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目の前にいつものラグビーボール状のお皿にゴロンとしたエビが七つ盛られている。ケチャップを薄めたような色の餡が食欲をそそる。グリーンピースが3つほど中央に飾られている。
「見た目100点すね。絵に描いたようなエビチリ」
「これですね。グリーンピースがあるとないとでは全然違いますから」
立ち込める湯気でごはんを食べられてしまうほどだ。下にちぎったレタスが散りばめられている。
「お好みでどうぞ」
若大将のアジフライに赤いソースのようなものが出された。
「それは何ですか?」
「梅肉ソースですね」
「それ、合いそうですね」
「すいません。メインのソースを出し忘れました」
「ありがとう」
梅肉ソースともう一つ小皿が出された。
「タルタルっすか?」
「ダブルで来ましたね」
ラグビーボール状の銀の皿に大きなアジフライが3尾。高く盛られた千切りキャベツに、いつものマカロニサラダだ。
「すいません。お味噌汁です」
「ありがとう」
「今日はお麩とワカメです」
コンプリートされたアジフライ定食見て、後悔の波が押し寄せたが、このエビチリも決して負けてはいない。
「お好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
何故だか分からないが、いつもの小皿が出された。中にはマヨネーズが入っている。おそらく、テツ君は私をマヨラーと思っているのかもしれない。普通、エビチリを頼んでもマヨネーズは出てこないはずだから。
「いいですね。味変できますね」
若大将がマヨネーズを出された事に対して驚いていない様子だった。むしろ、『それ最高の食べ方です』と言わんばかりの笑顔でこちらを見ている。
「エビとマヨネーズの相性は最高ですよ」
「テツ君、私をマヨラーと思ってる?」
「はい。生粋の。でも、エビチリにはマヨネーズです。邪道ですけど」
確かに邪道である。成立しているところに、余計なもの足すのだから。
「その邪道から学ぶ事は沢山ありましてね」
「そうなんですね。昔は醤油と塩ぐらいしかなかったですもんね」
若大将も邪道から色々な工夫をされてきたんだろう。言葉に説得力を感じた。
日替わり定食700円、エビチリとライス800円、ニ品とも凄いボリュームにも関わらず、相変わらずの値段設定である。
「いただきます」
「いただきます」
こんがりと狐色に揚がったアジフライを横目に、エビチリを口の中に入れた。
「うっ美味いっ!」
熱々のエビを噛んだ瞬間、押し返されるんじゃないかというぐらいの弾力、そして、少しピリ辛が後を引く美味さである。
「美味しいです。とても美味しい」
若大将は、何もつけずにアジフライを食べていた。
「このパン粉、風味が良いね」
「ありがとうございます。少しだけフランスパンを砕いたものを混ぜてます」
「大将が?」
「そうですね。使ってみたら美味しかったみたいで」
「……。敵わないな」




