第十四章 虚ろ(フィリー視点) 14-1
気が付いた時、地平線ばかりが広がる荒れ地に立っていた。
見覚えのない場所だ。だけど、とても懐かしいような気がした。
違和感を覚えて気が付く。地面が近い。それに自分の足が、金の毛に覆われて、鋭く太い爪も生えている。
―――ああ、俺は獣だった
客観的に自分の姿を見たわけじゃない。だけど、この時の俺は自分が四本足で歩く、金色の獣であると自覚した―――次の瞬間、走り出す。
衝動的だった。
理由はわからない。だけど、走らなければと本能が訴える。
風を切り、力強く大地を蹴る感覚。
それは俺にとっては初めての感覚にも関わらず、とても懐かしくて、楽しくて、涙を流した。
それから、どれくらい駆けただろう?
何回か朝と夜が繰り返された。その間、俺は一度も立ち止まることもなく、大地以外何もない世界をただ走った。
その間に思い出す。
―――俺は何か、いや、誰かを探していた
思い出して、俺は焦った。どこにもいない。どんなに走っても見つからない。
だけど、立ち止まることはできなかった。なぜなら、それ以外に俺にできることは何もないから。
だから、走り続けた。
それは何日も、何週間も、何か月も―――時が積み重なるほど、体が重くなり、痛みに呻き、体はやせ細っていく。それでも、走り続けた。『誰か』を探し続けた。
限界は唐突だった。
重さも、痛みも、疲労も麻痺して、何もわからなくなってから相当時間が経った頃、倒れた後、俺は起き上がることができなくなった。
それまで感じなかった苦痛が襲い掛かり、息をすることすら苦しく、最後を悟った―――にもかからず、俺はまだ前に進もうと必死だった。だが、体は動かない。
それでも、それでも…俺は呪いのように念じながら、這ってでも前に進んだ。
―――どうして、そこまで?
不思議な話だが、そんな他人事のような思いがわいた。自分の事なのに。
同時に違うと思った。俺には、それでも進まなくてはならない理由があった。だから、進むのだ。前に。
―――会いたい
ただ、それだけを思って走り続けた。だけど、会えなかった。それが悲しかった。辛かった。
涙は出ない。すでに涙になる水分すらなかった。
暗くなっていく視界。映るのは荒れた大地ばかり…そのはずだった。
―――ああ、貴方だ
それは最後に自分で作り出した幻なのかもしれない。だが、それでも良かった。
大地の遠くから歩いてくる人影。だんだんと近づいてくるそれは、まさしく思い求めていた人の姿。
「———」
名を呼んで、慈しむように体が撫でられる。
よく頑張った。もう二度と離れないから、ゆっくりと休めと、かけられる労いが嬉しかった。その言葉に安心して、獣はやっと目を閉じる。
次に目覚めたときに、再びかの人に会えるとわかっているから不安はなかった。ただただ、幸せな夢の中へと旅立った。