小噺2
*活動報告からの再録です。
凪と秀介は物心つく前からの幼馴染である。
母親同士が親友で仲良しなこともあり、秀介の双子の弟妹が生まれる間際は、夜遅くまで父親が帰ってこないため凪の家で生活していたくらいだ。
とても親しくしていてるので、秀介は物心がついた頃には将来を決めていた。
「なぎちゃんは、おれのおよめさんになるんだ!」
毎日一緒に手を繋いで幼稚園バスを待ち、同じクラスでも仲良しの二人は、幼稚園でも微笑ましげな視線を一心に集めている。
秀介は凪を大事に扱っていたし、人見知りをするわけじゃないが、愛らしすぎて人が寄ってこない凪は、ずっと傍にいてくれる秀介に懐いていた。
子供ならではの可愛い発言は、本人は本気でも周りは本気にしていない。
それでも秀介は本気も本気だった。
なにしろ結婚すれば、大好きな凪と一緒に居れると母が教えてくれたのだ。
幼稚園にいる間や、遊びに行く間だけじゃなく、住む家も同じになって、毎日二人で暮らせるのだ。
結婚は好きあった二人がするものらしい。
秀介は当然として、凪も秀介を好きと言ってくれているから問題はない。
口癖のように毎日『なぎちゃんは、おれのおよめさんになるんだ!』と断言していた子供は、まさか自分を邪魔する第三者が現れるとは想像もしていなかった。
「なぎはわたしのよめになる」
きっぱりと断言する艶やかな黒髪を肩口で切りそろえた美少女に、秀介の眉がきりきりと釣りあがる。
凪ほどじゃないが白い肌をしたその少女は、凪の小さな掌を握って秀介を指差した。
「おまえより、わたしのほうがかいしょうがあるしつよい!だから、わたしがなぎのだんなになる!」
幼い秀介には『甲斐性』の意味は判らなかったが、『強い』の意味は判った。
子供過ぎて女同士は結婚できないのも知らなかったので、ライバル心がめらめらと燃え上がる。
最近凪と仲良くなったその美少女の名前は高屋敷桜子。
凪以外は友達が居ない、寂しい奴だと認識していた。
「おれのほうがおまえよりつよい!」
「いいや、わたしだ!」
「おれ!」
「わたし!」
子供の喧嘩は些細なことから殴りあいに発展する。
この日女の子に大敗した秀介は、母に強くなる術を教えてもらい空手道場に通う事になり、ゆくゆくは全国大会優勝の常連者になるのだが、今はまだ先の話だ。
ついでに自分をこてんぱに伸した美少女の実家が古くから続く由緒正しい道場と知るのは、この出来事のほんの数日後だった。