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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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3

 

 目の前にいつものラグビーボール状のお皿にゴロンとしたエビが七つ盛られている。ケチャップを薄めたような色の餡が食欲をそそる。グリーンピースが3つほど中央に飾られている。



「見た目100点すね。絵に描いたようなエビチリ」


「これですね。グリーンピースがあるとないとでは全然違いますから」


 立ち込める湯気でごはんを食べられてしまうほどだ。下にちぎったレタスが散りばめられている。



「お好みでどうぞ」



 若大将のアジフライに赤いソースのようなものが出された。



「それは何ですか?」


「梅肉ソースですね」


「それ、合いそうですね」


「すいません。メインのソースを出し忘れました」


「ありがとう」


 梅肉ソースともう一つ小皿が出された。



「タルタルっすか?」


「ダブルで来ましたね」



 ラグビーボール状の銀の皿に大きなアジフライが3尾。高く盛られた千切りキャベツに、いつものマカロニサラダだ。



「すいません。お味噌汁です」


「ありがとう」


「今日はお麩とワカメです」



 コンプリートされたアジフライ定食見て、後悔の波が押し寄せたが、このエビチリも決して負けてはいない。



「お好みでどうぞ」


「ありがとうございます」


 何故だか分からないが、いつもの小皿が出された。中にはマヨネーズが入っている。おそらく、テツ君は私をマヨラーと思っているのかもしれない。普通、エビチリを頼んでもマヨネーズは出てこないはずだから。



「いいですね。味変できますね」



 若大将がマヨネーズを出された事に対して驚いていない様子だった。むしろ、『それ最高の食べ方です』と言わんばかりの笑顔でこちらを見ている。



「エビとマヨネーズの相性は最高ですよ」


「テツ君、私をマヨラーと思ってる?」


「はい。生粋の。でも、エビチリにはマヨネーズです。邪道ですけど」



 確かに邪道である。成立しているところに、余計なもの足すのだから。



「その邪道から学ぶ事は沢山ありましてね」


「そうなんですね。昔は醤油と塩ぐらいしかなかったですもんね」



 若大将も邪道から色々な工夫をされてきたんだろう。言葉に説得力を感じた。



 日替わり定食700円、エビチリとライス800円、ニ品とも凄いボリュームにも関わらず、相変わらずの値段設定である。



「いただきます」


「いただきます」


 こんがりと狐色に揚がったアジフライを横目に、エビチリを口の中に入れた。



「うっ美味いっ!」



 熱々のエビを噛んだ瞬間、押し返されるんじゃないかというぐらいの弾力、そして、少しピリ辛が後を引く美味さである。



「美味しいです。とても美味しい」



 若大将は、何もつけずにアジフライを食べていた。



「このパン粉、風味が良いね」


「ありがとうございます。少しだけフランスパンを砕いたものを混ぜてます」


「大将が?」


「そうですね。使ってみたら美味しかったみたいで」


「……。敵わないな」







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