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13:人生はプラスマイナスゼロ その4

きらきらと瞳を輝かせてこちらを見詰める瞳に、心底引く。

やっとこの状況から開放されると思ったのに、完全にぬか喜びだ。そして喜んだ分だけ失意も大きい。ついでに恐怖心も。

見た目は同世代であっても、ラルゴのように完成された男の見た目をしてなくても、無邪気な笑顔が可愛く見えても、『狼』は『狼』だ。

同じイヌ科でも『犬』と『狼』では受ける印象が違い過ぎる。

こちらの世界ではどうかしらないが、凪のいた世界で『犬』は人類の友といわれ、『狼』は獰猛な印象が強かった。

あちらの世界では群れを組んで狩りをする習性があったと思うけれど、こちらではどうなのだろう。

虚弱な凪の根性は一人が現れただけで心から白旗を振ってるので、出来れば絶対に群れには遭遇したくない。

例え見た目が人間に近くても、『狼』という獣人の性格的特徴を知らないので、警戒してしすぎる事はないだろう。

むしろ弱者は警戒心と危機感を持てなければ生き残れない。

秀介や桜子に危機管理能力が著しく足りてないと言われる凪でも、命が掛かれば全力で本能を稼動させる。



「・・・あれ?聞こえてないのか?おーい」

「っ」



まだ数メートルは距離があったはずだが、一息で詰められた。

瞬きする間の早業に、だらだらと額から滝のような汗が流れる。

しなやかな身のこなしはさすが『狼』と褒めるべきなのだろうか。

だが正直なところ、褒め言葉なんて出す余裕がない。



「何だ、こいつ。動かないぞ」

「・・・・・・」



自己申告すると動かないのではない。動けないのだ。

動けばすぐに目の前の『狼』が反応しそうで、下手に出れない。

こんなときに頼りになるラルゴは未だに現れず、名前を呼んで届く距離にいてくれるとも思えない。

だるまさんが転んだならば絶対に勝ち抜けるくらいにかちこちに固まった凪に、くんくんと鼻を鳴らしながら彼は顔を近づける。



「んー・・・人形か?でもさっき動いて喋ってたしな。擬態でもしてんのか?そんならこいつは蜥蜴系の種族なのか?でも耳は俺たちと似てるぞ」

「・・・・・・」

「わっかんねえな。なんで止まってるんだ?遊んでんのか?」



きょとりと瞬きを繰り返し、顎に手を当てて首を傾げる。

近くにある目を見詰めながら、首の角度が緩いことに気がついた。

一番慣れているのは秀介で、最近一緒に行動しているのがラルゴだからか、とても首が楽だ。

あえて言うなら、日本に住んでた頃の学校の同級生と同じくらいの身長だろう。

そうすると大体175センチ前後か。

まったくどうでもいい推察が頭を巡り、空回りする思考に脱力しそうだ。



「おい、お前。生きてるんだよな?」

「・・・・・・」

「返事はないけど、呼吸はしてる。よし、持って帰るか」

「どうしてそんな結論になるの」

「!?びっくりした。なんだやっぱ喋れるのか」



にぱっと笑った『狼』に、しまったと慌てて口を閉じる。

突っ込みどころ満載の言葉に思わず性分から口を開いてしまったが、ここは黙秘を続けるべきだったか。

更に好奇心を煽られたらしく、一層きらきらした眼差しを送る彼に、内心で眉を顰めた。

しかし同時に何も言わなくても連れ去られていただろうから、どちらにしても厄介なのは同じかとため息を吐き出した。

一度喋ってしまえば、もう今更だ。

割り切れば思い切りがいいのも凪の特徴で、固まっていた姿勢を解いた。



「・・・喋れます」

「そりゃ良かった!じゃあ、帰ろう」

「・・・帰るってどこに」

「そりゃ村に決まってんだろ!早く行こうぜ!」



前後の繋がりなく、上機嫌に尻尾を振って訴える『狼』に頭痛を感じた。

やはり彼も厄介ごとかと、ほとんど諦めていたとは言え、最後に残っていた小さな希望も淡く消え去った。

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