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8:ママンは子供好き

言葉通りに露店でいくつかのハンバーガーらしきものを購入したラルゴは、片手に凪の手を繋ぎ、もう空いた片方で特大のそれに齧り付く。

ウィルから得たとても都合のいい設定で、バケットの間に挟まっているのはレタスとパテとタレだと解析された。

単位はともかく食物に関しては名前が同じだととてもありがたい。

食べ物は日常生活においてとても大事だ。

大柄なラルゴは食欲も凄まじく、すでに五店舗以上の店から食料を購入している。

始めは肉の串焼きで、フランスパンのようなパンと、新鮮な果物、フレッシュジュースに海鮮焼き。どれも凪からしたら凄まじい量だが、まだまだ余裕で入りそうだ。

あまりにじっと見詰めたからか、購入するたびに一口ずつ分けてくれるのだが、凪の許容量はとっくにオーバーしている。

しかし小食なくせに食べ歩きが好きで欲張ってしまい、もうそろそろ断らねばと思うのに好奇心に負けてしまう。



「・・・ラルゴ」

「あん?」

「いつまで食べ続け・・・じゃなく、いつになったら目的地に着くの?」

「もうすぐだよ、もうすぐ」

「それ三回目だよ」

「なんだ?疲れたのか?抱っこしてやろうか?」

「抱っこ・・・いや、それはいらない」



にいっと全く悪びれずにされた提案に、ふうっとため息を吐き出す。

どうもさっきの恐慌状態に陥った後からラルゴに子ども扱いされている気がする。

別に度を越さなければ気にしないけれど、公道の真ん中でいい年して抱っこされながら歩くのはいかほどのものだろう。

元の世界ではまずありえない状況だったが、こちらの世界では違うのだろうか。

基礎知識はあれど常識はないのできっぱりと拒絶できない。

いや、もしこちらの常識がもとの世界と同じでも完全に拒否できるか自信はなかった。


ちらり、と手を繋いでいるラルゴを見上げれば、丁度こちらを見下ろしていた金目が微かに丸まり、ついですいっと細められる。

随分と機嫌がいい彼は先ほどから鼻歌交じりに手をぶんぶんと振ってくる。

子供の頃幼馴染とならよくしていたが、この年になって異性と手を繋ぐ経験は悲しいほどに少ないのに全く緊張しない。

緊張はしないけれど、手を放せと言えばすぐにご機嫌に揺れる尻尾が垂れ下がるので、何だかんだで離れれなかった。

ちなみに長い尻尾は基本的に地面から少し浮かして歩いているのだそうだ。

毎日引き摺って歩くなら内側はさぞかし皮膚が固かろうと撫でようとしたら、慌てた様子で教えられ、許可がない限り触ってはいけないといい聞かされた。

獣人と知り合ってか6日目で初心者の凪は知らなかったが、どうやら尻尾に許可なく触れる行為は痴漢と同じらしく、その気がなくともどこぞに連れ込まれても文句が言えないそうだ。

尻尾に触るのはセクハラでも抱っこはセクハラにならない。

獣人のスキンシップは奥が深い。



「そうか?お嬢は体力筋肉ともになしだからな。疲れたらすぐに言うんだぞ?根性があるからって我慢するなよ。昨日までの道のりは見てるこっちがきつかったからな」

「うん」



苦笑するラルゴに一つ頷く。

そう言えば同じような台詞を元の世界で桜子や秀介にも言われたことがある。

特に回数が多くなるのは体育の授業じゃなければ絶対にしないマラソン時で、絶対にビリになるにもかかわらず、走ってるのか歩いてるのか傍目に判らない状態で足を引き摺ってると言われた。

やるからには最後までやりきりたいと頑張るのだが、あまりの状況に教師にストップを掛けられたこともある。

運動しているときに鏡を見る余裕なんてないので自分がどんな姿か知れないが、周囲の必死さから相当酷いものと推測した。

ちなみに凪は極度の運動音痴でも、今まで一度も体育の授業をサボったことがないのは密かな自慢だったりする。

運動神経抜群な桜子や秀介からすればささやか過ぎる内容だけど、凪の惨状を知る彼らは拍手こそすれ馬鹿にしたことは一度もない。

きっとラルゴも今は心配で仕方なくても、その内慣れるだろう。

いつの間にか足を止め、さっき食べたのと似たような串焼きを購入するラルゴに呆れつつ、綺麗に整備された石畳に爪先を当ててみる。

他の町や村は知らないが、ダランの道はよく整備されていた。でこぼこもほとんどなく、等間隔に石が並び間もきっちり埋められている。



「どうした?」

「ううん、別に。なんとなく、道が綺麗だなって」

「ダランは大陸の首都だからな。治安もいいし、きっちりと整備されてる。これが辺境の村に行くと、畦道も多い」

「へぇ、そうなんだ」

「ああ。あんなとこじゃ心配でお嬢を歩かせれねえな。目を離した隙に顔面からずっこけてそうだ」

「・・・・・・」



とても失礼な発言だ。凪は運動神経が悪くてもどじっこ属性は持ってない。

むっと眉間に皺を寄せて黙りこめば、全く悪びれずに謝罪された。

からっとした性格のラルゴ相手に怒りを持続させるのは難しい。

特に本気で気分を害したわけでもないし、ひょいと肩を竦めて受け流す。



「そういや、お嬢はどんな服が欲しいんだ?今から行くところはオーダーメイドも請け負ってくれるぞ」

「オーダーメイドなんて高そうだし、安いのでいいよ」

「つってもな、お嬢の見た目だと作り手が放っておかねえ気もするんだよな」

「見た目に関して言われても整形するわけに行かないし。私的にはラルゴの着てる服の小さいサイズが欲しい」

「俺の?ズボンにシャツだぞ?」

「駄目なの?」

「いや、駄目ってことはねえけどよ。あんたは絶対にスカートのほうが似合うだろ」

「でもズボンのほうが動きやすいし」

「まあ、確かに利便性からズボンを選ぶ女も居るが、しばらくは街で生活するんだろ?ならスカートでもいいじゃねえか」



いやにスカートを推し進めるラルゴに首を傾げる。

こちらでは女はスカートという時代遅れな常識があるのだろうか。

別にスカートが嫌いなわけじゃないけれど、一月後に家を求めて旅に出る際はズボンのほうがいいはずだ。

制服で五日間移動した感想は、最悪の一言に尽きる。

下着が見えないよう気を使って歩くのは神経が折れたし、スカートの端が木に引っかかるのには辟易した。

それにこけるたびに生足に怪我を負ったし、打ち身ならともかく切り傷は地味に痛かった。

ズボンなら多少の衝撃でも守ってくれるだろうし、何より一々下着に気を取られないですむ。

最後のほうはもう見えても見えなくてもどうでも良くなっていたが、それでは一緒に旅をするラルゴが困るだろう。

実際見えそうになるたびに忙しなく視線をきょどらせながら、悲鳴に近い大声を上げていた。



「とりあえず、ものを見なければどうともいい難いね」

「そりゃそうか。お嬢なら優遇してもらえると思うぜ」

「どうして?」

「そこの店主は可愛いもの、特に女子供に目がないんだ。気に入った相手には割引してくれるし、おまけもくれるかもしれねえぞ」

「値引きやおまけ・・・」



それはとても魅惑的な言葉だ。

限られた金銭しか持たない凪にとって、少しでも節約できるならそれはとてもありがたい。

フードの下で目を輝かせたのに気づいたわけでもないだろうに、ちゃっかりしてるなとラルゴは苦笑した。


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