第6話 剣を持つ者
城の中庭。
朝の空気がまだ残っている。
だが兵士たちの顔は、すでに戦場のそれだった。
リアナ隊の兵士たちが集まっている。
三十人。
鎧を着込み、武器を背負い、準備は終わっていた。
それでも――
誰も落ち着かない。
ざわざわと小声が飛び交う。
「今日来るらしいぞ」
「王国軍」
「数は?」
「わからん」
誰もが理解している。
今日は戦いだ。
その時だった。
中庭の門が開く。
兵士の一人が言った。
「……来た」
リアナだった。
肩に木箱を抱えて歩いてくる。
兵士たちの視線が一斉に集まる。
「隊長」
「それ……」
リアナは中央まで歩いた。
そして箱を地面に置く。
ドン。
重い音が響く。
兵士たちが自然と一歩近づいた。
リアナは蓋に手をかける。
ガチャ。
蓋を開けた。
中には――
剣。
十本。
朝の光を受けて、刃が静かに輝く。
兵士たちが息を呑む。
「おお……」
「これが……」
「噂の剣か」
リアナは腕を組んだ。
「そうッス」
一瞬、静寂。
次の瞬間。
兵士たちの目が変わった。
欲しい。
そういう目だった。
一人が言う。
「隊長」
「俺に一本くれ」
別の兵士。
「いや俺だ」
「前回の戦いで一番前だったの俺だぞ」
「俺も前出てた!」
ざわざわ。
一気に騒がしくなる。
リアナはため息をついた。
「落ち着くッス」
声は大きくない。
だがよく通る。
兵士たちは静かになった。
リアナは箱を見る。
十本。
それだけだ。
そして周りを見る。
三十人。
足りない。
誰もが分かっている。
リアナは言った。
「剣は十本」
沈黙。
「でも隊は三十人」
誰も言わない。
リアナは続ける。
「だから」
剣を一本持ち上げた。
「前衛だけッス」
兵士たちが顔を見合わせる。
一人が聞く。
「隊長は?」
リアナはニヤッと笑う。
「もちろん持つッス」
兵士たちが笑った。
「ですよね」
「隊長いないと終わる」
リアナは剣を軽く振る。
ヒュン。
空気を裂く音。
兵士たちが驚いた。
「軽い」
「それに……」
一人の兵士が刃を見る。
「刃が厚いな」
リアナはうなずいた。
「折れないッス」
ざわ。
兵士たちが顔を見合わせる。
「魔力鋳造じゃない」
「鍛冶だ」
「だから強い」
リアナは剣を見る。
そして言った。
「この剣」
少し笑う。
「タクミが作ったッス」
兵士たちの目がさらに変わる。
あの工房の鍛冶師。
噂の男。
誰かが小さく言った。
「欲しいな……」
リアナは言う。
「順番に渡すッス」
一人の若い兵士が手を上げた。
「隊長」
「なんだ」
「俺にください」
リアナは彼を見る。
若い兵士。
鎧もまだ新しい。
少し震えている。
「理由は?」
兵士は言った。
「俺」
喉を鳴らす。
「盾役です」
周りが静かになる。
盾兵。
つまり最前列。
リアナは少し考えた。
そして頷く。
「分かった」
一本渡す。
兵士は両手で受け取る。
「うわ……」
軽く振る。
「軽い……」
リアナは次の剣を持つ。
「次」
兵士たちが前に出る。
だがその時。
一人の男が言った。
「待て」
全員が振り向く。
古参兵だった。
顔にいくつも傷がある。
長く戦場にいた男だ。
彼は言う。
「若いやつ優先だ」
周りがざわつく。
「おい」
「なんでだ」
古参兵は笑う。
「俺は死んでもいい」
若い兵士が怒る。
「ふざけんな」
古参兵は肩をすくめた。
「俺は家族いない」
若い兵士が言う。
「俺だって!」
空気が少し荒れる。
リアナが手を上げた。
「ストップッス」
全員が黙る。
リアナは剣を持ち上げた。
朝日が刃に反射する。
「これは」
剣を見る。
「命を守る剣ッス」
兵士たちも剣を見る。
リアナは言う。
「だから」
ゆっくり周りを見る。
「死ぬ覚悟のやつに渡さない」
古参兵が少し笑った。
リアナは続ける。
「生きる気のあるやつ」
「前に出ろ」
沈黙。
数秒。
誰も動かない。
それから――
一人が前に出た。
次。
また一人。
そして。
気づけば――
全員が前に出ていた。
リアナは笑った。
「よし」
剣を渡す。
「お前」
「はい!」
「お前」
「了解!」
「お前」
「任せてください!」
一本。
また一本。
剣が手に渡る。
兵士たちは皆、
その重さを確かめるように握った。
それはただの武器ではない。
命を預ける剣だった。
やがて十本すべて配られた。
最後の一本。
リアナはそれを手に取る。
そして腰に差した。
カチン。
リアナは隊を見る。
「いいッスか」
兵士たちが頷く。
リアナは言う。
「この剣」
「絶対折れない」
兵士たちが刃を見る。
リアナは続ける。
「でも」
少し間。
「使うのは俺たちッス」
一人が笑う。
「そりゃそうだ」
別の兵士も言う。
「剣が戦うわけじゃない」
リアナはうなずく。
「そうッス」
その時だった。
――ブオォォォォ!!
角笛が鳴り響く。
城壁の上から声が飛ぶ。
「王国軍接近!!」
空気が一気に変わる。
戦場の空気だ。
リアナは剣を抜く。
キン。
十人の兵士も剣を抜いた。
朝日に光る刃。
誰かが言った。
「なあ」
「なんだ」
「この剣」
少し笑う。
「折れる気がしねぇ」
リアナが笑った。
「当たり前ッス」
剣を構える。
「タクミ製ッスから」
兵士たちが笑う。
そして――
リアナ隊は歩き出した。
城門へ。
戦場へ。
十本の剣と共に。
そして次の戦いで。
その剣の価値が――
証明されることになる。
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