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愛していると言わない  作者: あしなが犬
第二部 現と虚ろ
100/113

13-2

 エドが言った通り、その日は後宮に戻れず、世界塔に留まることになった。それどころか、数日は戻れない可能性が高いらしい。

 ちなみにそれは王妃の安全面への配慮ではなく、王妃に割く時間と余裕がないため、しばらく現状維持でいてくださいと後回しされただけらしい。


 私は寝る場所が変わるくらいでは困らないけど、可哀そうなのが後宮付きの侍女や衛兵の皆さん。

 ケガをした人もいると聞くし、事情聴取や後宮の片づけなんかもあるだろうに、私が世界塔にいるものだから、そちらにも人員を割かなくてはならない。

 ただでさえ、後宮は人員不足だと聞いていたのに、彼らの負担を思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 かといって、そんな彼らのために私ができることは、ほとんどなく。せめて、彼らの仕事を増やさないように、彼らのいう通りに大人しく部屋で過ごすくらいだ。

 そう。私『一人』なら、さほど面倒をかけずに済むはずなのだ…なのに―――


「どうして、フィリーが来るのよ?」


 夜、いつも通りフィリーが私の元へやってきたのだ。

 おかげでこの部屋を守る衛兵の数は物凄いことになっている。(世界王の居室はここよりも魔導障壁が手厚く、本来は警備の人員は少なくてもいいのに)

 今はフィリーが人払いしているので、部屋の中には二人だけど、すぐそばにある大勢の人の気配は、私をひどく落ち着かなくさせた。

 ジトリと目つけてやったというのに、フィリーの方はどこ吹く風だ。


「そんな目で見なくても、すぐに仕事に戻るよ。会議と会議の間に空き時間ができたから、少しでもいいからアイルに会いたかったんだ」

「……」


 直球で言われて、思わず視線が彷徨う。いやいや、せっかく情報源フィリーがいるのだから、話を聞かなくては。


「そ、それより、ファイリーンの行方は?リリナカナイの容態は?」

「あれ?話をそらした?」

「フィリー!」


 事態は深刻にもかかわらず、茶化すようにまぜっかえすフィリーの名を咎めるように呼べば、突然表情を暗くしてフィリーが俯く。


「ごめん。茶化すようなこと言って…ファイリーンの事も、リリナカナイの事も、アイルだって心配だよな。二人のために俺も手を尽くしたいんだけど…お飾りの世界王であることが、こんなにもどかし事はないよ」


 世界王という、レディール・ファシズでは頂点に立つ存在なれど、実質的には教会が全ての権力を握っている。

 今回の件でも対策会議に世界王として出席はしているけど、フィリーの発言が現実になることは、ほぼないという。

 さらには非常に頭の固い教会のお歴々は、事態の解決よりも、先送りにすることが得意らしく、会議は延々に終わらず、しかし、遅々として事態は進まない。


「そんな教会を変えられない、世界王おれが不甲斐ないのは十分わかっている。だけど、こんな時はいっそ自分で動けたらと思うよ。俺がファイリーンを探せれば、リリナカナイの容態を診ることができたらって…何のための世界王の力だって」

「フィリー…」


 後宮にいるときの彼しか知らない私には分からないけど、フィリーも世界王になって八年、様々な苦労をしてきた、いや、今もそれに苦しめられているのだろう。

 そんな彼にかける言葉もなく、名を呼ぶしかできない自分が私も不甲斐なかった。


「すまない。こんな弱音を吐いてる暇ないよな。でも、アイルに会いたいって思って、会ったらこんな言葉が出てきて」

「ううん」


 私は首を左右に振る。


「私が表で手伝えることは、何もないもの。フィリーが弱音を吐いて、次に進めるならいくらでも話を聞くし、ただ、甘えて逃げ出したいだけなら、その背中を思いっきり叩いてあげる……それが、妻(仮)の役目でしょう?」

「…ありがとう、アイル。君の言葉は俺にとってすごい心強いよ。だから、俺は―――」


 少しくさい言葉だけど言い切って笑えば、ドキリとするほど真剣な瞳で射すくめられた。

 それにドキリとして延ばされた手に反応することができず、気が付いたとき私は机の上に置いていた手を、フィリーの両手で握られていた。


「へ?」


 こんな状況だというのに、大きく高鳴る心臓。

 手を握りしめ、こちらに身を乗り出すフィリー。そして、彼は―――


「夫婦会議を希望する」


 力強く告げられた言葉に、一瞬頭が真っ白になる。


「は?」


 あれ?私が感じていたなんか、えーっと…いい雰囲気?みたいなものは、もしかして、私の自意識過剰か!?私こそが今の現状に対して不謹慎ってことか?!

