表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
85/88

2

 

 勢いで返事してしまったが、私はこの“ひじき”というものがあまり得意ではない。どちらかと言うと、苦手な部類かもしれない。まず見た目が苦手である。黒くて細いから、髭を連想してしまうので口の中に入れる事を躊躇してしまう。食べた事はもちろんある。コンビニ弁当の脇に添えらているものであったり、和食屋さんの幕の内御膳の小鉢であったり。こちらが求めていなくても、食べなければいけない状況は結構存在していて、それ以外で食す事は絶対と言っていいほどない。



「はいよ。これ先に食べて待っててね」


「あっありがとうございます」



 六角形の小鉢にそこそこの量が盛られていた。私はそれを目にした時、若干の違和感を覚えた。それは何かと言うと、ひじきの色がやや茶色で、少し太い気がした。ひじきと言えば、黒くて、針金とまではいかないが、細く短いもので、申し訳ない程度に入っている人参と油揚げ、そんなイメージだった。だが、これは違う。全く別物とまでは言わないが、今までに見た事がないひじきだ。



 私はお箸でその太いひじきを掴み、口の中に運んだ。



『うっ美味いっ!』



 私は小鉢を口に付けて、お箸で流し込むようにして食べた。



「美味いよ。なんで?』



 大将が作ったからだろうか──既に私の中で神格化された大将の料理だから、美味く感じたのかと思ったが、どうやら違う。本当に美味い。まず、あの嫌な舌触りが皆無だ。そして、独特の海の香りもするにはするが、とても味わい深い。ひじきと同じぐらいの大きさに切られたこんにゃくがまた良い。今度、彼女に作り方を聞いてみようと思った。



 ひじき──古くから『ひじきを食べると長生きする』と言われており、敬老の日にちなんで9月15日は『ひじきの日』となっている。



 近いうちお願いしようと思っていた。大将に自分の思いを伝えようと──。お店が終わる時間を見計らって、土下座でも何でもしようと思っていた。そう思っていたが、この千載一遇のチャンスに尻込みしていた。二人しかいないこの状況だが、心の整理がついていない。時間は待ってはくれない。それは分かっている。分かっているけれど、『弟子にしてください』の一言が言えない。仮に言えたとして、『こいつ、何言ってんだ』と思われるに違いないし、営業中だから、仕事の邪魔をしてはいけない。言い訳ばかりが後から泉のごとく湧いてくる。だが、気持ちは変わらないし、考え抜いた結論だ。彼女にも自分の考えは伝えた。一瞬、間があったが直ぐに応援するし、力になりたいとまで言ってくれた。断られても、何度でもお願いする覚悟も出来ている。だが、まさかテツ君がいなくて、大将と二人というシュチュエーションは想像もしなかった。



「はいよ。中華丼ね」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