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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第1話 折れる剣

バキッ。


鈍い音が戦場に響いた。


「……は?」


王国騎士の男は、呆然と立ち尽くした。


自分の手にあるはずの剣が――半分になっていたからだ。


刃の中央から、綺麗に折れている。


カラン、と折れた刃が地面に落ちた。


砂埃の上で、虚しく転がる。


騎士は目を見開いた。


「お、折れた……?」


信じられない。


その剣は王国製の魔力鋳造剣だ。


魔術師が鋳型を用い、魔力で金属を瞬時に成形する武器。


大量生産ができる。


安い。


そして普通の武器より強い。


王国軍の正式装備でもある。


そんな剣が。


一撃で折れた。


騎士の目の前には、赤い髪の魔族の女が立っていた。


軽鎧。


腰に下げた剣。


そして、どこか気の抜けた笑み。


「もう終わりッスか?」


女は軽い口調で言った。


王国騎士は叫ぶ。


「き、貴様……その剣は何だ!」


女は自分の剣を軽く振った。


ヒュン、と空気を切る音。


銀色の刃が光る。


「これッスか?」


女は笑った。


「工房製ッス」


騎士は理解できない。


工房?


魔族の?


そんなはずがない。


魔族の武器は粗雑だ。


王国では常識だった。


だが、目の前の現実は違う。


騎士は予備の剣を抜いた。


「くそっ!」


女に斬りかかる。


キィン!!


金属音が響く。


火花が散る。


そして――


ベキッ。


騎士の剣が、また折れた。


沈黙が落ちる。


騎士は呆然とした。


「ありえない……」


女は肩をすくめる。


「ありえるッスよ」


剣を肩に担ぐ。


「これ、タクミ製ッスから」


その頃。


戦場から遠く離れた場所で。


カン。


カン。


金属を叩く音が響いていた。


炉の火が赤く燃えている。


鉄と炭の匂い。


煙がゆらゆらと天井へ昇っていく。


工房の中で、俺はハンマーを振り下ろした。


カン。


火花が散る。


鉄が少しだけ形を変える。


もう一度。


カン。


カン。


「……暇だな」


思わずつぶやいた。


俺の名前はタクミ。


職業は鍛冶師。


……一応は。


だがこの世界では、鍛冶師という仕事はほとんど必要とされていない。


理由は単純だ。


この世界の武器は――


魔力鋳造で作られるからだ。


魔術師が鋳型を用意する。


そこへ溶けた金属を流し込み、魔力を注ぐ。


すると金属は瞬時に形を整える。


剣。


槍。


鎧。


何でも作れる。


しかも早い。


そして安い。


大量生産も可能だ。


戦場では武器は消耗品だ。


折れたら捨てる。


壊れたら補給する。


兵士たちはそう言う。


「武器なんていくらでもある」


だから鍛冶師は必要ない。


少なくとも、この国では。


俺の工房にも仕事はほとんど来ない。


今日も炭だけが燃えている。


「炭がもったいないな……」


そうつぶやいた時だった。


ドン!!


