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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第28話 静かな戦場

戦争とは、剣と魔法だけで行われるものではない。


戦場に立つ兵士たちは、血と鉄の匂いの中で戦う。


だが。


その戦いが始まる前に、すでに別の戦いが始まっている。


静かで。

冷たく。

そして誰にも気づかれない戦場。


諜報戦。


魔王城、諜報室。


厚い石壁に囲まれた部屋だった。


灯りは少ない。


机の上に置かれたランプの光が、書類の山をぼんやり照らしている。


カティアはその机に座っていた。


背筋を伸ばし、静かな表情で紙を読んでいる。


机の上には報告書が並んでいた。


前線の戦況。


補給路の動き。


王国軍の配置。


そして。


一枚の紙。


そこには短い報告が書かれていた。


『王国軍、武器破損率増加を確認。

魔王軍武器性能向上の可能性あり』


カティアはしばらくその紙を見ていた。


やがて小さく息を吐く。


「……やはり」


予想通りだった。


王国軍は愚かではない。


むしろ優秀だ。


戦場の異常には必ず気づく。


そして原因を探る。


それが軍という組織だ。


扉がノックされた。


コン。


「入ってください」


扉が開く。


部下の兵士が入ってきた。


黒い軍服。


諜報部隊の兵士だった。


「報告です」


紙を差し出す。


カティアは受け取り、目を通す。


内容は短い。


『城下町に不審者。

旅人を装う男。

兵士との接触多数』


カティアは紙を机に置いた。


「いつから」


兵士


「三日前です」


カティア


「動きは」


兵士


「酒場、鍛冶屋、補給所を回っています」


沈黙。


そしてカティアは言った。


「王国です」


兵士の顔が少し引き締まる。


「やはり」


カティア


「武器の件でしょう」


兵士


「どうします」


カティアは椅子から立った。


地図の前に歩く。


前線の位置。


補給路。


後方工房。


そして。


専用工房。


タクミの場所。


カティアはそこを静かに見つめた。


(まだ知られていない)


王国軍は知っている。


魔王軍の武器が変わったことを。


だが。


それだけだ。


知らないことは多い。


専用工房。


新素材。


魔力鍛造。


リアナの新武器。


四天王武器計画。


もしこれが知られれば。


王国軍は必ず対策を取る。


技術は戦争を変える。


だが。


知られれば意味がない。


カティアは静かに言った。


「排除します」


兵士


「了解」


カティア


「ですが」


少しだけ目を細める。


「殺すだけでは足りません」


兵士


「……?」


カティア


「情報を書き換えます」


兵士は頷いた。


理解している。


諜報とは。


情報を奪うことではない。


敵に。


間違った情報を信じさせることだ。


その頃。


魔王城の城下町。


夜だった。


石畳の通りには灯りが並び、人の声が響いている。


戦争中とはいえ、町は完全に沈んでいるわけではない。


酒場には兵士が集まり、笑い声が聞こえていた。


その中に一人の男がいた。


黒い外套。


目立たない服装。


普通の旅人に見える。


だが。


その目は違った。


冷静で。


周囲を観察している。


王国諜報員だった。


男は酒を飲みながら会話を聞いている。


「最近よ」


兵士が言った。


「武器が折れない」


別の兵士が笑う。


「鍛冶屋が頑張ってるらしいぞ」


男は静かに耳を傾ける。


鍛冶。


やはり。


噂は本当だ。


(魔王軍に鍛冶師がいる)


男は考える。


王国軍は魔力鋳造を極めている。


大量生産。


品質安定。


戦争を支えている技術だ。


魔王軍はそこに劣る。


だが。


もし鍛冶武器が本格的に広がれば。


話は変わる。


鍛造は鋳造より強い。


だが。


量産できない。


だから主流にならなかった。


だがもし。


(量産できる鍛冶)


それが実現しているなら。


戦争は変わる。


男は立ち上がった。


銀貨を机に置く。


酒場を出る。


夜の空気は冷たい。


路地を歩く。


月が高く昇っていた。


その時だった。


後ろから声がした。


「夜の散歩ですか」


男は振り向く。


そこに立っていたのは。


カティアだった。


黒い軍服。


冷静な目。


男は一瞬で理解した。


(諜報)


だが顔には出さない。


軽く頭を下げる。


「旅人です」


カティア


「王国の?」


沈黙。


男は笑った。


「鋭い」


カティア


「質問があります」



「どうぞ」


カティア


「何を調べているのですか」


男は正直に言った。


「武器」


カティア


「鍛冶武器」



「そうです」


静かな声。


「王国でも噂です」


カティアは少し考えた。


そして言う。


「鋳造改良です」



「……」


カティア


「鍛冶ではありません」


男は黙って彼女を見る。


嘘。


そう思った。


だが証拠はない。


男は肩をすくめた。


「なるほど」


カティア


「信じませんね」



「諜報員ですから」


カティアは小さく笑った。


「そうですね」


そして言う。


「ですが」


一歩近づく。


「帰れません」


沈黙。


次の瞬間。


影が動いた。


屋根。


路地。


背後。


黒装束の兵士が現れる。


男は短剣を抜いた。


だが。


勝負にならない。


一瞬。


影が走る。


そして。


男は地面に倒れていた。


静寂。


カティアは倒れた男を見下ろす。


兵士が言う。


「始末しますか」


カティア


「いえ」


荷物を調べる。


暗号文。


連絡符。


王国の封印。


カティアは静かに言った。


「使えます」


兵士


「偽情報ですね」


カティア


「はい」


紙を広げる。


そして言う。


「王国には」


静かな声。


「こう伝わります」


兵士


「何と」


カティア


「魔王軍武器改良」


「鋳造技術進歩」


「鍛冶ではない」


兵士は頷いた。


完璧だ。


王国は安心する。


鋳造改良なら。


技術競争で対抗できる。


だが。


鍛冶革命なら。


話は別だ。


カティアは夜空を見上げた。


遠く。


専用工房の煙突から煙が上がっている。


タクミの炉。


あの火は。


戦争を変える火だ。


だが。


まだ知られてはいけない。


カティアは静かに言った。


「時間を稼ぎます」


兵士


「はい」


カティア


「タクミ殿のために」


少しだけ首を振る。


「魔王軍のために」


そして。


小さく微笑んだ。


「勝つために」


夜の町は静かだった。


だが。


その静けさの中で。


もう一つの戦争が終わった。


誰にも知られずに。


だが確実に。


魔王軍は。


一歩。


勝利に近づいていた。



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