 一気に顔に熱が集まる感覚に、私は勢いよく顔を俯かせる。


(ありえない!ありえない!)


 何を否定しているかもわからないまま、衝動的に心の中で叫ぶ私の心なんて知らないフィリーは、自分勝手に話を進める。

 なんか手は握られたままだし…、でも、ここで力任せに振りほどくのも、意識しちゃっている感じだし…あー、もう!


「ごめん。フィリー、とにかく一回手を放してもらえる?」

 もやもやするくらいなら、口に出した方が早いとばかりに、私は顔はまだ赤いだろうから、顔を上げないままそう告げた。


「あ、こっちこそごめん。なんか、勢いづいたな」

「えっと、で…夫婦会議?」


 そろりと視線だけフィリーに向ければ、そこにはやはり色恋の気配など一切知りませんといった、涼しい顔をしたフィリー。


(私が、邪で不謹慎なのね…本当にすいません)


「俺たちこの間の誕生祭の一件で、ともかくお互い話し合おうってことになっただろう?俺たちは実際、夫婦ではあるけど、今のところそれは形だけで、信頼関係は築けていない。だから、夫婦会議っていうか、話し合いの場を無理やりにでも形から持ってみようと思って」

「なるほど」


 何が『なるほど』だと、自分で自分に突っ込むけど、とりあえずこの話を無難にスルーしたい私は頷く。

 それにどうやら背中を押されたらしい、フィリーはほっとしたように言葉を続ける。


「特にこの緊急事態だ。この間みたいに俺はアイルに色々隠して、お互い誤解もしたくないし、アイルに無茶もさせたくない。だから、会議続きで身動きをとれなくなる前に話をしておきたかったんだ」

「フィリー…だけど、私は―――」

「アイルの立場は分かってるつもりだ。君は任務として、俺の王妃になった。…『闇の階』については、俺だって起こしたくないし、起こさせるつもりはない。だけど、アイルはこの間、言ってくれたよな。今度はそれだけじゃなくて、八年前の約束を見届けるために王妃として残ってくれるって」

「ま、まあ。今は軍人じゃないし…でも、それを信じてくれるの?」


 確かに私は今、軍属じゃない。

 だけど、だからってはいそうですかと、信じれるレディール・ファシズの人間がどれほどいるというのだろう。

 逆の立場だったら、私は信用しない。

 それでもレディール。ファシズに残ったのは、八年前から続く私の中のもやもやに決着をつけたいという思いが強い。

 『もやもや』と一言で言い表すのは簡単だけど、それは、私だけじゃなくて様々な人の様々な思いが交錯して、だけど、何一つ解決を見なかったあの『悲劇』。

 私はあの時から、動けていない自分がいることも感じていた。そして、それを集約するのが『八年前の約束』なのだ。

 だけど、それはやっぱり私個人の意思で、それを他人に、ましてや最初から悪感情を抱いている人々に信じさせるのは難しい。

 だから、私は信じてくれとは言わないし、行動でのみそれが証明できると考えていた。それはフィリーに対してだって同じことだと思っていた。


「信じるって言っても、アイルがそれを信じないだろう?」


 言葉ではどうとでもいえる。フィリーが嘘を言うこと前提というわけじゃないけど、そうそう簡単に他人を信用できるような人生を歩んじゃないので頷く。


「そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいさ。アイルはそういうところが妙に素直だよな、昔から」

「そ、そう?顔に出てた?」


 ハハハとから笑いしながら、顔をペタペタと触る。…申し訳なさそうな顔って?


「ごめん、話を脱線させた。あーと、だから、世界王としてオルロック・ファシズの王妃の事は、簡単に信用するわけにはいかないのかもしれないが、俺個人として自分の奥さんと信頼関係くために、まずは会って、話して、俺の『信じる』って言葉を信じてもらえるようにしたいんだ。今は無理でも、話すことを続けることで、それがきっとできるようになる。だから、こうして夫婦会議?っていうのもおかしいけど、なんか形を作りたい…と思った」


 フィリーの提案は素直にうれしく、だから、考えなくとも答えは自然と口に出ていた。


「よろしくお願いします」


 かしこまるフィリーを前に、私も何となく頭を下げた。

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