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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第5節:鋼の誕生

新しい反射炉に、初めて火が入れられた。その瞬間を、ボルツだけでなく、噂を聞きつけたほぼ全ての領民が、固唾を呑んで見守っていた。

「ふいご、ゆっくり頼む!」

俺の指示で、科学教室の若者たちが交代でふいごを操作し、燃焼室へと空気を送り込む。燃料の木炭が、パチパチと音を立てて燃え上がり始めた。

ボルツは、隣に用意した自分の古い炉にも火を入れ、黙々と作業を開始する。彼は彼で、最高の鉄を打つつもりなのだ。

反射炉の燃焼室で生まれた熱い炎とガスは、俺の設計通り、低い天井に沿って、鉱石が置かれた炉床へと流れ込んでいく。炉の中が、徐々にオレンジ色に輝き始めた。

「温度上昇、順調だ……!」

俺は【観察者の眼】で、炉内の温度が均一に、そして効率よく上がっていくのを確認する。従来の炉では考えられない安定性だ。

「サトシ様、見てください! 鉱石の色が!」

アリアが興奮した声を上げる。赤黒かった鉄鉱石が、熱せられてドロドロに溶け始め、その表面に、ガラスのような光沢を持つ液体――スラグが分離して浮き上がってきた。鉱石に含まれていた不純物が、狙い通りに分離している証拠だ。

一時間後、炉内の温度は1300℃に達した。鉄の還元は、ほぼ完璧に終わっている。

「よし、取り出すぞ!」

俺の合図で、炉の横に開けられた排出口から、灼熱に輝く鉄塊が、ズシリとした音を立てて姿を現した。

「おお……!」

領民たちから、どよめきが起こる。

その鉄塊は、ボルツがいつも作っている、黒くてゴツゴツしたブルームとは全く違っていた。表面は滑らかで、不純物が少なく、全体が均一に輝いている。

時を同じくして、ボルツも自分の炉から鉄塊を取り出した。それは、いつもの、見慣れた鉄だった。

勝負は、ここからだ。

「ボルツさん、これを鍛えてくれ」

俺は、反射炉から取り出した鉄塊を、ボルトの前に差し出した。ボルツは無言でそれを受け取ると、金床の上に乗せ、巨大な槌を振り上げた。

カンッ!!

甲高く、澄んだ音が鍛冶場に響き渡った。

その瞬間、ボルツの顔色が変わった。

「なっ……!?」

彼は、信じられないという顔で、手の中の槌と鉄塊を交互に見ている。

「なんだ、この手応えは……!? いつもの鉄みてえに、鈍く沈み込むんじゃねえ……! 槌を、弾き返しやがる……!」

カン! カン! と、ボルツは夢中になって槌を振り下ろす。叩くたびに、火花はより白く、より激しく飛び散った。鉄が、まるで生き物のように形を変えていく。折り返し、鍛え、伸ばしていく過程で、ボルツは確信していた。これは、自分が今まで扱ってきた鉄とは、全くの別物だ、と。

やがて、一本の鍬が完成した。

それは、ボルツが今まで作り上げてきた、どの鍬とも違う輝きを放っていた。鈍い黒鉄色ではない。光を反射して、青みがかった、冷たい光沢を宿している。

「……これが……鋼……」

ボルツは、呆然と呟いた。

俺は、彼が自分の古い製法で作った鍬と、新しい鋼の鍬を並べて、領民たちの前に差し出した。

「さあ、実験の結果を見てもらおう」

俺はまず、従来の鍬を手に取り、鍛冶場の隅にあった大きな岩に、力任せに振り下ろした。

ガキンッ! という鈍い音と共に、鍬の刃先は無惨に欠け、岩には白い傷がついただけだった。

次に、俺は鋼の鍬を手に取った。ずしりとした重みが、頼もしい。

「はっ!」

気合一閃、岩に叩きつける。

キィンッ!!

金属的な快音が響き渡り、信じられない光景が広がった。

鋼の鍬は、刃こぼれ一つしていない。それどころか、叩きつけられた岩の方が、真っ二つに割れていたのだ。

「「「おおおおおおおっ!!」」」

今度こそ、地鳴りのような大歓声が、グレイウォールに響き渡った。

勝負は、決した。

ボルツは、割れた岩と、傷一つない鋼の鍬の前に、ゆっくりと膝をついた。そして、深く、深く、地面に頭をこすりつけた。

「……完敗だ」

震える声だった。

「サトシ様……いや……先生。俺は、間違っていた。あんたの言う通りだ。俺は、鉄のことを、何もわかっちゃいなかった……。教えてくれ。俺に、あんたの言う『科学』を、教えてください!」

頑固な職人が、そのプライドを捨て、真理の前に頭を下げた瞬間だった。俺の二番目の(かなり年上の)生徒が、誕生した瞬間でもあった。

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