第27話 前線の剣
専用工房の朝は早い。
炉の火はすでに赤く燃えていた。
タクミは無言で鉄床の前に立っている。
その横でリゼが材料を並べていた。
鉄。
魔鉱石。
魔物骨粉。
そして昨日試した新素材。
リアナは腕を組んでそれを見ていた。
「……オレの武器ッスよね?」
タクミ
「そうだ」
リアナ
「なんか研究材料みたいなんスけど」
リゼ
「研究」
タクミ
「実験」
リアナ
「やっぱり!」
二人は気にしていない。
リアナは大きくため息をついた。
「まあいいッス」
笑う。
「強ければ」
タクミは炉の中の金属を見る。
赤く溶けていた。
「素材は三種」
リゼが説明する。
「魔鉄」
金属を指す。
「魔力伝導」
次の粉。
「骨粉」
「粘性補強」
そして最後。
「新鉱石」
少しだけ間を置く。
「魔力増幅」
リアナ
「全部盛りッスね」
タクミ
「試す」
炉から金属を取り出す。
赤い。
眩しいほど赤い。
鉄床に置く。
ハンマーを握る。
カン。
工房に音が響いた。
リアナは黙って見ていた。
何度も見た光景。
だが今は違う。
タクミの叩き方は変わっていた。
カン。
カン。
一定のリズム。
だが微妙に位置が変わる。
リゼが言う。
「魔力流」
タクミ
「感じる」
リアナ
「え」
リゼ
「鍛造」
刃を指す。
「流れ作る」
タクミ
「鋳造は」
一撃。
「形」
もう一撃。
「鍛造は」
さらに叩く。
「構造」
リアナ
「難しいッス」
タクミ
「強くなる」
リアナ
「それでいいッス」
火花が散る。
金属が伸びる。
タクミは一度炉に戻した。
そしてもう一度叩く。
今度は刃の部分だ。
リゼが言う。
「ここ」
指す。
「魔力集中」
タクミ
「だから」
刃を叩く。
「ここを鍛える」
リアナ
「魔力剣みたいになるッス?」
タクミ
「違う」
タクミは言う。
「壊れない」
リアナの目が少し真剣になる。
「それ」
小さく言う。
「大事ッス」
工房に静かな空気が流れた。
タクミは叩き続ける。
カン。
カン。
そして。
刃の形ができた。
細身の剣。
リアナの体格に合わせた長さ。
タクミは刃を見た。
「焼き入れ」
リゼ
「魔力焼入」
リアナ
「それ昨日のやつッスね」
タクミは刃を炉に戻す。
赤くなる。
そして。
水ではなく。
リゼが小さな魔術陣を描いた。
青い光。
タクミはそこに刃を入れる。
ジュウウウ。
蒸気ではなく。
青い光が揺れた。
リアナ
「うわ」
リゼ
「魔力固定」
タクミ
「流れを残す」
しばらくして。
刃を取り出す。
黒く輝いていた。
リアナ
「カッコいいッス」
タクミ
「まだだ」
研磨台に持っていく。
刃を磨く。
シュウウウ。
火花が流れる。
そして。
タクミは剣を持ち上げた。
「できた」
リアナの目が輝いた。
「マジッスか」
タクミは剣を差し出す。
「使え」
リアナは両手で受け取った。
軽い。
信じられないほど軽い。
「うわ」
振る。
ヒュン。
風が鋭く鳴る。
リアナの目が丸くなった。
「軽い!」
もう一度振る。
ヒュン。
空気が裂ける。
「ヤバいッス!」
タクミ
「斬れ」
リアナ
「何を?」
タクミは鉄塊を置いた。
リアナは構える。
一瞬だけ集中。
そして。
振る。
ザン。
鉄が真っ二つになった。
リアナ
「……え」
タクミ
「どうだ」
リアナは剣を見た。
刃は無傷だった。
リアナ
「これ」
小さく呟く。
「前線で無双できるッス」
リゼが小さく頷く。
「成功」
リアナは剣を握ったまま黙った。
しばらくして言う。
「タクミ」
タクミ
「何だ」
リアナ
「これ」
剣を見る。
「オレの命預けるッス」
タクミ
「そうしろ」
リアナ
「絶対折るなって言ったッスよね」
タクミ
「ああ」
リアナ
「守れそうッス」
静かに笑う。
その時だった。
工房の扉がノックされた。
コン。
リアナ
「誰ッス?」
扉が開く。
そこに立っていたのはカティアだった。
黒い軍服。
冷静な表情。
「楽しそうですね」
リアナ
「カティア!」
カティアは剣を見る。
「それが新武器ですか」
リアナ
「そうッス!」
カティアは少し黙った。
そして言った。
「王国が動いています」
空気が変わる。
タクミ
「何だ」
カティア
「前線の報告」
静かに言う。
「武器がおかしいと」
リアナ
「バレたッスか」
カティア
「まだ確信ではありません」
目を細める。
「ですが」
少しだけ笑う。
「調査は始まっています」
タクミは剣を見る。
リアナの剣。
そして言った。
「構わん」
カティア
「理由を聞いても?」
タクミ
「簡単だ」
炉の火を見る。
「もう止まらない」
専用工房の炎は強く燃えていた
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