表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
8/88

3

 

「後ろから失礼します。餃子2人前です」



 弟子のテツ君がラグビーボールの型をした白いお皿を私達の間に置いた。お酒の淵に赤色で“北京飯店”と書かれてある。少し色褪せているが、しっかり読める程度だ。一つのお皿に餃子が2人前盛られており、表面がパリパリで、こんがりと狐色に仕上がっている。



「美味しそう!」


「お嬢さん、美味しそうではなくて美味しいんだよ」


「ごめんなさい。見るからに美味しそうですね」


「前からごめんよ。炒飯ね」



 大将が、私の彼女に話し掛けた。初めて来る彼女にだ。私はショックだった。3年も通っているのに、ほぼ『いらっしゃい』と、『はいよ』と、『ありがとうございました』しか言われた事がないのに──。



 大将が、私達の前に炒飯を置いた。小さなスープ付きだ。このスープがたまらない。ネギしか入っていない透明のスープだが、これがとんでもなく良い仕事をしてくれる。



「炒飯もすごく美味しそう」


「そうだね。綺麗なドーム型だ」



 ドームの頂上に、紅生姜が乗っかっている。卵とロースハム、そして、青ネギ、たったそれだけの具材だが、まさに芸術品だ。少し醤油の焦げたような香りが食欲をそそる。



 炒飯も店によって個性がある。私が子供の頃に行った中華屋では、福神漬けとらっきょうが添えられていた。あと、グリンピースが数個乗っている炒飯も好きだ。個人的なこだわりとして、刻んだ玉ねぎが具材として使われているのはちょっと苦手だ。別に玉ねぎが嫌いな訳ではない。それは炒飯ではなく、ピラフなんじゃないかと思うからだ。炒飯とピラフは似ているが、私の中では全く違うものだ。



「いただきます!」


「いただきます!」



 彼女は、2列にならんだ餃子の一番端を箸で掴み、そのまま餃子のタレにダイブさせた。



「何これっ! すごい美味しい!」



 彼女は私の肩を数回叩いた。本当に美味しい時のリアクションだ。とりあえず、スープからいこうと思ったが、餃子からいただく事にした。



「うっ美味いっ!」


「噛んだらジュワッて汁があふれるでてくるよね」




 こんなに美味い餃子を何故今まで注文しなかったのか──最初のパリッとした食感から、溢れ出す具材のエキス。とてつもなく熱いが、それよりも美味さが勝ってしまい、そのまま全て放り込んでしまった。当然、吐き出してしまいそうなほど熱いが、ハフハフと言いながらこの最高のひとときを堪能した。そして、あと5つもそれが残っている幸せたるや。



「こんなに美味しい餃子食べた事ないけど」


「辣油もうちょっといる?」



 辛いのは得意ではないが、この辣油は好きだ。タレの表面積を軽く覆うぐらい辣油を垂らしたいが控えた。もう40代も後半に差し掛かかろうとしている。健康診断もすこぶる良かった訳じゃないし、自分で管理しないといけない。例えば、私は漬物が好きで、毎日のように食べている。特に古漬けが好きで、醤油をたっぷりつけて食べていたが、それもやめた。とにかく余計な塩分等を摂取しないように心がけている。ふりかけも大好きだが、これも余計だ。味気ないが、仕方のない事だと諦めている。



 私はプッシュタイプの辣油を彼女の皿に数滴垂らした。



「ありがとう! そうそう、この間美味しい餃子の食べ方をテレビでやってたよ」


「どんなの?」


「何かね、お酢に胡椒をふって食べるの」


「えっ? お酢に胡椒?」


「みんな美味しいって言ってた」



 私は、目の前に並んでいる調味料を見た。



「胡椒とお酢ありますが」


「やってみる?」


「チャレンジャーだね。せっかくだし、やってみるか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