蒼の世界1
僕は2日前の出来事を思い返したあと、自分の部屋のベッドで眠りについた。
「あおいー、そろそろ起きなさい」
目を開けると、お母さんがいた。
「夏休みだからって、いつまでも寝てるんじゃないよ」
そう言われ、枕元に置いてあったスマホで時刻を確認すると、10時30分。外ではセミが大合唱している。
「それに今日はすることがあるんだから、早く朝ごはん食べる」
「わかってる」
僕はそう返事する。
今日は姉の部屋の遺品整理をすることになっている。
僕はまだ重い瞼をこすりながらも足を動かす。
僕は、まず洗面所に行き手早く顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見る。
「いつもと変わらないな」
そんなことを思う。
自分も、母親も。
母も事故のときの状況を聞いているだろうに。
あとから知ったことだか、トラックの運転手は居眠り運転をしていたらしい。
でも、僕にも非があることは変わらない。
そんなでも母は、僕のことを一切責めたりしないし、あの日のことを聞いてきたりしない。
「いっそ責められた方が楽なのにな」
僕は自分が助かりたいだけの言葉を吐き出すと、そのまましばらく鏡の自分とにらめっこをする。
いつまでもそうしていただろうか。
「あおいー何してるのー?ご飯冷めるわよー」
母の声が聞こえてきた。
「ずぐ食べるからー」
僕はにらめっこをやめ、少し遅めの朝ごはんを食べにリビングにむかった。
朝ごはんを食べ終え、時刻を確認すると11時を回っていた。
「始めますか」
僕は、姉の遺品整理をしようとリビングを後にし姉の部屋に向かう。
ガチャ
扉を開けると、すでに母が整理を始めていた。
「お、きたきた。お母さん疲れたからリビングで休憩してるわね」
「はいはい、あとはやっとくよ」
お母さんと入れ違いで部屋に入り、僕は部屋を見渡す。
姉は僕の3つ上の18歳。大学1年生だった。
そんな姉の部屋だか、男の僕の部屋とそこまで雰囲気は違わない。
あっても机の上に化粧品がズラっと置いてあることぐらいか。
どこからやろうかと思い、部屋を見ていると机と壁の間に、本が挟まっているのが見えた。
もしや思春期男子なら1冊ぐらいは持っているであろう本かと思ったが、それにして本が厚い気が...
なんて思いながらその本を引っ張り出すと、本の正体は普通の文庫本だった。
タイトルは「蒼の世界」と書いてあった。
「これ確かお姉ちゃんが好きだった本だ」
僕がまだ小学3年生、姉が小学6年生だった頃、姉がこの本が好きでよく家族みんなに話をしていた。
確か内容は、なんでも願いを1つ叶えてくれるというクジラに会いに行く。こんなだったと思う。僕はあまり本に興味が無かったし、姉の話を聞き流していたせいで、あらすじを少ししか覚えていない。
「ちゃんと話を聞いていればよかったな」
姉がいなくなった今そう思う。
今までの当たり前がいつまでも続くとは限らない。当たり前のことなのに自分のこととなると、急に分からなくなる。
僕はそんなことを考えながら、なんとなくこの本を読んでみようと思った。姉が好きだった本を僕も読んでみたくなった。
本の表紙をめくり始まりのページを探す。
「全部白紙じゃないか」
僕は、ページをペラペラめくるが紙には文字が1文字も書かれていない。
「なんだこれ...」
僕はこのことに少し怖くなり、本を閉じようとした時、突然本が少し白色に光ったかと思うと部屋全体が、蒼色に包まれた。
「うっ...」
あまりの光量に僕は気を失ってしまった。