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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第二部 現と虚ろ
101/113

13-3


 かくして、政略夫婦以上を目指すため、第一回夫婦会議の火ぶたが切って落とされた。


「ファイリーンの行方の探索は?リリナカナイは大丈夫なの?」


 議題に色気はないけれど、そんなことを言っている場合でもない。


「アルマ博士の事は、現在捜索中…としか答えられない。この後の会議で捜索隊の報告を受ける予定だ。リリナカナイはまだ目が覚めない。俺も会いに行けてないが、ヤウが言うには多分精神に魔導術で何らかの攻撃を受けたんじゃないかってことだ」

「魔導術となると私では何もわからないけど、そんなに目が覚めないなんてことがあるの?」


 もともと、オルロック・ファシズの人間である私は魔導術に対する知識がほとんどない。


「まあ、俺も精神系の術はあまり詳しくないんだが、なんて説明したらいいか…アイルはこの間、聖骸を見に行ったろう?聖骸に認められて、人間は初めて魔導術を使うことができる。そして、その認められた聖骸が司る魔導術しか使えないのが原則だ」


 魔導力を無限に秘める、太古の魔物。伝説によると神の怒りによって魂を抜かれた存在・聖骸。

 その存在は圧倒的としか言いようがなかった。魔導を感じられない私ですら、その迫力には驚かされた。


「レディール・ファシズにあるのは四体。それぞれが火・水・風・土の属性を司る魔導力を秘めている。だから、魔導術の根底としてその四種類しか使えない…それが建前だ」

「建前…てことは、その裏には何かあるわけね?」


 フィリーは一つ頷くと先を続ける。


「深く話すときりがないから、簡単に説明するけど、教会が認めているのはその四元素の魔導力を使った魔導術だけだ。だが、人間は知識にどん欲だからな。その四元素を組み合わせたり、人間が本来持つ魔導力を無理やり解放させて教会の管理外の魔導術も横行している。所謂、違法魔導士問題ってやつだな。その中には精神に作用する術も存在する」

「なるほど」

「だが、そういった違法魔導士が使う魔導術っていうのは、基本的にオリジナル要素が強くて、かけた本人以外には解呪が難しい場合が多い。リリナカナイがかけられた術も恐らくその類だと思う」


 私にとっては分からない分野の、さらに難しい部分の話らしく、リリナカナイの現状と相まって、ともかく不安だけしか感じない。

 そんな私の心情を察してか、フィリーは大きく頷いて話を続けた。


「だけど、この手の事についてはヤウの右に出る者はいない。今夜は徹夜でリリナカナイについていると言っていたし、きっと大丈夫だ」

「本当に?」

「ああ、ヤウは魔導術に関しては変態的に知識が深い。違法な魔導研究も、犯罪の抑止力のためにとか言って、教会に許可を得てやってる。きっと、明日辺りにはリリナカナイも目が覚めると思う…ただ、リリナカナイの事で気になるのは、どうして、後宮にいたかってことなんだよ」


 それは私も引っかかっていた。

 この間は安全面が問題で私が呼びつけられたくらいなのに、わざわざ自分の足で後宮にくるなんて非常事態に違いない。


「元々、ここ数日リリナカナイが体調を崩して臥せっているって聞いていたから、見舞いに行ったんだけど会うことができなかったし、かといって、緊急の要件があったとも思えないんだよな」


 リリナカナイの体調が悪いという話は、私もフィリーからも聞いていたし、侍女たちの噂でも聞いていた。

 ただ、フィリーも会えないほどの厳戒態勢な上に、巫女付きの侍女や衛兵も口も堅く、何か悪い病気ではないかとか、王妃わたしの呪いではないかとも噂されていたのだ。

 それがいきなり後宮に現れるのは、確かに不自然だ。


「しかも、後宮の侍女たちの事情聴取を聞く限り、後宮に現れたリリナカナイの体調は悪いように見えなかったらしいんだ。体調不良を疑うわけじゃないけど、そんな急に回復すると思うか?」

