信じていた全てに捨てられたわたくしが、新たな愛を受けて幸せを掴むお話
「いい加減さ、俺のお妃様になってくれない?」
「謹んでお受け致しますわ」
私の言葉に目を見開くのは西の森の精霊王様。
それはそうだ、今までどんなに求婚されてもわたくしは断り続けていたのだから。
わたくしはこの大陸でも一番栄えた国の侯爵令嬢。生まれながらに王太子殿下の婚約者であった。
西の森の精霊王様は神殿にお祈りに行った際、わたくしを一目見て求婚するほどに愛してくださったけれど婚約者がいる身であったためお断りしていた。
けれど、断る理由は無くなってしまったのだ。
「嬉しいけれど、急だね。どうしたの?」
「王太子殿下から婚約破棄されました」
「なにそれ、どういうこと?」
わたくしは精霊王様に語る。
わたくしは今まで、両親や兄や婚約者から愛されて幸せに育ったこと。
しかしこの国の貴族の子女の通う学園で、唯一平民の女の子が特待生制度で入学してきたから全てが壊れたこと。
その女の子は、わたくしに虐められたとでっち上げてわたくしの評判を落とし婚約者を奪ったこと。
今まで愛してくれていたはずの家族もわたくしを見捨てて、わたくしを貴族籍から抹消してしまったこと。
「酷い話だね」
「みんなあの子の嘘を信じて、あの子を庇いあの子を愛し、わたくしを捨てましたわ」
「可哀想に」
優しく抱きしめてくださる精霊王様のぬくもりに、涙が溢れる。
「わたくしにはもう精霊王様の求婚を断る理由はありません。みんなから捨てられてしまいましたから。そんなわたくしでもいいのなら…」
「そんな君でもいい。そんな君だからいい。俺は君が好きなんだから。一目惚れなんて格好つかないけれど…一目見てビビッとくるものがあったんだ。どうしても君がいい」
「精霊王様…」
「マリア。今この時より君は精霊妃だ。俺の真名はクリスティアン。クリスと呼んで」
「クリス様…」
わたくしはクリス様に身を預ける。
クリス様はわたくしを西の森へ連れ帰った。
そこでわたくしは元の肉体を捨て生まれ変わり、精霊妃となった。
これでクリス様と永遠に一緒に居られる。
ほかの精霊たちも生まれ変わったわたくしを祝福してくれて、直後結婚式を挙げてわたくしは確かに幸せを感じていた。
「マリア」
「クリス様」
結婚式が終わったあと、クリス様と二人きりになる。
クリス様は言った。
「…後悔はしていないかい?傷心に付け込んだ俺が聞くのもなんだけど」
「後悔はありません。だって、わたくしにはもう人間界において失うものはなくなったんですもの」
「マリア…」
優しく抱き寄せてくれるクリス様の胸の中で、思いを吐露する。
「わたくしは、家族にも友人にも、婚約者にも全身全霊で愛を捧げてきましたわ。でも、もう皆様の心は私から離れてしまった。家族も友人も庇ってはくれなかった。婚約者も信じてはくれなかった。わたくしは虐めなどしていないのに」
「そうだね…君がそんなことをするはずがない。可哀想に…薄情なやつらのことは忘れて、ここで幸せになろう」
「はい、クリス様」
こうしてわたくしは、安心できる場所で永遠に続く幸せを手に入れた。
クリス様や精霊たちに守られて、幸せな生活を送る。結婚式から一年が過ぎた今では、精霊たちはもちろんのこと森の生き物とも仲良く過ごしている。
そんなわたくしの幸せそうな顔を見て、クリス様もすごく優しい笑顔を向けてくれる。
「マリア。今幸せかい?」
「はい、クリス様のおかげです」
「俺もマリアと共にいられて幸せだよ」
「ふふ。クリス様はわたくしを喜ばせるのがお上手ですわ」
「それを言うならマリアこそ、俺を喜ばせる天才だ」
クリス様は本当に心からわたくしを愛してくださる。森の精霊たちや生き物も、わたくしを精霊妃として愛してくれる。
愛していた全てから見捨てられて傷ついた心は、もうすっかりと癒えてしまった。
「そうそう。そろそろマリアの心の傷も癒えた頃だろうから言うけれど」
「なんですか?」
「俺、マリアの元いた国には加護を与えないことにしたんだよね」
「え」
クリス様の加護で栄えていた国にとっては、それは致命的ではないだろうか。
「王家の使者が神殿で必死に助けてくれとお祈りしていたけれど、俺はその使者にマリアを俺の妃にしたことを告げたんだ」
「あらまぁ」
「マリアの元の肉体を回収して、死んだものと決めつけていた彼らは驚いていたよ」
「そうでしたか」
「そして精霊妃に無実の罪を着せた女がいる国は助けないと使者に断言した。精霊妃を見捨てた家族や友人、婚約者も決して許さないと告げた。婚約者の身勝手な婚約破棄を許した国王も許さないとも」
そこまで言ったなら国は大混乱だろう。
「当然そうなると、『お前達のせいで』と性悪女や君の〝元〟家族、〝元〟友人、〝元〟婚約者、あと国王は他の人間たちから私刑に処されたようだね。死刑までは行かなかったけれど、それぞれ立場を追われてスラム街に逃げ込み棄民となったよ」
「そうなりますわよね」
「新しい王には元王弟がなって、その後の王位の継承者も王弟の子供から選ぶということだから…土下座もされたし、復讐も十分かと思ってまた国に加護を与えることにしたよ」
「許して差し上げてくださったのですね。ありがとうございます、クリス様」
「マリアは本当に優しいね。君を捨てた国にすら情をかけるなんて」
ぎゅっとクリス様に抱きしめられる。
「そんな君だから惚れ込んだのかもしれないけれど、もっと自分も大切にしないと」
「ふふ、クリス様が大切にしてくださるから大丈夫ですわ」
「もう、マリアは本当に可愛いなぁ」
思わぬわたくしを捨てた方々の末路を知ってしまったけれど、ほとんど何の感情も湧かないどころか少しスカッとしてしまった。
けれど他の罪のない人たちは許されたことにもホッとした。
これでこれからは、さらになんの気兼ねもなく幸せを噛み締められるだろう。
ぎゅっとわたくしを抱きしめるクリス様に、ぎゅっと抱きしめ返した。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
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