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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第3話 死にたくなきゃ工房武器

戦闘の後。


前線の野営地には、重い空気が漂っていた。


焚き火の煙が空へ昇り、兵士たちはそれぞれ武器の手入れをしている。


静かだった。


ついさっきまで、魔物と殺し合っていたとは思えないほどに。


だが――


その静けさの中で。


一人の兵士が、剣を地面へ叩きつけた。


カラン。


鈍い音が鳴る。


焚き火の光に照らされて、その剣の状態がはっきりと見えた。


刃が、真ん中から折れていた。


「……クソ」


兵士が吐き捨てる。


隣で武器を拭いていた男が顔を上げた。


「またか」


「まただよ」


折れた剣を拾い上げる。


断面はギザギザだ。


「魔物の牙だ」


「グレイウルフか?」


「ああ」


兵士はため息をついた。


「二回受けたらこれだ」


焚き火がパチッと弾ける。


別の兵士が言った。


「魔力鋳造か」


「そうだ」


「そりゃ折れる」


周囲の兵士たちが苦笑する。


今の時代、武器のほとんどは魔力鋳造だ。


鉄を溶かし、魔力で形を整え、一瞬で大量生産する。


速い。


安い。


だが――


「脆いんだよな」


誰かがぼそりと呟いた。


「衝撃に弱い」


「魔物の牙は特に」


「わかってる」


折れた剣を持った兵士が言う。


「でも補給がこれなんだよ」


焚き火の向こうで、新人兵士が小さく震えていた。


その様子に気づいた男が声をかける。


「どうした」


新人は唇を噛んだ。


「昨日……」


小さく言う。


「同じ隊の奴が死にました」


焚き火の周りが静かになる。


誰も驚かない。


だが、誰も軽く扱わない。


戦場では――


死は、日常だ。


男が聞く。


「武器か?」


新人はうなずいた。


「折れました」


短い沈黙。


焚き火の音だけが響く。


その時だった。


「お疲れ様ッス!」


明るい声が響いた。


振り向くと、赤毛の女兵士が手を振っていた。


リアナだった。


兵士の一人が笑う。


「リアナか」


「元気だな」


リアナはにっこり笑った。


「元気ッス!」


腰にはいつもの剣。


そして、その剣を見た兵士の一人が眉をひそめる。


「……それ」


リアナが首をかしげる。


「はい?」


「昨日使ってた剣だろ」


「そうッス!」


リアナは迷いなく剣を抜いた。


キン。


刃が焚き火の光を反射する。


兵士が言う。


「折れてないな」


リアナは胸を張る。


「折れてないッス!」


周囲がざわついた。


「グレイウルフ三匹倒したって聞いたぞ」


「三匹ッス!」


リアナは誇らしげに言う。


「牙二回受けたッス!」


その瞬間。


焚き火の周りの兵士たちが顔を見合わせた。


「……二回?」


「嘘だろ」


一人の兵士が自分の折れた剣を見せる。


「俺は一回だ」


リアナは剣を軽く振る。


ヒュン。


空気を切る音。


「でも折れないッス」


兵士が聞いた。


「補給品か?」


リアナはニヤリと笑う。


「違うッス」


「じゃあ何だ」


リアナは言った。


「工房武器ッス!」


一瞬、沈黙。


「……は?」


「工房?」


「鍛冶師の?」


リアナはうなずいた。


「タクミの剣ッス!」


兵士の一人が笑う。


「鍛冶なんて時代遅れだろ」


「魔力鋳造の時代だぞ」


リアナは肩をすくめる。


「でも折れないッス」


そう言って。


近くにあった岩に剣を叩きつけた。


ガン!!


兵士たちが驚く。


「おい!」


「刃が欠けるぞ!」


リアナは剣を見た。


そして笑う。


「ほらッス」


兵士たちが近づく。


刃は――


無傷だった。


「……マジか」


「欠けてない」


「どうなってる」


リアナは得意げに言う。


「タクミすごいッス!」


兵士の一人が腕を組む。


「でもよ」


「はいッス?」


「鍛冶は遅い」


「それはそうッス」


「戦場は数だ」


リアナは少し考えた。


そして、静かに言う。


「でも」


焚き火の光が剣に映る。


「死ぬよりマシッス」


誰も言い返さなかった。


折れた剣を持った兵士が、ぽつりと言う。


「……欲しいな」


別の兵士も言った。


「俺も」


「俺も欲しい」


「死にたくねえ」


リアナは目を丸くする。


それから笑った。


「工房行くッス?」


兵士たちが顔を見合わせる。


「どこだ」


リアナは丘を指差した。


「向こうッス」


小さな丘の向こう。


煙突が見える。


「鍛冶師の工房ッス」


兵士の一人が立ち上がる。


「……行くか」


別の兵士も立つ。


「俺も」


「俺もだ」


気づけば、焚き火の周りの兵士たちが次々と立ち上がっていた。


その時。


隊長が通りかかった。


「何の騒ぎだ」


兵士が答える。


「工房武器です」


隊長の視線がリアナの剣へ向く。


「それか」


「ッス!」


隊長は少し考えた。


そして言った。


「死にたくなきゃ」


兵士たちを見る。


「その剣を持て」


静かな声だった。


だが、重かった。


兵士たちは頷いた。


「行くぞ」


「工房だ」


「鍛冶師探すぞ」


気づけば、二十人近い兵士が丘へ向かって歩き始めていた。


リアナは笑う。


「タクミ驚くッスね!」


――その頃。


丘の向こう。


小さな工房。


カン。


カン。


鉄を打つ音が響いていた。


炉の火が揺れる。


タクミはいつも通り、槌を振っていた。


汗が頬を伝う。


静かな工房。


戦場の喧騒とは、まるで別の世界だ。


タクミは鉄を見つめながら呟く。


「うん」


「悪くない」


刃の形を整える。


この剣も、きっと誰かを守る。


そう思いながら。


その時だった。


遠くから音が聞こえた。


ドドドドド。


タクミは顔を上げる。


「……?」


足音。


しかも一人ではない。


かなりの数。


工房の扉が――


バン!!


勢いよく開いた。


そこには。


兵士の集団が立っていた。


二十人以上。


息を切らしながら。


そして一斉に叫ぶ。


「剣売ってくれ!!」


タクミは固まった。


「……え?」


工房武器を求める兵士たち。


その数。


二十人。


そして――


それが、この工房の運命を大きく変えることになる。



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