工房の扉が勢いよく開いた。


「タクミー!!」


元気な声が響く。


俺は振り向いた。


「リアナか」


赤毛の女兵士が工房に入ってくる。


鎧姿のままだ。


背中には大きな袋を背負っている。


リアナはニカッと笑った。


「仕事持ってきたッス!」


袋を机の上にドサッと置く。


中から剣が転がり出た。


……全部壊れている。


折れている。


曲がっている。


刃が欠けている。


俺は一本拾い上げた。


断面を見る。


やはりだ。


内部が粗い。


気泡が多い。


密度が足りない。


「また折れたのか」


リアナはうんうんと頷く。


「昨日の戦闘ッス!」


一本の剣を持ち上げる。


刃の真ん中から、綺麗に折れていた。


「これ見てくださいッス」


「振った瞬間――」


リアナは手でジェスチャーする。


「バキッス」


「……」


「マジでビビったッス」


俺は剣を見つめた。


リアナは続ける。


「新人一人やられたッス」


それからすぐ笑う。


「まあ戦場あるあるッスけど!」


……あるある、か。


俺は黙って剣の断面を見る。


武器が折れる。


兵士が死ぬ。


それを「仕方ない」で済ませる世界。


リアナが言う。


「魔力鋳造ッス」


「だろうな」


「今どき鍛冶なんて使わないッスからね!」


「そうだな」


俺は剣を机に置いた。


リアナは腕を組む。


「でも折れると困るッス!」


「そりゃそうだ」


「直せるッス?」


「直すだけならな」


リアナの目が光った。


「マジッスか!」


「だが」


俺は剣を持ち上げた。


「改良もする」


リアナが首を傾げる。


「改良ッス?」


「折れないようにする」


一瞬、沈黙。


それからリアナは笑った。


「できるッスか?」


「やってみる」


俺は剣を炉に入れた。


鉄が赤く染まる。


橙。


やがて白に近づく。


リアナが後ろから覗き込む。


「久しぶりに鍛冶見たッス」


「そうか」


「武器は全部魔力鋳造ッスからね」


俺はハンマーを握った。


カン。


火花が散る。


リアナが驚く。


「おお」


カン。


カン。


鉄を叩く。


不純物を飛ばす。


密度を上げる。


鋼を締める。


前世で何百回もやった作業だ。


リアナが聞く。


「何してるッス?」


「鋼を整えてる」


「整える?」


「中に空気がある」


リアナは断面を覗く。


「そんなの分かるッス?」


「見ればな」


カン。


カン。


鉄が締まっていく。


俺は言った。


「武器はな」


リアナが振り向く。


「はいッス?」


「折れない方がいい」


リアナは吹き出した。


「当たり前ッス!」


「でも誰も気にしてない」


カン。


カン。


「折れたら補給すればいいって考えッス」


「それで死ぬ奴がいる」


リアナは少し黙った。


それから言う。


「いるッス」


俺は剣を炉から取り出した。


「だから」


リアナが聞く。


「はいッス?」


「折れない武器を作る」


リアナは腕を組む。


「できたらすごいッスね」


「やる」


俺は剣を水桶に入れた。


ジュッ!!


蒸気が上がる。


リアナが目を丸くする。


「おおお」


「焼き入れだ」


剣を取り出す。


刃を研ぐ。


そしてリアナに渡した。


「振ってみろ」


リアナは剣を受け取る。


軽く振る。


ヒュン。


「お?」


もう一度振る。


ヒュン。


ヒュン。


リアナの目が少し大きくなる。


「振りやすいッス」


「重さは同じだ」


「でも軽く感じるッス」


リアナは何度も振る。


「なんかいいッスね」


少し笑う。


「これ使ってみるッス」


「そうしてくれ」


リアナは剣を腰に差した。


袋を背負う。


「また戦闘あるッス」


「気をつけろ」


リアナは扉の前で振り向いた。


「タクミ!」


「なんだ」


ニヤッと笑う。


「これ折れたら文句言いに来るッス!」


「いいぞ」


「でも折れなかったら」


「ん?」


リアナは指を立てる。


「もう一本作るッス!」


俺は少し笑った。


「ああ」


リアナは手を振る。


「じゃ行ってくるッス!」


バタン。


扉が閉まる。


工房は静かになった。


炉の火が揺れる。


俺は折れた剣をもう一本手に取る。


戦場では武器が折れる。


それは当たり前だと思われている。


だが――


もし。


武器が折れなかったら。


兵士は死なないかもしれない。


俺は炉に鉄を入れた。


火が赤く燃える。


ハンマーを握る。


カン。


鉄を叩く。


カン。


この時、俺はまだ知らなかった。


この剣が――


戦場を変えることになるなんて。


そして。


この小さな工房が。


やがて戦争の流れすら変えることになるなんて。



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