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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第5話 十本の剣

工房の炉が赤く燃えていた。


夜だ。


砦の外はすでに暗く、見張り塔の灯りだけが遠くに揺れている。


だが――


工房の中だけは昼のように明るかった。


炉の火が強く燃え、赤い光が壁を染めている。


鉄と炭の匂い。


熱気。


そして。


カン。


カン。


鉄を打つ音。


タクミは黙々とハンマーを振るっていた。


炉から取り出した鉄は真っ赤だ。


それを金床に置く。


叩く。


叩く。


角度を変える。


また叩く。


カン。


火花が散る。


鉄が少しずつ形を変えていく。


その様子を――


リアナが横でじっと見ていた。


腕を組み、少し身を乗り出している。


まるで子犬が主人の作業を見ているようだった。


「すごいッスね」


ぽつりと言う。


タクミは答えない。


カン。


ハンマーの音だけが響く。


リアナは炉を見た。


炎が大きく揺れている。


「魔力鋳造って」


リアナは言った。


「一瞬で武器できるッス」


「うん」


タクミは短く答える。


鉄をひっくり返す。


カン。


「魔術師が鋳型作って」


「魔力流すだけッス」


「そうだな」


リアナは工房の中を見回した。


壁に並ぶ工具。


砥石。


鉄塊。


全部、人の手で使う道具だ。


リアナは言う。


「でも鍛冶って」


「めちゃくちゃ時間かかるッスね」


タクミは鉄を炉に戻した。


炎が大きく揺れる。


「量産には向いてない」


「ッスね」


リアナは頷く。


「魔力鋳造なら」


「この時間で三十本くらいできるッス」


タクミは火を見つめた。


「だろうな」


リアナは続ける。


「でも」


少し間を置く。


「タクミの剣は折れないッス」


タクミは首を振る。


「折れないわけじゃない」


リアナ


「え?」


「折れにくいだけだ」


リアナは笑った。


「それで十分ッス!」


腰の剣を抜く。


キン。


火の光を反射する。


リアナは軽く振った。


ヒュン。


空気を裂く音。


「これ」


「めちゃくちゃ使いやすいッス」


「そうか」


「バランスいいッス」


タクミはうなずいた。


「重心を少し変えた」


リアナは目を丸くする。


「そんなの分かるんスか?」


「振れば分かる」


「へぇー」


リアナは剣をじっと見る。


刃。


重さ。


柄。


全部がしっくりくる。


リアナは首をかしげた。


「不思議ッスね」


「何が」


「魔力鋳造の剣と」


「全然違うッス」


タクミは少し考えた。


それから言う。


「炭素だ」


リアナ


「たんそ?」


「鉄はそのままだと柔らかい」


炉の中を見る。


赤い鉄が燃えている。


「炭を使って」


「鉄に炭素を入れる」


リアナはぽかんとした。


「それで強くなるんスか?」


「硬くなる」


タクミは続けた。


「でも硬すぎると折れる」


リアナ


「え?」


「だから粘りを残す」


リアナは腕を組んだ。


「……難しいッス」


タクミは短く言う。


「バランスだ」


リアナは少し笑った。


「なんかタクミっぽいッス」


タクミは答えない。


鉄を取り出す。


再び叩く。


カン。


カン。


鉄が伸びる。


刃の形になる。


リアナが聞いた。


「今何本目ッス?」


「三本」


「まだ三本ッスか!?」


「鍛冶は遅い」


リアナは笑う。


「魔力鋳造なら三十本できてるッス」


「だろうな」


「でも折れるッス」


「だろうな」


リアナは剣を鞘に戻した。


カチン。


少し沈黙。


リアナが言う。


「この十本」


「前線で使うッス」


「聞いた」


「ちょっと緊張するッス」


タクミは鉄を叩く。


カン。


「お前なら大丈夫だ」


リアナは目を丸くした。


「そうッス?」


「剣はいい」


リアナは笑った。


「じゃあ暴れるッス!」


夜は深くなる。


四本目。


五本目。


六本目。


鉄を打つ。


形を整える。


刃を研ぐ。


そして。


タクミは剣を炉に入れた。


十分に熱する。


刃が赤く染まる。


それを水に入れる。


ジュウウウウ。


蒸気が上がる。


リアナが驚く。


「うおッ!?」


「焼き入れだ」


「焼き入れ?」


「刃を硬くする」


リアナは目を丸くした。


「そんなこともするんスか」


タクミは短く言う。


「武器は」


刃を見る。


「命を預ける物だ」


リアナは黙った。


タクミは続ける。


「折れたら」


「人が死ぬ」


リアナは静かにうなずいた。


夜が過ぎていく。


炉の火は消えない。


ハンマーの音も止まらない。


そして。


朝。


リアナが目を覚ます。


「……ん」


窓の外が明るい。


「朝ッス?」


タクミはうなずいた。


リアナは目をこする。


「何本できたッス?」


タクミは箱を指した。


そこには――


剣が並んでいた。


十本。


整然と。


リアナの目が大きくなる。


「……マジッスか」


一本持ち上げる。


重さ。


刃。


バランス。


「すごいッス」


タクミは椅子に座った。


かなり疲れている。


リアナは言う。


「これ」


「絶対勝てるッス」


タクミは少し笑った。


「武器は」


リアナが振り向く。


「はいッス?」


タクミは言う。


「使う人間次第だ」


リアナはニヤッと笑った。


「じゃあ問題ないッス!」


剣を箱に戻す。


箱を持ち上げる。


「リアナ隊」


「最前線ッス!」


その時だった。


――ブオオオオオ!!


角笛が鳴り響く。


戦の合図。


リアナの顔が引き締まる。


「来たッスね」


扉へ向かう。


そこで振り返る。


ニカッと笑った。


「タクミ」


「なんだ」


リアナは言った。


「この剣」


「絶対折らないッス!」


そう言って走り出した。


箱の中には――


十本の剣。


鍛冶師が一晩で作った武器。


その剣が今。


戦場へ運ばれていく。


そして。


次の戦いで――


その価値が証明されることになる。




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