小噺7
*活動報告からの再録です。
生まれた頃からの幼馴染と、幼稚園に入ってからの幼馴染。
活発なスポーツ少年で明るく元気で人懐こい性格の秀介は、取り立てて秀でた顔立ちをしてるわけでもないけれど、手の掛かる弟妹が居る所為か面倒見がよく、女の子にもさり気無い仕草で当たり前に嫌味なく手助け出来るので人気が高い。
そして女の子に人気があるからといっても、男友達をないがしろにするわけでもなく、むしろ男の友情を優先させるから男子に妬まれることもない。
ガキ大将という表現がぴったりで、いつもクラスの中心に居る。
そしてもう一人の幼馴染兼、同性の親友でもある桜子は、射干玉の髪に躾が行き届いた見る者が引き込まれる凛とした雰囲気をしていて、一見すると近寄り難いのに、凪とは初対面の頃から何故か不思議と意気投合していた。
日本人形のように和服が似合う大和撫子を体現した美少女で、彼女が着物を着ている姿は何度見ても見惚れてしまう。
しかし見た目と違って中身は案外に男勝りで、兄に影響された言葉遣いも粗野ではないが、時代劇に出てくるお侍さんのような雰囲気で格好いい女の子だ。
しゅっと切れ長の瞳に、日本人にしては白い肌。高嶺の花と憧れる男子は数多く、それにより女の子に逆恨みされることも多いが、本人は全てに無関心だ。
桜子が唯一友達として親しくしてくれるのは凪だけで、それは密かに優越感を感じても居た。
正反対の二人だが、学校で注目を集める存在としての立場は同じだ。
それなのに、彼らは基本的に全てにおいて凪を優先してくれて、気が付けば三人で過ごすのが日常の一こまだった。
「・・・だから!凪と結婚するのは俺だって言ってるだろ!」
「煩い!私は自分より軟弱な男に凪を任せるつもりはない。全てにおいて私よりも優れた相手以外では凪を絶対に譲らない!」
「お前より優れた男なんて、そうそう居ないだろうが!勉強で勝てても武術で勝てるはずがないし、現に今まで全てフラグを叩き折ってきてる。───俺なら気心も知れてるし、何より俺の両親も弟妹ももう凪は俺の嫁って決めてるんだぞ!」
「ふん、片腹痛い戯言だな。それを言うなら我が家とて同じだ。いずれ凪を引き取り、私と一緒に生涯を暮らすと祖父も両親も兄たちも決めている!実質的には私のほうが凪には似合う!」
「───くそ、確かにお前には容姿に劣るが、想いは負けてねえ!」
いつもと同じく三人で帰る通学路。
ランドセルを背負っているお陰で空いた両手は痛くないけれど決して離れない絶妙な力加減をされていて、大切にされていると言葉以上に実感させた。
凪が記憶する限り、幼稚園に通う頃から幾度となくこのやりとりは繰り返されているもので、よく飽きないなと感心してしまう。
桜子が居て、秀介が居て、そしてその間に凪が居る。
結婚も容姿の件もまだまだ遠い話だが、それでも生涯彼らとこうして過ごしていければ厭きない人生を送れそうだと、はんなりと眉尻を下げて苦笑して、頭越しに交される熱論にじんわりと胸を温かくした。
───日常であり、掛け替えのないこの時間。
優しく幸せに包まれた『いつもの光景』に、彼らに気付かれないよう、緩やかに口角を持ち上げて。