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第2話

「急に大声だすなよ」


 額を机にくっつきそうなくらい近づけて、赤くなった顔を誤魔化すくらいなら、そんな要求してこないでよね。


「美羽音は恥ずかしいヤツだな」

「快斗にそんなこと言われる筋合いないけどね」

「あはは」


 イラストを描き終えた彼は、まだ真っ赤になった顔をうつむけたまま、実験に使用した器具の名前を記し始めた。


「これ書き終わったらさ、もうさっさと職員室に行って提出してこようぜ。そしたら一緒に帰ろう」


 どうしてさっきからずっと、彼はうつむいてばかりなのかとか、視線が全く合わないこととか、こんな簡単なレポートを急にわざわざ放課後一緒にやろうと誘ってきたのかとか、さすがの私にだって、もう思い当たる節がないわけじゃない。


「坂下と帰れんのなら、俺とも帰れるだろ」

「遠山くんって、電車通学だっけ」

「快斗ね。やり直し」

「……。快斗は、電車通学だったっけ?」

「自転車」

「駅と反対方向なんじゃない?」

「関係ないし」

「なんか用事あんの」

「ある」

「なんの用?」

「は?」


 彼はそっぽを向くと、右手でくるくるとペンを回しを始めた。

ペン回し出来る人、生で始めて見た。


「美羽音と一緒に帰るっていう用事」


 彼とはやっぱり目が合わなくて、真っ赤な顔はやっと上に上がっても、視線は横を向いている。

自分でもそうなっていることに気づいてるから、恥ずかしくなってんだよね。


「いいけど、自転車停めるとこないよ。歩行者多いし、駅に自転車で来る人なんて基本いないから……」

「じゃあ今日は、そこまで歩いていく」


 ほぼほぼ同じ高さにある彼のそんな顔をじっと見つめていたら、何だかもごもごと言い訳を始めた。


「あ……。ほ、本屋! 駅前に本屋あったでしょ。そこに行きたいから、ちょっと付き合って」

「ねぇ、別に本屋さんに行くのはいいんだけどさぁ……」

「あ、だったらゲーセンでも……」


 不意に、誰かが近づいてきた。

館山さんだ。


「わ、私も一緒に! レポート書いていい?」


 彼女はしっかりと胸に鞄を抱きしめ、必死になって私を見下ろす。


「え? あぁ、いいよ」

「ご、ゴメンね、邪魔しちゃって。わ、私も学校で済ましちゃおうかなって、思って。か……、快斗と同じ班だったし!」


 私は彼女のために、隣の机を動かしてこっちにくっつけようとしたら、慌てて館山さんも手伝おうと鞄を肩から下ろした。


「館山は自分で出来るだろ」


 快斗はクラスイチの優等生女子に向かって、無愛想で高飛車に背中をのけぞらせた。


「つーか実習中に、レポート書きながら実験してたの知ってるし。お前もうやり終わってんだろ」

「お、終わってるけど、どうなのかなって。ちゃんと出来てるかとうか、見てほしくって……」


 快斗はなんでそんな意地悪言うんだろ。

オレ様かよ。

こんなに泣きそうになってる女の子を、黙って見過ごせる人間っている? 


「見る見る、見るよ! 見ていいんだったら、私に見せて」


 彼女はおずおずと控えめに、それでも抱えていたサブバックを机に置いた。

そのとたん、快斗はバサリと実習ノートを閉じる。


「なにその上から目線。自慢しに来たのかよ。お前はまだみんなから、褒めちぎってほしいんだ」

「ちが……」

「ちょっ、待って。なにその言い方!」


 館山さんは開きかけていた鞄のファスナーをサッと閉じると、それにしがみつくように抱きかかえた。


「ごめん。やっぱり帰る」


 館山さんが泣いている。

実際に涙は流してないけど、私にはそれが見える。

逃げ出した彼女に謝りに行くのは、私じゃない。

快斗だ。


「なんであんな可愛い子を泣かすの!」

「泣いてなかっただろ」

「泣いてたよ!」

「別に可愛くもねーし」

「ねぇ、視力いくつ」

「は?」

「あんたの視力はいくつかって聞いてんの!」

「それを知ってどうすんだよ」

「早く館山さんに謝ってきて!」

「なんで。イヤだ」


 口を尖らせそっぽを向く快斗に、最高に腹が立つ。


「女の子を泣かせるような奴は、私嫌いだからね」

「だから泣いてなかったって!」

「いいから謝ってきて!」


 それでも動こうとしない彼に、こんなこと言うのは卑怯だと分かっているけど、言わずにはいられない。


「じゃないともう一緒にレポートしたり、一緒に帰ったりもしない。本屋も行かない」

「なんだそれ」

「私も帰る」


 広げていた筆箱とノートをバタバタと鞄に取り込む。


「あぁもう分かったよ。分かったからちょっと待って」


 どれだけ呼び止められても、そんなのは無視だ。

先に彼女に謝ってこない限り、もう彼とは口利かない。


「じゃあね」


 教室を出ようとしたら、いつの間にか戻っていた坂下くんとぶつかった。


「あれ。どうかした?」

「一緒に帰ろう!」


 思わす彼の腕を掴む。

見せつけてやるんだ。

悔しそうにしている快斗に。

だって彼はそれほど酷いことを彼女にした。

坂下くんは流れを察して、私に付き合ってくれる。


「いいよ。行こう」


 私は彼を誘い出すことに成功すると、教室を出た。


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