体が初めての試練を受ける
私は今、人生で初めての試練に立たされている。
これまで空手の練習で打たれたことは何度もあった。
打たれ強くなるための軽打、当てるだけの訓練。
でも今、私が受けているのは――違う。
腹を傷つけることを目的に、
本気で叩き潰すための打撃。
私の腹が、破壊されるための拳。
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「っ――!」
二発目の拳が私の腹に叩き込まれた。
「がっ……あ……あぁっ……!」
口から息が漏れるというより、肺が押し潰されて吐き出された。
苦しい。
痛い。
「は……あ……う……!」
息ができない。
視界が揺れる。
「いっ……いたい、いた……ッ!」
声に出してしまった。
痛い、痛い、痛い。
蒼真くんの拳が怖い。
だけど逃げられない。
逃げないって決めたから。
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「まだだ」
蒼真くんが低く言う。
私の腹に刻まれる痛みは、
報復が進むにつれて、加速度的に増大していく。
最初の一発目とは比べ物にならない。
同じ場所を狙われて、痛みが蓄積していく。
「は、あ……っ、やだ……!」
泣きそうになる。
泣きたくなる。
でも泣いたら終わりだから。
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三発目が来る。
「ぐっ……! あっ……! あああっ……!」
床に膝をつきかける。
お腹が、焼けるように痛い。
壊れる。
絶対に壊れる。
「や……やだ……いたい……やだ……」
口が勝手に漏らす。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
でも。
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「もう、一本、入れるぞ」
蒼真くんの声が遠くで聞こえる。
怖い。
「……っ、いや……いやだ……」
泣きそうになる。
だけど――
「……き、て……いい……」
私はそう言った。
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蒼真くんの拳が振り下ろされる。
「ッ――!」
「がぁっ……あ、ああっ……!!」
体が跳ねる。
もう息ができない。
痛い、痛い、痛い、痛い――
「いや、いやだ……いたい……やだ……」
泣き声が漏れる。
それでも。
「っ、は……くるし……い……」
肺が潰れそう。
胃がねじ切れそう。
全部壊れそう。
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でも私は。
「や、……まだ……こないで……」
「……来るぞ」
「……き、て……」
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痛いのに。
怖いのに。
「……いい、よ……蒼真くん……」
声が震える。
私が奪った痛みを返すためだから。
蒼真くんが怒りから解放されるなら、痛くていい。
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「ぐ、あっ……あ、あ、あぁ……ッ!」
四発目が入った瞬間、視界が白く弾けた。
吐き気が込み上げる。
「やだ、やだ、やだ……いたい……いたい……いたい……!!」
涙が出る。
止められない。
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でも――
私は逃げない。
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「お前、まだ立てるな」
蒼真くんの声が聞こえた。
「う……あ……た……立つ……」
足が震えて、膝が笑っているのに、
私は床を押して立ち上がった。
「……来い……まだ……受ける……」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、
それでも笑った。
痛くて、苦しくて、怖くて、泣きたくて。
でも、これが私の罰だから。
どれだけ痛くても――
私は逃げない。
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