第29話 四天王の武器
専用工房の炉は、朝から唸るように燃えていた。
赤い炎が鉄床を照らす。
天井の高い工房の中で、熱気がゆっくりと渦を巻いていた。
カン。
カン。
カン。
一定のリズムで、ハンマーの音が響く。
タクミは鉄床の前に立ち、無言で金属を叩いていた。
赤熱した金属が火花を散らす。
その横で、リゼが紙に魔術式を書いている。
魔力の流れを計算しているのだ。
リアナは腕を組んで壁にもたれていた。
しばらくその光景を眺めてから言う。
「……やっぱ研究所ッスよねここ」
タクミ
「鍛冶場だ」
リゼ
「研究」
リアナ
「両方ッス!」
タクミは炉を見たまま言う。
「今日は違う」
リアナ
「何がッス?」
タクミ
「客だ」
その瞬間だった。
工房の扉がゆっくり開いた。
重い足音。
床がわずかに軋む。
最初に入ってきたのは――
巨漢だった。
炎のような赤髪。
全身を走る無数の古傷。
その存在だけで空気が変わる。
炎将バルグ。
魔王軍前線の総司令官。
数百年戦場を生き抜いた、純粋な戦の魔族。
戦いを愛し、力を信じる男。
バルグは工房を見回した。
炉。
鉄床。
道具。
そしてタクミを見る。
「ここが噂の鍛冶場か」
低い声だった。
リアナが小声で言う。
「圧ッスね……」
バルグは腕を組んだ。
「武器を作れ」
リアナ
「直球ッス!」
バルグ
「聞いた」
タクミを見下ろす。
「魔王軍の武器を変えた鍛冶師」
タクミ
「そうだ」
リアナ
「タクミ!」
バルグは少し笑った。
「気に入った」
その時。
もう一つの気配が入ってきた。
静かな足音。
銀色の長い髪。
透き通るような青い瞳。
氷姫セレナ。
魔王軍最高の戦術家。
戦場を盤上の駒のように操る女。
彼女は炉を見た。
そしてタクミを見る。
「あなたが」
短く言う。
「鍛冶師ですね」
タクミ
「そうだ」
セレナ
「私の武器も作りなさい」
リアナ
「当然の流れッスね」
その時。
扉の外から豪快な笑い声が響いた。
「がはは!」
次の瞬間。
巨大な体が入ってくる。
獣の耳。
筋肉の塊のような体躯。
獣王ガルド。
突撃軍団の長。
戦場では常に最前線に立つ王。
「面白そうな場所だな!」
リアナ
「ガルドさん!」
ガルドは鉄床を見る。
「ここで武器を作るのか」
タクミ
「そうだ」
ガルド
「なら」
笑う。
「俺のも作れ」
リアナ
「やっぱり!」
そして最後に。
静かな気配が入ってきた。
黒いローブ。
細身の男。
闇宰相ヴァルツ。
魔王の側近。
政治、外交、諜報。
魔王軍の頭脳。
ヴァルツは静かに笑った。
「四天王が揃うとは」
リアナ
「壮観ッス」
ヴァルツはタクミを見る。
「あなたが」
「魔王の興味を引いた鍛冶師ですか」
タクミ
「そうだ」
ヴァルツ
「なら」
微笑む。
「私の武器もお願いしましょう」
リアナは頭を抱えた。
「注文殺到ッス!」
タクミは四人を見る。
そして言った。
「戦い方」
沈黙。
バルグ
「何?」
タクミ
「知らないと」
鉄床を叩く。
「武器は作れない」
ガルドが笑う。
「いいな」
腕を組む。
「話してやる」
ガルドは言った。
「俺は突撃だ」
拳を握る。
「敵陣をぶち抜く」
タクミ
「壊れる」
ガルド
「よく壊れる」
リアナ
「ですよね」
タクミ
「なら」
鉄を取る。
「折れない武器」
ガルド
「それでいい」
次にバルグ。
「俺は戦場に立つ」
低い声。
「兵士と同じ場所で戦う」
タクミ
「長期戦」
リゼ
「耐久」
バルグ
「そうだ」
次にセレナ。
「私は前線に立たない」
冷静な声。
「指揮を取る」
リアナ
「戦術家ッス」
セレナ
「だが」
目を細める。
「必要なら斬る」
タクミ
「軽い武器」
リゼ
「魔力補助」
セレナ
「合理的」
最後にヴァルツ。
「私は」
微笑む。
「戦場には出ません」
リアナ
「知ってるッス」
ヴァルツ
「ですが」
目が鋭くなる。
「必要なら」
小さな短剣を出す。
「消します」
リアナ
「怖ッ」
タクミ
「分かった」
炉を見る。
炎が揺れる。
「素材」
リゼが棚を開く。
魔鉄。
新鉱石。
魔物骨。
そして。
黒い金属。
リアナ
「それ何ッス?」
リゼ
「影鉄」
リアナ
「絶対強いやつッス」
タクミは鉄を炉に入れた。
炎が大きく燃え上がる。
カン。
ハンマーが落ちる。
火花が散る。
四天王は黙ってそれを見ていた。
バルグが小さく言う。
「いい音だ」
タクミは叩きながら言う。
「鋳造は」
一撃。
「形」
もう一撃。
「鍛冶は」
さらに叩く。
「構造」
火花が舞う。
リゼが言う。
「魔力流」
タクミ
「ここ」
刃を叩く。
「集中」
四天王の目が変わった。
これは理解できる。
この鍛冶師は。
本物だ。
タクミは炉を見る。
炎が燃えている。
そして静かに言った。
「戦争」
ハンマーを振る。
「変える」
誰も笑わなかった。
この炉から生まれる武器が。
戦場を変えることを。
四天王は理解していたからだ。
炎は静かに燃え続けていた。
魔王軍の未来を。
その中で鍛えながら。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




