「お偉いさんにも良く怒られるんだが、そういう畏まったしゃべり方は性にあわねーの!大体、フィリーや嬢ちゃんにしても、俺のガキと同じ年ぐらいだからなぁ…そもそも敬えっつーのが無理なんだよ。守りたいとは思うけどなぁ。」


 そう言ってぼやくレグナの体格は大きいだけでなく、服の上からも筋肉質でかなり鍛えられていることが分かる。

 その彼が私たちの親世代と同年代とは、てっきり老け顔の30代位だと想像していた私は驚いた。


「お?言っとくけど、王妃さんのことも守りたいと思ってるぜ!」

「それはありがとうございます。」


 しかも、この落ち着きのないしゃべり方だ。

 礼儀や作法を重んじる事をファイリーンから徹底的に教わっている私から言えば、彼が近衛騎士団長ということも信じられない。


(それだけ腕が立つっていうこと?)


 彼のこういった態度を不問にせざるを得ない何かがある…そう考えれば辻褄があう。


「そのせいであんたに窮屈な思いをさせていることは申し訳なく思っているけどなぁ。」


 レグナについてあれこれ想像を膨らませていると、そんな全く謝っている心がこもっていない言葉と声がかかる。

 今の殺気立っている私だったらそれにカチンとくるところだけれど、その言葉を待っていましたとばかりに私は笑みを深くした。


「そのお話なんですが、私に対してどうしてそこまで厳重な警備が必要なのでしょうか?城の外に出るというのであれば話は分かりますが、城の中を移動するだけで騎士団長にお出でいただくほどの必要があるとは私には思えません。」


 レグナは私の言葉に目を見開いた後、面白いものを見つけた子供のような顔で身を乗り出す。


「さっき、ランスロットに半べそかかせた時も思ったが、あんた、フィリーの話とは全然違うんだなぁ。」

「え?」

「いんや、なんでもねーよ。俺は気の強い女は嫌いじゃねー…それにあんたの意見はもっともだ。話…してやってもいいが少し長くなるぜ。構わないか?」


 どうせこの後は特に何の予定もない。

 この際、はっきりさせてもらおうじゃないかと、私は頷いた。

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