試行錯誤の日々
「小説って、どうやって書くんだろう……」
パソコンの前でつぶやいた幸子は、検索窓に「小説 初心者 書き方」と打ち込んだ。
出てきたのは、無数のブログ記事、動画、講座の案内。
「起承転結」「キャラクターの動機」「読者を引き込む冒頭」――見慣れない言葉が並ぶ。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
絵を描いていた頃は、技術書を読むのも苦痛だったのに。
今は、言葉でなら、あの子たちを生かせるかもしれない。
その可能性が、幸子を前に進ませていた。
まずは、短編から始めてみよう。
そう決めて、リュカの物語を簡単にまとめてみる。
彼女は、夜の街をさまよう孤独な少女。
過去に何かを失い、それでも誰かを守ろうとしている。
その姿が、幸子にはどうしても忘れられなかった。
プロットなんて、ちゃんとしたものは作れない。
でも、頭の中にあるシーンを、箇条書きにしてみる。
「リュカ、夜の街を歩く」
「謎の少年と出会う」
「過去の記憶がよみがえる」
「戦いの中で、自分の力に気づく」
それだけでも、少しずつ物語が形になっていく気がした。
文章はまだ拙い。表現もぎこちない。
でも、書いているときだけは、心が少しだけ軽くなる。
夜、書き終えた短編を読み返す。
誤字もあるし、構成もバラバラ。
でも、そこには確かにリュカがいた。
彼女が、言葉の中で生きていた。
「……ありがとう」
画面に向かって、そうつぶやいた。
誰に届くかわからない。
でも、誰かに読んでほしい。
そんな気持ちが、少しずつ芽生えていた。
Web投稿サイトの登録画面を開く。
「作品タイトル」「ジャンル」「あらすじ」――入力欄が並ぶ。
手が震える。でも、逃げたくはなかった。
「タイトルは……『夜の街のリュカ』でいいかな」
そう決めて、初めての投稿ボタンを押した。
画面に「投稿が完了しました」と表示された瞬間、胸が高鳴った。
誰かが読んでくれるかもしれない。
誰かが、リュカを知ってくれるかもしれない。
それだけで、少しだけ世界が広がった気がした。