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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第3節:科学の賭け

理論武装を終えた俺は、科学教室の生徒たち数人を引き連れて、再びボルツの鍛冶場へと向かった。今度は、ただの領主としてではない。科学という武器を持った、一人の教師としての訪問だ。

ボルツは、俺たちの姿を認めると、露骨に嫌な顔をして、仕事の手を止めた。

「また来たのか、あんた。今度は何の用だ。素人が集まって、鉄の打ち方でも教えてくれるってのか?」

彼の言葉には、刺々しい皮肉が満ちている。

「いや、あんたの技術は本物だ。それは認める」と俺は切り出した。「だが、あんたはまだ、自分が扱っている物質の『正体』を誤解している。だから、どんなに腕を磨いても、素材の限界を超えることができない」

「……何が言いたい」

「あんたの鉄が脆いのは、鉱石の不純物のせいだけじゃない。あんたが『鉄を沸かす』ために燃やしている木炭……その『炭素』が、鉄に過剰に溶け込んでいることが、一番の原因だ」

俺は、昨日の授業で生徒たちに説明したのと同じように、錬鉄、銑鉄、そして鋼の違いを、簡潔に、しかし断定的に説明した。炭素という目に見えない物質が、鉄の性質を決定づけているという事実に、ボルツは眉をひそめ、明らかに動揺の色を見せた。彼の長年の経験則では、思いつきもしなかった概念だったからだ。

「……炭素だと? 馬鹿馬鹿しい。鉄は鉄だ。よく焼き、よく叩けば強くなる。それだけだ」

「それが、経験則の限界だ」と俺は続けた。「その『よく焼く』過程で、鉄の性質を悪化させているとしたら? その『よく叩く』作業で、取り除けない不純物が残っているとしたら?」

ボルツは、ぐっと言葉に詰まった。彼は、誰よりも自分の鉄と向き合ってきた。だからこそ、俺の言葉が、ただの戯言ではない可能性を、心のどこかで感じ取っているのだ。

そこで俺は、決定的な提案を持ちかけた。

「ボルツさん。俺と、賭けをしないか?」

「……賭けだと?」

「そうだ。あんたの『経験』と、俺の『科学』。どちらが、このグレイウォールの鉄から、より優れた道具を作り出せるか。勝負しようじゃないか」

俺の挑戦的な言葉に、ボルツの職人としてのプライドが刺激されたのは明らかだった。彼の目に、怒りとは違う、闘争心の色が宿った。

「面白い。受けて立ってやる。で、どうやって勝負するんだ?」

「新しい炉を一つ作る」

俺は、鍛冶場の空いたスペースの地面に、木の枝で一本の線を引いた。

「俺が設計する、新しい炉だ。この炉で鉄を作り、それで打ち出した鍬と、あんたが今までのやり方で打ち出した鍬。どちらが頑丈で、使いやすいか。領民たちの前で、はっきりと白黒つけよう」

「新しい炉、だと?」

「ああ。燃料と鉄鉱石を完全に分離し、炎と熱風だけを効率的に送り込んで還元させる『反射炉』だ」

俺は地面に、簡単な反射炉の構造図を描き始めた。低い天井を持つ窯のような構造。一方の端に燃料を置く燃焼室、もう一方の端に煙突。そして、中央の床に鉄鉱石を置く。燃焼室で発生した熱いガスが、低い天井に反射して、鉄鉱石に集中砲火を浴びせる仕組みだ。

「これなら、燃料の炭素が鉄に直接溶け込むのを、最小限に抑えることができる。さらに、炉の温度を今よりも高く、そして安定させることが可能だ。不純物である硫黄やリンも、より効率的にスラグとして分離できる」

ボルツは、地面に描かれた、今まで見たこともない奇妙な形の炉の図面を、食い入るように見つめていた。それは、彼の常識を覆す設計思想だった。熱を直接当てるのではなく、反射させる? 燃料と鉱石を分ける? にわかには信じがたい理論だったが、その理路整然とした説明には、奇妙な説得力があった。

「……もし、あんたが勝ったら?」

「あんたが持つ、その最高の技術で、俺の言う通りの『鋼』の農具を、領民たちのために量産してもらう。そして……」

俺は、ニヤリと笑った。

「あんたも、『グレイウォール科学教室』の生徒になってもらう」

「なっ……!?」

「逆に、俺が負けたら、もう二度とあんたの仕事に口出しはしない。この鍛冶場から、きれいさっぱり消えてやる。どうだ?」

ボルツは、しばらく腕を組んで黙り込んでいた。彼の頭の中では、長年培ってきた職人のプライドと、目の前の若者が提示する未知の可能性とが、激しくせめぎ合っているのだろう。

やがて、彼は顔を上げた。その目には、決意の光が宿っていた。

「……いいだろう。その賭け、乗った。ただし、手は抜かねえぞ。俺は、俺のやり方で、お前を叩き潰す」

「望むところだ」

こうして、古い伝統と新しい科学の、どちらがグレイウォールの未来を切り拓くかを決める、世紀の対決の火蓋が切って落とされたのだった。

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