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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第4話 工房に来た兵士たち

カン。


カン。


乾いた鉄の音が、工房の中に響いていた。


炉の火が赤く揺れている。


熱気が漂い、鉄の匂いと炭の匂いが混ざっている。


タクミは黙々とハンマーを振っていた。


鉄を打つ。


角度を変える。


また打つ。


カン。


火花が散る。


この作業を、何度繰り返してきただろう。


昨日も。


今日も。


そして、たぶん明日も。


工房は、いつも静かだった。


本来、この世界では――


鍛冶師に仕事はほとんどない。


理由は単純だ。


武器はもう、鍛冶師が作る時代じゃない。


「魔力鋳造」


魔術師が鋳型を作り、魔力を流す。


それだけで剣ができる。


一日で何百本も。


速い。


安い。


大量生産。


だから軍はみんなそれを使う。


鍛冶師が鉄を叩く時代は、終わった。


タクミは鉄を見つめながら呟く。


「……形は悪くないな」


刃のラインを整える。


手作業。


時間がかかる。


だが、その分、強い。


少なくとも――


魔力鋳造の剣よりは。


タクミは息を吐いた。


「今日も静かだな……」


その時だった。


ドドドドドド……


遠くから音が聞こえた。


足音。


しかも一人じゃない。


何人もいる。


かなりの数だ。


タクミが顔を上げる。


「……?」


戦闘でも始まったのか。


そう思った次の瞬間。


バン!!


工房の扉が勢いよく開いた。


「タクミー!!」


元気な声が響く。


赤毛の女兵士。


リアナだった。


だが――


今日は一人じゃない。


その後ろに。


兵士が、ぞろぞろと並んでいた。


十人。


いや、十五人はいる。


しかも全員、武装したままだ。


タクミは目を瞬いた。


「……何だこれ」


リアナはニカッと笑った。


「お客さんッス!」


兵士の一人が前に出る。


年季の入った顔だ。


「お前が鍛冶師か」


「そうだ」


「武器作ってくれ!」


いきなりだった。


タクミは少しだけ眉をひそめる。


「武器?」


別の兵士が言った。


「折れない剣があるって聞いた!」


「リアナの剣だ!」


「魔物の牙でも折れないって!」


工房の中がざわつく。


リアナは胸を張る。


「タクミの剣ッス!」


タクミはリアナを見る。


「……お前」


「はいッス?」


「何言った」


リアナは悪びれず笑う。


「正直に話したッス!」


兵士たちが一斉に言う。


「頼む!」


「武器作ってくれ!」


「魔力鋳造はもう嫌だ!」


一人の兵士が剣を投げた。


地面に落ちる。


刃が欠けていた。


「昨日これで戦った」


別の兵士も言う。


「俺のは折れた」


「魔物の牙で真っ二つだ」


「仲間も死んだ」


空気が少し重くなる。


兵士がタクミを見る。


真剣な目だった。


「死にたくねえ」


その言葉は、静かだった。


だが重かった。


工房の中が静まり返る。


タクミはしばらく黙っていた。


それから手を上げた。


「待て」


兵士たちが止まる。


タクミは炉を指差した。


「そんなに作れない」


兵士たち


「え?」


タクミは言う。


「鍛冶は魔力鋳造みたいに量産できない」


兵士の一人が聞く。


「どれくらいだ」


タクミは計算する。


材料。


時間。


体力。


炉の火。


全部合わせて。


「……頑張って」


「十本」


沈黙。


それから――


「少ねぇ!!」


兵士たちが一斉に叫んだ。


「足りねぇ!」


「こっちは何十人いるんだ!」


「順番だ順番!」


「いや俺が先だ!」


工房の中が一気に騒がしくなる。


リアナが叫ぶ。


「静かにするッス!!」


声が響いた。


兵士たちが止まる。


リアナは腕を組んだ。


そして少し考える。


それから言った。


「じゃあこうするッス」


タクミを見る。


「その十本」


「はいッス?」


「リアナ隊で使うッス」


兵士たちが騒ぐ。


「ずるい!」


「リアナばっかり!」


「贔屓だ!」


リアナは手を振る。


「違うッス!」


兵士たちを見る。


「実戦テストッス」


少し静かになる。


リアナは続けた。


「魔物戦では使ったッス」


腰の剣を叩く。


カン。


「でも戦争ではまだッス」


兵士たちが顔を見合わせる。


リアナは言う。


「王国軍戦で試すッス」


「もし本当に折れないなら」


「その時」


「みんなの武器作るッス」


沈黙。


兵士の一人が腕を組む。


「……確かに」


別の兵士が言う。


「戦争で使えなきゃ意味ねえ」


その時だった。


工房の入口に影が立つ。


兵士たちが振り返る。


そこにいたのは――


リアナ隊の隊長だった。


兵士たちが道を開ける。


隊長はゆっくり中へ入ってきた。


「話は聞いた」


リアナが姿勢を正す。


「隊長!」


隊長の視線がタクミに向く。


しばらく観察する。


炉。


鉄。


ハンマー。


そして言った。


「十本作れるのか」


タクミは答える。


「時間をくれれば」


隊長は聞く。


「折れない武器か」


タクミは少し考えた。


そして言う。


「折れない武器はない」


兵士たちが黙る。


タクミは続ける。


「でも」


鉄を持ち上げる。


「折れにくい武器なら作れる」


隊長はうなずいた。


「それでいい」


短い沈黙。


そして隊長は言った。


「その十本」


兵士たちを見る。


「前線に配備する」


ざわめきが起きる。


隊長は続ける。


「リアナ隊」


「最前列だ」


リアナがニヤッと笑う。


「了解ッス!」


隊長はタクミを見る。


「作れるか」


タクミは炉の火を見る。


鉄。


炭。


時間。


全部使えば。


「……作る」


隊長はうなずいた。


「頼む」


兵士たちは工房を出ていく。


足音が遠ざかる。


静けさが戻る。


工房に残ったのは。


タクミとリアナだけだった。


タクミが言う。


「お前な」


「はいッス?」


「随分話を大きくしたな」


リアナは笑う。


「だって本当ッス!」


腰の剣を叩く。


カン。


「この剣折れないッス」


少し間。


リアナは真面目な顔になる。


「みんな」


「死にたくないッス」


静かな声だった。


「だから」


タクミを見る。


「タクミ」


「頼むッス」


タクミは炉の前に立った。


火が揺れる。


鉄を入れる。


赤く染まる。


十本。


前線で使う武器。


兵士の命を預ける剣。


タクミはハンマーを握る。


カン。


鉄を叩く。


火花が散る。


カン。


リアナが横で見ていた。


そして小さくつぶやく。


「タクミの剣」


少し笑う。


「戦争変えるかもしれないッスね」


カン。


カン。


ハンマーの音が工房に響く。


その音は――


やがて戦場に届くことになる。


まだ誰も知らなかった。


鍛冶師の作る十本の剣が。


この戦争の流れを


変えることになると。




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