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勢いで返事してしまったが、私はこの“ひじき”というものがあまり得意ではない。どちらかと言うと、苦手な部類かもしれない。まず見た目が苦手である。黒くて細いから、髭を連想してしまうので口の中に入れる事を躊躇してしまう。食べた事はもちろんある。コンビニ弁当の脇に添えらているものであったり、和食屋さんの幕の内御膳の小鉢であったり。こちらが求めていなくても、食べなければいけない状況は結構存在していて、それ以外で食す事は絶対と言っていいほどない。
「はいよ。これ先に食べて待っててね」
「あっありがとうございます」
六角形の小鉢にそこそこの量が盛られていた。私はそれを目にした時、若干の違和感を覚えた。それは何かと言うと、ひじきの色がやや茶色で、少し太い気がした。ひじきと言えば、黒くて、針金とまではいかないが、細く短いもので、申し訳ない程度に入っている人参と油揚げ、そんなイメージだった。だが、これは違う。全く別物とまでは言わないが、今までに見た事がないひじきだ。
私はお箸でその太いひじきを掴み、口の中に運んだ。
『うっ美味いっ!』
私は小鉢を口に付けて、お箸で流し込むようにして食べた。
「美味いよ。なんで?』
大将が作ったからだろうか──既に私の中で神格化された大将の料理だから、美味く感じたのかと思ったが、どうやら違う。本当に美味い。まず、あの嫌な舌触りが皆無だ。そして、独特の海の香りもするにはするが、とても味わい深い。ひじきと同じぐらいの大きさに切られたこんにゃくがまた良い。今度、彼女に作り方を聞いてみようと思った。
ひじき──古くから『ひじきを食べると長生きする』と言われており、敬老の日にちなんで9月15日は『ひじきの日』となっている。
近いうちお願いしようと思っていた。大将に自分の思いを伝えようと──。お店が終わる時間を見計らって、土下座でも何でもしようと思っていた。そう思っていたが、この千載一遇のチャンスに尻込みしていた。二人しかいないこの状況だが、心の整理がついていない。時間は待ってはくれない。それは分かっている。分かっているけれど、『弟子にしてください』の一言が言えない。仮に言えたとして、『こいつ、何言ってんだ』と思われるに違いないし、営業中だから、仕事の邪魔をしてはいけない。言い訳ばかりが後から泉のごとく湧いてくる。だが、気持ちは変わらないし、考え抜いた結論だ。彼女にも自分の考えは伝えた。一瞬、間があったが直ぐに応援するし、力になりたいとまで言ってくれた。断られても、何度でもお願いする覚悟も出来ている。だが、まさかテツ君がいなくて、大将と二人というシュチュエーションは想像もしなかった。
「はいよ。中華丼ね」




