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小噺4

*活動報告からの再録です。


「なーぎ」



名前を呼べば、今は太陽の光をすかして金色に見える髪がさらりと揺れた。

もっと長く伸ばせばいいのにと思うくらいだが、本人に言わせると邪魔らしい。

幼稚園に入る寸前に長い髪を短くした幼馴染は、確かに邪魔と言っていいほど邪険に扱っていた。

生まれてから一度も切ったことがない髪は柔らかく触り心地も抜群で秀介のお気に入りだったが、凪が髪を引っ掛けて転んだりするのは珍しいことじゃなかった。

どちらかと言えばマイペースでも秀介より余程しっかりした性格だが、致命的なまでに運動神経が悪い凪は、ついでのオマケで地味に運も悪いらしい。

ドジじゃないのに動きを邪魔されれば咄嗟に対処できず、ころりと転ぶ。

転んだくらいでないたとこなど見たことはないが、お人形さんのように綺麗な顔や身体に傷が付くのは好まない。

最初は戸惑ったが、短い髪も似合っている。

けど時折無性にあの触り心地がよかった長い髪を思い出して、秀介の腕はうずうずと疼いた。



「なあ、かみさわらせて」

「また?」

「おう、だめか?」

「おすながついてなければいいよ。まえのときすなあそびしてからあらってなくて、じゃりじゃりしてきもちわるかったもん」

「きょうはきれいだぞ!」



にしし、と笑うと洗ったばかりの手を握って開いてと見せびらかす。

その動きを瞬きもせずに眺めていた凪は、微かに小首を傾げてから頷いた。

許可を得た秀介は、走って母親の部屋まで行くと、そのまま鏡台の上によじ登りブラシを掴む。

そして更に引き出しを開けて可愛い髪飾りやゴムと引っつかみ、ダッシュで凪のいる日当たりがいいリビングに戻った。

二階で掃除している母は、まだこちらの動きに気付いていない。



「またやるの?」

「おう!いっぱいきれいにしてやるからな!」



少しだけ眉を寄せた凪に微笑んで、綺麗な髪にブラシを通す。

不器用な手は母ほど早く動かないけれど、二つに分けてピンで前髪を止めた。

更に短い髪をなんとか結び、ついでのオマケとばかりに、きらきらした宝石のような髪留めをいたるところにつけていく。

どうやって使うかが問題じゃなく、綺麗なものを沢山つけるのが目的だった。



「できた!」

「そう」

「おう!きらきらして、きれいだ!」



やりきったと額の汗を拭えば、何とも言えない表情で凪は笑った。

この笑顔すら幼馴染特権だと理解する秀介は、彼女に向かって自慢げに胸を逸らす。



数年後、まともに髪を結えるようになった秀介に、凪が一言『美意識があったんだ』といたって悪気ない辛辣な言葉を発し、密かに大ダメージを受けたのは二人だけの秘密だった。

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