通夜の夜 ある老女の死
私の故郷は旧満州の開拓民が引き上げて、入植したところでした。葬儀の時集落の人が集まると、悲劇的な満州逃避行が、話題になりました。
通夜の夜
その日は寒い日だった。ある老女が亡くなった。
集落中の人がいつか来ることが今来たと思った。老女は老いた姉と暮らしていた。
妹は脳梗塞後遺症を抱えそれを姉が介護していた。
妹は若いころ裕福に暮らしていた。
旧満州で広いリンゴ園を経営する夫と豊かに暮らしていたが夫がある日病死した。
財産を整理し日本へ帰ってきた。
戦争も始まっていない時だったのでひと財産無事に持ち帰ってきた。子供のいない寡婦だったため養子をとった。そして養子の息子に家督を任せた。養子の息子は金をとって養母を放り出した。彼女は脳梗塞を起こし体が不自由に、息子に金を返すように裁判を起こしたが、旧民法の時代、裁判に敗れ一文無しになった。姉は妹の介護をするため一緒に暮らし元火葬場を改装した家で小さな店を営んで暮らしていた。土地は大木が茂る原生林で、集落民は旧満州の引揚者、満州で生活していた人たちで農業していた人ばかりではなかった。みんな訳ありだった。その小さな家に集落の人が集まりお通夜をした。終戦から20年くらいのことである。何歳くらいだったろうか?。苦労の多い人生だったろうと思う。老姉は妹にもう不自由な体で生きていかずともいいと話しかけていた。僧の読経が終わり。だれからともなく満州の思い出が語られた。夜も更けたころ、旧満鉄の機関手だった男がふっとしゃべり始めた。最後の引揚列車、累々とある死体それらを積み重ね火をつけて列車を走らせ、また止まって死体を重ね、火をつける。遺体を集める。火をつける、呪租のように繰り返す。「お父さんやめて。」男の妻が泣き叫ぶ。かまわず男は遺体を集め火をつけた情景を語る。
女は叫ぶ。止めてよ。誰も立たない。
通夜の夜は更けていった。
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