「それは何とも言えないんじゃない?体調が悪いように見えないって言っても、リリナカナイがそれを隠してでも、フィリーに…何か緊急の用事でもあったんじゃないの?」


 『フィリーに会いたかったんじゃないの?』という言葉は、何となく嫌味になるような気がして飲み込んだ。


「うーん。巫女付きの騎士が同行していたらしくて、レグナが事情を聴いたらしいんだが、これまだ要領を得ないんだよな。それに確かなことは言えないんだが、リリナカナイは離宮を脱走してきたんじゃないかっていう話だし」

「脱走って…」

「穏やかじゃないだろう?だけど、巫女付きの侍女の話じゃ、リリナカナイは魔導術で離宮の壁を壊して出てきたらしいんだ」


 脱走するにしても、そんな派手な方法を使うなんて、リリナカナイも中々大胆なことをする。すくなくとも私なら…と、いくつか脱走方法が頭の中に思い浮かべようとして、そんな状況ではないと話を元に戻した。


「ますます、よく分からないっていうか。それってリリナカナイが離宮で閉じ込められていたっていうこと?」

「それも理由がはっきりしない。巫女に関しては……教会が取り仕切っていて、情けない話だが世界王側では何も干渉できないんだ」


 フィリーが不自然なところで言葉を切った気がしたけど、話を止めるわけにもいかず私は黙ったまま先を促す。


「だけど、一つだけ思い当たる事がある。教会はリリナカナイに、望まない儀式を行わさせようとしていたはずだ。多分、リリナカナイはそれを拒否したんじゃないかと思う…だから、あの人、いや、教会はリリナカナイにそれを承諾させるために外界と遮断した」

「望まない儀式?」


 巫女にはそれこそ私が知らない儀式が山ほどあるだろう。

 だけど、リリナカナイの性格上、やりたくないからと言ってそれを放り出すような性格ではないと思っていたんだけどと、フィリーの説明を待っているが彼は彼で何となく言い辛そうに顔をしかめている。


「フィリー?」

「…あ、いや、ごめん。なんて言って、アイルに説明したらいいか考えてて」


 どうやら本気で悩んでいるらしく、視線が彷徨い、机の上に組んだ手を開いたり、閉じたりと落ち着きがない。

 だけど、それを数十秒ほど続けた後、意を決したようにフィリーは私を見据えると息を大きく吸った。


「リリナにとってもこの儀式は辛いことだけど、この儀式の本当の意味をアイルが知った時、君が俺の事をどう思うか…俺はそれが怖い」


 その前置きは、どうにも重かった。

 リリナカナイの儀式なのに、フィリーが怖いってどういうこと?


「多分、リリナが拒んでいるのは『神籠りの儀』…次代の世界王を孕むための儀式だ」

「ちょ、それって……」


 どんな厳しい儀式かと想像していれば、すごい変化球が飛んできた。思わず絶句した私だけど、確かめるために言葉を続ける。


「フィリーがリリナと子作りするってこと!?」


 思わず声が大きくなってしまったのはご愛敬。

 いや、だって、何?この間、私の事好きだとか言って(それを保留にさせたのは私だけど)、今さっきも新しい信頼関係を築きたいとは言ったのに(はっ!それって恋愛的な意味じゃないってことか!?)、違う女の人と子作りだぁ?

 儀式とか言って、それって、それって…だから、どう思われるか怖いとか重い前置きしたの?そんなのっ!


「な?!いや、違う!」

「はいぃ?!」


 鼻息が荒い、私に微妙にフィリーの表情がひきつるのが分かった。


「だから、この話には続きがあるんだ、世界王っていうのは―――」

『―――い、なんだこれ?!』


 フィリーが焦って言い訳を並べようとした瞬間だった。

 部屋の外から大きな声が突然聞こえてきた。お互い色々な意味で重大な話の途中だったけど、賊が入った今日の今日だ。二人とも意識を周囲に向け―――


―――ふふふふ


 部屋の中にどこからともなく聞こえてきた、高い女の笑い声。


『!?』


 私もフィリーも部屋を見回すが、気配は感じられない―――と、次の瞬間、フィリーの背後に剣を振り上げた女の姿!

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