表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/168

小噺3

*活動報告からの再録です。

忠行は悩んでいた。

きっちりと背筋を伸ばして正座をしながら、精悍な顔立ちの眉間にぐっと深く皺を刻んでいる。

シリアスな顔で悩んでいる兄の横には、普段からは考えられないほど笑み崩れた弟が正座していた。



「何故だ」

「それは多分、兄さんの初対面の印象が悪すぎたんでしょうね」



さくっとあっさり一刀両断されて、兄と呼ばれた人は畳みの上に崩れ落ちる。

涙を流さんばかりに狂おしげな声を出しながら、拳を打ち付け始めた。



「どうしてだ、どうして俺では駄目なんだ!」

「───兄さん、凪が怯えます。ゴリラのように暴れないで下さい」

「ゴっ!?」

「ほら見てください。折角心地良さそうに眠っていたのに」



いつの間にか大きな青色の瞳を開けた少女は、秀頼の言葉どおりに怯えていた。

ふるふると、愛する可愛い妹と同じくらい愛くるしいかんばせを翳らせて、瞬きすら惜しんでこちらを眺めている。



「いや、違う!違うんだ、凪!俺はだな、お前を怯えさせる気はなくて、ただお前と」



仲良くしたいだけなんだ、と言葉を続けるべく息を吸う。

本当は腕に抱いて、まろい頬に頬をすり合わせて、大きな瞳の目尻に口付けて、心の限りに愛でてやりたい。

愛くるしい顔が翳らぬように何者からも守ってやりたいし、ずっとずっと愛でていたい。

もし自分がカンガルーであったなら、袋に入れて離さない。

どこに行くにも連れて行って、ずっとずっと一緒にいたい。


しかし残念ながら忠行の強い想いは、肝心の相手には欠片も伝わっていなかった。

先日桜子が友人と連れてきた、世界の可愛いものを集めたらこうなるんじゃないかという愛くるしい存在は、いきなり抱き上げてトラウマを刺激した忠行を警戒している。

弟の秀頼はいつの間にかちゃっかりと、手をい繋いだり膝の上に抱き上げたりと親密度を上げてるのに、どうして自分は駄目なのだろうか。


綺麗と言われることが多い彼と違い、ごつい身体や厳つい顔がいけないのだろうか。

それとも常に眉間に皺を寄せて渋い表情をしているからだろうか。

それとも、それとも───。


考えれば考えるほどキリがなくなり、今日もタイムリミットがやってくる。



「またせたな、なぎ!そとにあそびにいくぞ!」

「二人でか?それは危ないから、兄様もついて行ってやろう」

「にいさまはけいこだって、とうさまがいってた。それにじじさまがいっしょにいってくれるからへいきだ!じじさま、とちゅうのだがしやであめかってくれるって!」

「ほんとう?うれしい!」



桜子の習字の手習いが終わるまでずっと待っていた凪は、彼女の言葉にぱっと顔を輝かせた。

その表情は一時間近く忠行が頑張っても得れなかったもので、悲嘆にくれそうになる。

小さくてふにふにした掌を繋いで遠ざかる背中を見送ると、がくり、と今度こそ畳の上に崩れ落ちた。



「兄さん」

「・・・・・・」

「デジカメで撮った写真、桜子に盗撮していたと告げ口されたくなければちゃんと焼き増ししてくださいね」



さらりと告げた弟は、もうこの部屋には用はないとあっさりと去っていく。

折角撮った写真まで他人と共有しなければいけないのか。

更なる悲嘆にくれた忠行は、せめてもと手作りした桜子人形と凪人形を押入れから取り出して両手に抱えると不貞寝した。

ちなみに道場の練習時間をしっかりと忘れて、父に長時間説教された彼の一日は、泣きっ面に蜂とも言えよう。


一歩進んで二歩下がる。

そんな彼の飽くなき挑戦は、今日も今日とて続いたし、明日も明日できっと続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