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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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2

 

「良かったわね。それにしても二つ返事とは予想外じゃない?」


「そうなんだよ。じゃあ、日曜日に。みたいな」


「日曜日に何をするの?」



 週末の土曜日、私の家で宅飲みをしている。私の作ったお惣菜が酒のお供だ。



「分からない。大将曰く、自宅の横のスペースで店をするとかどうとか」


「大将の蕎麦なら、行列が出来るお店になるんじゃない?」



 それは間違いないだろう。テツ君は北京飯店を切り盛りしないといけない。現実問題として、私の弟子入りは、大将にとって渡りに舟だったのかもしれない。



「仕事は辞めるよ。蓄えはそんなにないけど」


「いいじゃない。私があなたの支えになるわ」


「いっいや、こっちが支えなきゃいけない立場なのに」


「いいのよ。あなたは十分に私を愛してくれたもの。今度は私が力になる番よ」



 大将の蕎麦屋で働くといっても、先立つものはもちろんいる。今の給料より少なくなるのは当たり前だし、その覚悟も込みで弟子入りしたわけだから──。



「とにかく、二人で住みましょう。その方が経済的だし」


「……」


「あなたは、大将の全てを学ぶ事だけに集中して」


「あっ、ありがとう……」


「実はね、私もウキウキしてるの。将来、あなたとお店なんて持てたら最高だろうなって」



 同じ事を考えていた。蕎麦屋と言っても大将の事だし、知らない間にメニューが増えていくはずだ。将来、お店を出すなら色々な料理を手がけられる事はプラスでしかない。



「頑張るよ。将来の為に」


「将来もだけど、まずは楽しんでね。それが一番だから」



 私は缶チューハイを飲み干し、彼女の手を握った。



「ありがとう」


「いいのよ。それと、このエビチリ美味しい!」



 人生、何処でどうなるか分からない。ただ一つだけ言える事は、決断するのはいつも自分自身。もうこんな歳だし、全くやった事もない分野だし、とか、やらないでよい為の言い訳を捨てよう。



 未来は、自分で切り開いていくものだから。

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